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俺(40歳成人男性)が魔法少女に?!  作者: 桃地公多浪


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第17話 行き着く先

「君が彼女を呼ばないのなら、私が迎えにいく! どこの学校なのかも分かっているからね!」


 いやいや、俺が言ってもアウトなんですか。


「そんなのってアリかよ!!」


 また、部長室にいた。

 解決したと思ったのに、最後の俺の独り言が悪かったのか?

 

「も――ッ! ちくしょ――!!」


 俺はもう1回、部長に先制攻撃を食らわすことにした。


   ●


 やっぱりダメだった。 

 今度は部屋に流れ込んできた社員に呟かれて、やり直しになってしまった。

 何度やっても、何やっても、誰かに「残念」と言われ、またここに戻ってきてしまう。

 全然わからない。俺の何がいけないって言うんだ。

 何かを犠牲にしないと一方を助けられないのだから、せめて最小限の損害で済むように努力しているんじゃないか。

 なのに、元凶の部長を倒してもダメ。舞ちゃんの代わりを用意してもダメ。部長が既遂でも未遂でもダメで、部長を放置して舞ちゃんを助けに行ってもダメ。先制攻撃もダメ。

 どうしろって言うんだ。

 そもそも、舞ちゃんは服は乱れてても、それ以上何かされたわけじゃない。俺が助けにいかなくてもすぐに警察が来るし、別に良かったんじゃないか?

 そう思うと、俺がこんな苦労することになったのは、俺の勘違いから始まったということで、なんだか馬鹿馬鹿しく感じた。

 今となっては、どうすればこのループが終わるのかと、それだけを考えている。


「分からねぇ……。これで10数回目か……」


 しかし、答えは見つからない。

 いっそ何もしなければ良いんじゃないかと思い、全然関係のないパチンコ屋に走ってもみたが、店員から脈絡なく「残念です」とつぶやかれて戻ってきてしまった。

 もう何をどうしてもダメだ。

 終わらないこの日はいつまで続くのだろうか。

 なら……。


「どうせやり直すんだから……思い切っていくか」


 5回目の時と同じく、俺は部長を無視して舞ちゃんのいる中学校へ走った。

 そして、クラスから舞ちゃんを連れ出す。案の定、舞ちゃんは踏みとどまり、俺の手を振り払った。

 知っている。君は、前もそうやって拒絶した。

 俺がどんな気持ちでここに来たのか、自分を省みず行動してきたのか、知りもせずに。


「た、田中さん……! ダメです!」

「なにがダメなの」


 静かな口調で訊いた。

 心底どうしたらいいのか分からなかった。

 全部、君のためにやっているのに、君は許してくれない。


「教えてくれ。どうしたらいいのかなぁ」


 それは本心だった。


「あ、あの……。私……」


 舞ちゃんの目が泳ぐ。

 その様子だと、舞ちゃんにも答えはないと察する。

 君自身が答えを知らないのなら、俺にはどうしようもないじゃないか。


「ここ、学校ですし……いきなり来られて、その……困ります」

「そう、だよね。こんな格好で、何の説明もなしに来られたら、そうだよね」


 でも、詳しく説明したら、もしかしたら答えてくれるかもしれないと思って、話すことにした。

 今回がまたダメでも、次に生かすことができるかもしれない。


「部長が君をさらいにくる。君は、部長に酷い目にあうんだ。僕はそれを防ごうと、君を逃がしにきたんだ」

「部長、ですか……?」


 明らかな困惑の表情だった。

 

「田中さん、あの、私。私ね、田中さんには感謝しているんです」


 困惑のうえに、作り笑いを浮かべる。

 そんな顔さえ可愛らしいが、無理をさせてしまっているのだと覚る。


「う、嘘だとは思ってません。でも、ホント。こういうのは困るんです」


 遠慮しながら、しかしきっぱりと、舞ちゃんは断った。まるで痴漢された少女が精一杯の勇気で声を上げるように、言葉を選んで、振り絞るように。

 確かに、今の段階では本当に危険が迫ってるのかわからないし、この状況ではおっさん1人が押しかけてきて、騒いでいるだけだもんね。


「そうだよね……君にとっての僕は、ついこの前会ったばかりの、魔法少女だもんね……」

「え……?」


 どういうこと? と、その目が言っていた。


「でもダメなんだよ……。これじゃあ、また戻ってしまう」

「……戻る?」

「僕は君のために、何回こんなことやってると思ってるの? こんなに頑張ってるのに、誰も分かってくれない」


 不安げな表情をする彼女が、俺の話について行けてないのは理解していた。

 しかし、溜め続けてきた気持ちを吐露したら、もう止まらなくなった。


「ぼ、僕ね。未来から来たんだよ。舞ちゃんが部長が襲われないように、それを防ぎにきたの。……はは、何言ってるのかわけ分からないよね。気持ち悪いよね」


 彼女は一歩、後ずさった。

 なんで距離を置くの。どうして、異物を見るような目をするの。

 俺の言ってること、そんなに難しかったかな?

 せっかく勇気を出して伝えたのに、そんな引きつった顔で、そんな怯えた目で見られるくらいなら、いっそのこと……。


「どうせやり直すんだから……1回くらい、好きにしたって……いいよね」 

「た、田中さん? 大丈夫?」

 

 拒絶しておきながら、そうして心配してくれようとする。

 君のそういうところが駄目なんだ。ただでさえ名前も年齢も塾帰りという設定も、アニメの舞ちゃんと同じなのに、俺の名前を呼んで、褒めて……でも、大事なところで俺を信じてくれない。俺の気持ちを分かってくれない。


「わっ! なんですか!」


 もうどうなったっていい。俺がループしたら、君にとっては全て無かったことになる。それなら、1回くらい好きにしたって良いだろ。ここまでずっと、君のために頑張ってきたんだから。

 そう、これは頑張ってきた俺へのご褒美だ。せめて1回くらい、良い思いをさせてくれたって良いだろう。魔法少女になってから、ずっと苦労ばかりだったんだ。

 俺は、舞ちゃんの襟をつかんで、壁際に追いやった。


「舞ちゃん! 俺のこと、どう思ってるの! 俺はね、舞ちゃんのこと、好き――!」

「は、え……! ええ!」


 突然の告白に、やはり舞ちゃんは狼狽した。


「ずっと応援してきたんだよ! ここまで、君のために頑張ってきたんだ! チューくらいしてくれたって良いじゃないか!」 


 覇気迫る俺に、彼女は完全に気圧されていた。

 また、そんな顔をする……。

 もういい。このまま押し込んで、舞ちゃんを好きにして、またやり直そう。今度は、うまくやるんだ。


「頼む! パンツだけでも見せてくれ! せめて――」

「いや――ッ!!」


 俺がそう心に決め、舞ちゃんが悲鳴をあげたその時、俺を後ろから複数人の男性教師が羽交い締めにしてきた。

 簡単に、舞ちゃんから引き離される。

 嫌だ。まだ、終わりたくない。


「こいつ、大人しくしろ!」

「生徒から離れろ!」


 男性教師の怒声。

 6人もいる。いつの間に、どこから出てきたんだ。それよりも、変身しているのに、なんで俺が押し負けているんだ。

 そう困惑しているうちに、数の力には勝てず、俺は地面に抑え込まれてしまった。


「くそ! もういい! またやり直すさ! はいはい、残念残念! もういいです!」


 自分で言ってもやり直しになったのだから、これでループするだろう。

 また部長室からやり直し。今度はどうしようか。部長に先制攻撃を食らわしてから、職場をめちゃくちゃにしてみようか。魔力を高めるために必死だった俺の気持ちも知らず、白い目で見てきた奴らに復讐するのもアリだな。どうせ、また元に戻ることなんだし、ストレス発散くらいいいよね。

 ……そう思った。しかし、


「あれ? 戻ってない……?」


 周囲に変化は見られなかった。

 俺は焦った。このままやり直せず、時が進んでしまったら、俺はどうなってしまうんだ。

 

「おいおい、なんだよ! 残念! 残念なの!! ほら、誰か俺に残念って言ってくれよ!!」


 俺の意味不明な懇願に、男性教師達は訝しんだ。


「何言ってやがる! 確かに、お前は残念なやつだよ!」

「あぁ、みっともない」


 よし。これで大丈夫。今度こそループするだろ。

 他から残念と言われたなら、今までと同じ条件のはずだ。

 ……が、変わらない。


「あれ! なんで! 全然戻らないんだけど!!」


 俺は半べそをかきながら叫んだ。

 ここに来て、今までと様子が違う。

 そんなの困る。戻ると思ったから、こんな事をしたのに。もし戻ってくれなかったら、俺は自分の思っていたことすら叶えられず、あげく舞ちゃんに嫌われてしまって、何も残らないじゃないか。


「こんな仕打ちあるかよ! おい淫獣! ザビエルだかニコライ! 出てこいお前ら!! 俺を戻せ! 戻せよ!!」


 地面に突っ伏す俺の目の前に、白いリスが現れた。

 なんだ、いるじゃないか。もっと早くに出てこいよ。


「そうだ、お前だよ! なんか様子がおかしい。後で話は聞くから、何とかしろ! やり直させてくれ!」

「はぁ……」

 

 は? こいつ、今、俺にため息ついた? 

 

「大二郎。君には、残念だよ」 


   ●


 俺は、部長を倒していた。

 部長は通勤途中で、油断していたらしい。

 後ろから先制攻撃をしたら、呆気なくやられた。

 魔法少女に変身するまでもなく、俺だけの力で、部長を退治することができた。

 俺を何度も悩ました部長。舞ちゃんを苦しめた部長。元凶がいなくやったことで、全てが解決した。

 通勤ラッシュの駅構内。大勢の悲鳴があがる。

 喧騒の中、スーツ姿の俺は目立つことなく、目撃者の1人としてそこに馴染んでいた。そして、目的を達成した今、そっとその場から離れる。


「電車にひかれたって!」

「誰かが押したんじゃないの」

「うわっ、血が飛んでる……向かい側のホームだとえぐそう……」


 場は、人の好奇心と恐怖に支配されていた。

 スマートフォンで写真撮影をしている人。通報している人。友達と騒ぎ合っている人。惨状を目の当たりにし、具合が悪くなってる人や、逃げまどう人。

 俺の目には、ほとんどが野次馬に見えた。

 自分の身に降りかからない出来事には、好き放題な感想が言えるし、それが珍しいことならすぐにスマートフォンで写真を撮ろうとする。

 その光景は気に障るが、俺から注意がそれることは好都合に違いないので、俺は会社に電話をするフリをしながら、駅を出た。

 よし。これで舞ちゃんの無事は確保された。俺はこれから、舞ちゃんと円満な魔法少女ライフを楽しむんだ。何度も大変な思いをしたが、こうすれば部長から残念と言われることもないし、犯人がバレない限り周囲にも言われることはない。

 舞ちゃん。さっそく、一緒に悪魔退治へ出かけよう。

 そう思って、俺はいつも舞ちゃんが通る通学路に来た。だいたいこの時間に、あの子はこの公園前の道を通る。

 少し待ち伏せしていると、案の定、舞ちゃんは現れた。


「舞ちゃん。悪魔が出てるみたいだから、一緒に退治しにいこう」


 しかし、俺の姿を見た舞ちゃんは硬直し、みるみるうちに顔が青ざめていった。

 なんだか、舞ちゃんの様子がおかしい。

 彼女の怯えた眼差しは、俺に向けられたものなのか?

 何が起きているのか分からず、俺は混乱した。


「どうしたの? 魔法少女同士、頑張るって約束したじゃないか」


 確か、いつの時か、舞ちゃんはそんな目をした気がする。

 学校に押しかけて、逃げようと言った時だったか。壁に追いやって、告白をした時だったか。

 だがあれは、俺がループしたことで無かったことになったはずだ。彼女は何も知らないはずなのに、この怯えようは尋常じゃない。

 よく見れば、舞ちゃんは震えていた。身がすくんで、声も出ない様子だった。

 ふと、初めて一緒に悪魔退治に行ったときのことを思い出した。あの時も、俺の後ろに隠れた舞ちゃんは震えていて、動けなくなっていた。

 なんだよ。これじゃあ、まるで俺が悪魔みたいじゃないか。


「ねぇ、本当にどうしたの?」


 心配のあまり、俺は彼女に歩み寄ろうと思った。

 だが、俺が一歩踏み出すと、彼女は後ずさった。


「え? どうして?」


 それが拒絶だと、言葉がなくても分かった。

 まだ、何もしてないのに……なんで。


「俺、こんなに君のために頑張ってきたんだよ。ねぇ、今回は俺の何がいけなかったの?」


 こうやって理由を訊ねても、やはり彼女は答えない。

 必死に首を横に振るだけだった。


「教えてくれないと分からないよね。君がそうだから、こんなに苦労する羽目にもなったんだよ? これじゃあ、また駄目なまま次にいっちゃうよ」


 彼女の反応は変わらない。そのうち、大きく息を吸い込んで、精一杯の声を上げた。


「なんなんですか、あなた! もうホント嫌なんです! やめてください!!」

「やめてって……だから、何が駄目なんだよ」


 俺は思わず、舞ちゃんの肩を掴んでいた。


「俺のどこがいけないの! ねぇ! 言ってくれななきゃ分からないよ! 舞ちゃん!!」


 気がついたら、彼女の首に両手をかけていた。細くて、温かくて、いい匂いがする。


「もう無理! 嫌――ッ!!」


 目に涙を浮かべながら、必死の拒絶。

 ますます意味が分からなかった。

 俺がうろたえていると、騒ぎを聞きつけた大人たちが現れ、俺を舞ちゃんから引きはがした。

 そして、彼女を守るかのように取り囲み、俺を睨む。


「もう大丈夫だよ。警察呼ぶからね」

「あんた、こんな子供相手に何考えてんの!」


 だから、おかしいだろ。

 俺は舞ちゃんと仲間なんだぞ。

 何も知らないくせに、無駄に偽善者ぶりやがって。そんな誤解を招くような言い方はやめろ。

 無責任な大人たちに、俺は怒りを覚えた。


「な、なんだよ! まだ何もしてないじゃないか!」


 そこに、またしても警察が現れ、俺の肩を叩いた。住民に代わって、俺をさらに強い力で抑え込む。


「また君か。もう、こんな事はしないって言ったよね? いい歳して、こんな子供に付き纏って……。いい加減にしなさいよ」

「は?」


 付き纏う? 俺が?

 そんな犯罪者みたいに言うんじゃない。

 俺が本気を出したら、警察だろうが何だろうが一撃なんだぞ。

 いっそのこと、ここで俺の力を見せてやろうか。


「ストーカーとでも言いたいんですか? 俺が?」

「そうだよ。これで何回目かな。自分で分からないのか?」


 馬鹿にするな。

 俺は課長で、皆を悪魔から守る魔法少女だぞ。


「接近禁止だって出ている。君は、またルールを破ったんだ」

「……ふ、ふざけるな!」

 

 あまりに一方的な話に、俺は警察官に掴みかかろうとした。

 だが格闘経験としても、力差からも、俺にできることは足をバタつかせるだけで、無抵抗に等しかった。


「俺が本気になったら、こんなはずじゃないぞ! 俺は魔法少女なんだ!」

「まだそんなこと言っているのか! スーツの下にも、こんなものを着て……」


 めくれたワイシャツの下にあった、俺のアンダーアーマー。女の子用の下着を見て、警察官は軽蔑の言葉を吐いた。


「うるさい! 魔力のためには仕方ないんだよ!」


 そんなことより、俺はさっさと変身して、こいつらを一発殴りたい。そして、またやり直して、次はどうすればいいか作戦を練ろう。

 そう思って、俺は魔力を込め、「変身!」と叫んだ。

 が、俺はスーツ姿のまま、全身を光が纏うこともなく、何も変わらなかった。


「あれ……? なんで? 分かった分かった! じゃあ、残念でした! もうこれ詰みました、どうにもできません! 残念!」


 慌ててループに入ろうとするも、それもかなわない。


「さっきから何を言っている。残念残念うるさいよ」

 

 よし、警察官にも残念と言わせたぞ。

 これでループするはずだ。


「とりあえず、この人は逮捕しますんで。怖かったね、もう大丈夫だからね」

「警察官さんがすぐ来てくれてよかった! とりあえず親御さんに連絡しようか。迎えに来てもらおうね」


 しかし、部長室に戻れず、周囲の会話は続いた。

 冗談じゃない。意味も分からず、このまま戻れもしなかったら、俺はただの犯罪者で終わってしまうじゃないか。

 そうなったら、舞ちゃんに会えなくなる。それは嫌だ。


「おい淫獣! 出てこい! ふざけるなよ!!」


 俺はまたあいつを呼ぶことにした。

 どうせ近くにいるんだろう。前も呼んだらすぐに出てきた。

 案の定、淫獣は俺の目の前に現れた。

 警察官に取り押さえられ、地面に突っ伏す俺を見下ろすように、そいつは目の前に立った。


「おい戻せ! 早く!!」

「はぁ……」

 

 こいつ、俺にため息しやがった?

 どこか、いつの時かの光景を思い出した。


「大二郎。君には残念だよ」


 よし。これで戻れるだろう。前もそうだった。

 3度目の正直で、俺はループを確信した。

 しかし、淫獣の言葉は続く。


「君は、同じことを繰り返すんだね。結局、こうなる。何度やっても、君は君のままだ」


 悟ったように、それは今までの口調と違っていた。


「ふざけるな! お前たちが俺をこうしたんだろ! 俺がやらなきゃ誰が舞ちゃんを守った?! 何回も何回も、そのために頑張ってきたんだ!」


 知った風に言う淫獣に、俺は心底腹が立った。

 お前たちがろくな説明もせず、俺を、部長を、舞ちゃんを、魔法少女にしたんだ。そのせいで、今、皆こうなっているんだぞ。


「俺が何もしなかったら舞ちゃんは無事だったのか! 部長に襲われる未来しかなかったじゃないか! 誰も部長を止められやしない! 舞ちゃんも傷ついたままだ!」

「はぁ……」


 言葉の途中で、淫獣はまたため息をついた。


「いつも誰かのせい、周りが悪い。これは仕方がなくて、自分は被害者だ。……君のなかでは、いつもこればっかりだ」

「何が、言いたい?」

「なのに、誰も分かってくれない。周りが間違っているから、自分は悪くない。君は、そう言いたいんだよね?」

「なんの話をしてるんだよ……!」


 お前の話に付き合っていられないんだよ。

 いいから早く戻せ。このままだと、俺は逮捕されて連れて行かれるだろうが。

 

「そもそも、舞ちゃん舞ちゃんって言うけど、君はいま何歳かな? そこから変だと思わないかい? 君は、本当に間違ってこなかったかい?」


 俺が、間違っている……?

 確かに俺は万能ではないから、ここに来るまでの道中、全て正解を通ってきたとは言えないかもしれない。でも、それなりに頑張ってきた。

 俺の思いも知らないで、人間でもないお前に説教されたくない。


「うるさい! 俺がどんな気持ちで頑張ってきたのか、誰も気にもしないくせに! 結果が悪ければこれだ! ……でも、舞ちゃんは俺に優しかった!」


 舞ちゃんは俺を褒めてくれる。微笑みかけてくれる。心配してくれるし、応援してくれる。俺を頼ってくれる。 

 そして、アニメと同じように、彼女はひたむきで、意地らしい。声も、顔も、話し方も、変身した姿も、たまらなく俺のストライクだ。

 

「俺には舞ちゃんが必要で、舞ちゃんも俺が必要なんだ」

「……どうやら、何歳になっても、君の頭の中は子供のままなんだね。あれから15年経っても、まだそんなことを言う」

「15年……?」


 淫獣の含みのある言葉に、俺は頭痛がした。

 泣いている舞ちゃんに覆いかぶさる自分。誰もいない山中、冷えた空気に響く声。


 それは、頭の中にあった、忘れていた光景。 


 白い床と壁に、鉄格子が見える。いつも内側にいて、外から大人たちが見ている。腕が固定されて、猿ぐつわをはめられて、1日中なにもできず、ただ時間だけが過ぎる日々。たまに解放されるも、すぐに押さえつけられて、そこに戻される。あいつらが悪いのに、皆が俺を疑うんだ。


 それは、漏れ出てくる俺の記憶。

 

「君にとっては何ともなくても、君に傷つけられた人はずっと忘れない。その人達の前でも、法の前でも、君の理屈は通用しないんだ。そのことに向き合わない限り、君はずっとこのままなんだよ」


 俺しか知らないはずの出来事を、淫獣は見透かしたように話す。

 ……いや、こいつは知っているんだ。俺が今まで何をしてきたのか、こいつは見てきた。そのうえで、俺にこんな事を言っている。

 俺を諭すように、教育するように。軽蔑の念を微塵も見せず、更生の願いだけがあるかのように。

 さすが、先生なだけある。


「本当に、君は残念だよ」

 




 

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