別れの日
この国に、礎を築いた最初の六人が居た。
一人目は暖かさを/親愛を
二人目は冷酷さ/真面目さを
三人目は強さ/意思を
四人目は弱さ/協調を
五人目は光/太陽を
六人目は闇/夜をもたらした。
世に生まれる人が増えるにつれ、彼等は『神』と呼ばれる存在にまで至った。
だが、その実態はただの人である。
後に生まれた、純粋な人間がそう呼び慕っただけ。特に力がある訳でもない、ただの人であった。
こんな平和な日々は長く続かなかった。
人である限り、終わりは必ず来てしまう。
一番手は、初めて生まれた争いに巻き込まれた。
燃え盛るかつての拠点で、ただ一人。誰よりもうるさかった彼は静かに死んで行った。
彼はアダマントルームでこう言った。
「まさか、俺が最初なんてな。俺にとっては名誉ある死でも、お前たちにはそういかないか」
「俺が死んでも、そう悲しまないでくれ。こっちまで寂しくなっちまうからな」
「心配せずとも、『また会える』さ」
そう言って"三人目"は扉を豪快に蹴破り、いつも通りに元気に消えていった。
二番手と三番手は、同じ場所、同じ時間に亡くなった。
暗い闇の中で、月夜の照明に照らされながら。
彼と彼女はアダマントルームでこう残した。
「私がいなくても」「僕が居なくても」
「ちゃんとできるか怪しいわね」「できるって信じてるよ」
「絶対絶対に」「運命に導かれるように」
「また、『会いましょう』」「うん。『またね』」
"五人目と六人目"は仲良く手を繋いで、いつもより沢山抱きしめあいながら消えていった。
四番手は、大勢の人に囲まれた。その中で自己を犠牲にして、最後まで優しいまま朽ちていった。
彼女はアダマントルームでこうカウンセリングした。
「置いていく側とは、こんな気持ちなんですね」
「こんなこと言ったらあれですが……良かったです。最後に残ったのが私じゃなくて。そして、残ったのかあなた達で」
「また、『会えたら』嬉しいです。それでは」
"四人目"は珍しくスキップをして、憧れだった踊りの真似をして華麗に消えていった。
そんなことがあって、はや数十年。
「もう、お別れの時間になってしまったか」
「そうだな。俺も、ここまでみたいだ」
残された二人は語り合う。
その人達は、今となっては神と呼ばれる存在である。
「良かったよ。最後まで仕事を真っ当できて」
「はは、そこか。てっきり、仕事をしない毒味に怒るのかと思ってたよ」
「それもあるが、達成感の方が大きいな」
彼はメガネを外して、大きく伸びをする。椅子に背中を預けて、満足気に口にした。
「毒を貰っても数時間耐えたんだ……久しぶりだよ、こんなに褒めて欲しいと思ったのは」
メガネをかけ直して、小さく笑った。彼の特徴的な八重歯が、彼である存在を際立たせる。
「私は褒めないよ。もう二度とこんなことして欲しくないからな」
「言われなくとも、二度目はない。このような事は繰り返さないし、そもそも先の人生ももう無い」
「……」
その言葉に、遺される者は眉を下げる。彼は別れが訪れる度に、必ずそんな顔をした。
「悲しい顔をするな。俺は、今までそんな顔しなかったぞ」
「そうだね。君はずっと真面目だったよ。今日はなんだか、気分が良いみたいだけど」
「確かに、どうしてだろうな。肩の荷がおりた、と言うやつか」
「っ、……」
その言葉に遺される者は少し反応した。バレない程度に眉間に皺を寄せ、何度も聞こうとした言葉を飲み込んだ。
「、っと。もう時間か」
秒針が十二になるのと同時に、体がキラキラと、足元から光り始める。
「最後に残すなんて、悪い事をした」
彼は席を立つ。この椅子も、置物へと変わってしまうのだろう。
「でも、不安になるな。必ず『また会える』からな」
そうして"二番目"は最後まで真面目に歩いて、消える際に律儀に扉を閉めていった。
そうすると暗くなるからやめろって、何度も言ったはずなのに。
「……うん。待ってるよ、ずっと」
彼は誰もいない空間の中で、永遠と呼べる時を、待ち続けた。
そうして一人残された者があり。
最初に生まれた"一番目"が、最後まで残ることになってしまった。
彼はかのような日を思い続け。ひたすらにそれを、待ち続けた。
時計の音だけが、静かに響く。
これは永遠の始まりである日の、断片的な終わりである。
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※この小説は連載中の記録『無題/日記』及び同じく更新予定中の小説らが終わったあとに開始されます。続きやラストが気になる方はメッセージを頂ければお答えします。




