第14話 1回目
目を開くと、なんだか寝起きのように意識がスッキリとしていた。
疲労も取れていて、身体も軽い。
酒を飲んで昏睡し、起きたら昼だったときのような感覚だった。
しかし、俺は布団のうえではなく、スーツを着て座っていた。
座りながら、部長室で、部長に叱られていた。
「田中君! 我々は魔法少女だ! 宇宙を守る使命があるんだ! そんな意識では困るよ!!」
聞き覚えのある台詞。
どこか冷静な気持ちで、目を真っ赤にして怒鳴る部長を見ていた。
「君が彼女を呼ばないのなら、私が迎えにいく! どこの学校なのかも分かっているからね!」
そこまで聞いて思い出した。
これはただの既視感ではない。実際にあったことだ。
俺はこの日、ここで部長に責められて、そして部長は舞ちゃんを連れ去りに向かった。
「あっ、部長! 駄目です!」
咄嗟に声を上げたが、部長は止まらなかった。
記憶の通り、窓を破壊して外へ飛んで出ていってしまった。
次に、騒音を聞きつけて社員が部長室に流れ込んでくる。
「やばい……」
このままいけば、同じことになる。
ざわつく社員には目もくれず、俺は部長を追いかけた。部長が出ていった窓から飛び降り、俺も変身する。
前と同じであれば、とにかく時間がない。俺は空を飛べないから、部長に追いつくには最速で最短で向かわないといけない。
自分が飛べるともう信じていない俺は、地面に着地をし、迷わず舞ちゃんの中学校に向かって走った。そこに無駄な動作はなかった、はず。
だが、どう足掻いても、俺は部長には追いつくことができなかった。
中学校へ着いた頃には、そこに部長の姿はもうなかった。
「2人目の変態だ!」
中学生からの罵声もよく覚えている。
だが、取り合っている暇はない。今はとにかく時間が惜しかった。
俺は一瞥をくれ、例の倉庫へと向かう。
「やぁ、大二郎。大変なことになったね」
途中、淫獣がまた俺に近づいてきて、舞ちゃんの視覚や聴覚の共有を提案してきた。
舞ちゃんの様子が気になった前回は、この提案を受け入れたが、今回はスピード重視。意識の妨げになると思って断った。
何より、舞ちゃんが辛い目に合うのは見たくない。俺自身、部長に顔を近づけられて囁かれるのは耐えられない。
果たして、倉庫には着いたが、またしてもそこには全裸で息をあげている部長と、乱れたブレザー姿で横たわる舞ちゃんがいた。
「あぁあ――ッ! またかよ!!」
どうやら、また間に合わなかったらしい。これだけ急いだのに、変わらなかった。
その無力感に、俺は声を上げて、また泣いた。
感情の勢いに任せて、部長に飛びかかる。
動きに迷いのない俺に、部長は一手遅れたらしい。直前で変身したが、掴みかかってきた俺に反撃することができず、そのまま壁まで押し込まれた。
「た、田中君!!」
「部長!! また、あんたって人は!」
「待ってくれ、私はまだ志半ばだよ」
部長の言い訳に耳を貸すつもりはない。
そんな格好で誰が信じるかよ。
俺は迷うことなく、部長を殴りつけた。何度も顔面を拳で、悪魔が相手の時のように、渾身の魔力を込めて、打ち込んだ。
そうしているうちに、ここでもやはり遅れて警察が倉庫に入ってきた。
もう何もかもが手遅れだ。こいつらの来るのが遅いから、こんなことになったんだ。
怒りの矛先が部長から警察に向きかけた時、前回と同じように、俺は複数人の警察官に取り押さえられた。
そこで気がついたが、部長はまた全裸になっていて、失神していた。
「何をしている! 警察だ! 動くな!!」
「未成年監禁の疑いで現行犯逮捕する! 大人しくしろ!」
また、同じ結末か……。前回と同く、無実の容疑で、俺は現行犯逮捕されるらしい。
俺はやってないって。やったのは部長なんだって。
ただ、前回と違うことが1つあった。
それは、犯人である部長が生きていること。
俺は間に合わなかったが、不本意にも、1人を救うことはできたらしい。
警察は全裸で横たわる部長を見ると、
「お前がやったんだな」
と、俺に新たな容疑をかけた。
無理もない。こんな状況では、俺が加害者にしか見えないだろう。現に、部長に関しては俺の仕業だ。
俺がパトカーに連行される途中、舞ちゃんと目が合った。
「舞ちゃん……俺、俺……っ」
「田中さん……」
俺は君を救いたかったのに、ごめんね。また、間に合わなかった。あの悪魔から、君を守れなかったよ。
怯えた目をする彼女を見て、思わず叫んだ。
「舞ちゃん! 待っててよ! 次こそは必ず……!」
警察に視界を遮られる間際、俺はふと疑問に思った。
舞ちゃんのブレザーやワイシャツは乱れているが、それだけだということに。俺が思う既遂であるなら、もっとこう、色々とどうにかなってそうなのに、それ以外はどうも無事に見える。
そして、部長の最後の言葉であり、見苦しい言い訳を思い出す。
志半ばってどういうこと……?
もしかして、俺は勘違いしていたのかもしれない。感情のまま部長を消し炭にして、ボコボコにして。またこうして勝手に絶望しているが、本当は初めてから、間に合っていたんじゃないか?
去り際、俺の背中に、意識を取り戻した部長がつぶやく。
「残念だよ、田中君」




