華こそないが
王国制式騎士団の主力とされるのは、実は騎士ではない。
騎士の指揮下で戦闘を行う兵士達である。
騎士と兵士が一対一で戦闘を行えば、高確率で騎士の圧勝となるが、
兵士は数が圧倒的である。一騎士は十二名の兵士を指揮している。
中には爵位持ちで兵士をやる変わり者もいるが、身分は大半が平民、
給金は一般の職業より少し高い程度だ。高いと見るか安いと見るか。
そんな兵士達は、人間よりも獣人が圧倒的に多く所属している。
彼ら獣人は別に獣頭人身という訳ではなく、容姿は人間と大差ない。
見た目の特徴として現れているのは、その耳と尻尾であろう。
脱ぐと分かるが、大抵は頭髪から背骨に沿って毛が生えており、
それが尻尾まで続いている。これはどの特性持ちでも共通している。
代わりと言っては何だが、何故か腋や局部には毛が生えていない。
腕や脚にも産毛程度で、下手すると毛深い人間より毛が薄い。
膂力や俊敏性、五感に優れており、ドワーフもエルフも敵わない。
だが体内魔素は人間の平民より少なく、寿命も人間よりやや短めだ。
体格最大は熊で、最小は猫。所属兵士として多いのは狼と犬。
彼らの体格はその特性によって大男と子供ほども差がある。
かつてはそれぞれの一族が王国領土内のあちこちに集落を持ち、
王国へ税は収めないが、町へも入らない隣人、といった存在だった。
王国へ帰属し、集落が自治領となり、税も収めるようになったのは、
主に王国の食糧事情や治安状況が向上したためである。
自分達で魔獣や害獣に対応するよりも、騎士団の方が安心出来る。
食料だって金品こそ必要だが、安定して入手が可能になる。
彼らにとっての煩わしさを利点が上回ったのだ。
先立つものがない彼らが手軽に稼ぐ、それが有り余る体力だった。
こうして騎士団の兵士募集に獣人が押し寄せる事となり、もう四年。
兵士募集からあぶれて文句を言う人間もいたが、割と少数派だった。
好き好んで荒事に飛び込む者は、あまり人間ではいないのだ。
◆
彼女、カササギも王国制式騎士団の兵士の一人である。
十五歳の猫耳獣人、第七騎士団に今年入団したばかりだ。
猫型のため体格と膂力には恵まれないが敏捷性と身軽さに優れる。
本日は騎士団の特殊訓練で試験中装備の高速機動靴を着用する。
使用感の確認と感想、最後に上司の騎士と模擬戦の予定だ。
体内魔素が少ない獣人でも容易に発動出来ると聞いたが、果たして。
高速機動靴を作動させ、まずは訓練場を走り回る。つもりが。
むしろ跳ね回るような感覚である。一歩のつもりが十歩以上。
気を抜くと転がって行きそうだが、この緊張感と高揚感は楽しい。
見学中の同僚からも感嘆の声が上がっている。早い早いと。
あっという間に訓練場を一周。普段の時間の何分の一だろうか。
興奮で疲労感が自分でも分からないが、魔素の消耗も少ないと思う。
次は垂直飛び。物見台へ跳んでみる。
猫の特性をもってしても無理だったのだが、楽々台の上に届いた。
これは面白い。斥候役が多かったが、これまで以上にこなせそうだ。
事前の情報ではこの高速機動靴、使用者の能力を伸ばすものだとか。
正に身軽さが売りのカササギの為に作られたような装備である。
最後は上司との模擬戦である。彼女は小剣ではなく短剣を使う。
膂力こそ人間よりあるが、彼女の体格では小剣は地面を擦るのだ。
仕方ない事だが、カササギとしては何とも悔しさを感じている。
今回、上司の騎士も強化魔術を全開で使う。旧装備でだが。
いざ試合が始まってみれば、上司は防戦一方に追い込まれた。
動きが早すぎて対応に追われる。それでも耐えるのは経験差からか。
結局時間切れで引き分けとなるが、カササギにとって大健闘である。
今まで軽くあしらわれていた相手をここまで追い詰められたのだ。
装備ありきなのは確かだが、これほど善戦出来るとは思わなかった。
本人ばかりではなく、同僚達も興奮しきり。これほどの性能とは。
上司と不仲という訳ではないが、カササギはにやけが止まらない。
この装備は聞き取りの後調整を経て正式採用になりそうだ。
他にも現在、何種類か元の獣人特性を伸ばす装備が開発中らしい。
あくまで仕事ではあるが、彼らの期待は膨らむ一方である。
獣頭人身もいますが、意思疎通が出来ないか難しいものばかり。
ミノタウロス(牛頭)とかナイトメア(馬頭)とか。
人頭獣身のマンティコアやヌエ等もいますが、そちらは魔獣扱いです。




