4-10 中国人民解放軍のクーデター
これは間違って消去した作品の復活版です。
宜しくお願いします。
中国人民解放軍の苗少将42歳は、部下の将校8人と協議をしている。彼は中部戦区第3軍団の第2師団参謀長であり、師団長の陳中将は共産党幹部であった父の引きで昇進した無能であり、師団1万5千は実質苗少将が動かしている。
苗少将が手元のパソコンを覗き込みながら諜報担当の民上校に言う。
「ふむ、民上校、ため込んだ裏金のデータは集まったようだな」
「はい。苗閣下、ほぼ集まりました。やはりアメリカが2,650億ドル、それからスイスで2,200億ドル、さらに日本にイギリス、フランスその他で1,500億ドルというところです。ですから、あの頭の黒いネズミ共がため込んで海外の銀行に預けた金は計6,350億ドルということです。
それから、国内では7,000億元ですからドル換算では840億ドルです。これで、ほぼ90%以上は把握できていると思っています」
「ため込んだものですね。連中は碌に仕事をせずに、本当にこういう裏金を集めて隠すことだけは長けている」白中校が慨嘆するが、苗少将が薄く笑って言う。
「まあ、下らんことに使って無くなっているよりは良い。政権を取った時に6兆元は使いでがあるぞ」
「まったくですな。我々も軍人ですが、海軍に空軍、宇宙軍、第2砲兵と軍備にどれだけ注ぎ込んだのやら」今度は最も若い周中校が言い、若白髪の趙上校が応じる。
「ああ、しかし我々も必要とは思っていたからな。余り責められんものの、軍備は本当に役立たずになってしまった。まず第2砲兵の核ミサイル。核が無効化されるとはなあ。海軍の空母や戦闘艦。高空から岩を落とされるのみで負ける。空軍も宇宙に出入りできる重力エンジン機には全く敵わん。
ロケットで宇宙まで船を持ち上げる宇宙軍。これは重力エンジンの前にコストと運動性で話にならん」
苗少将がそれを聞いて苦笑して言う。
「ああ、その通り。我が国が莫大な財を投じて作ってきた兵器体系が全て陳腐化した。わが200万の人民解放軍は、宇宙を通ってやって来るGPFの僅か10数万の兵力に全く太刀打ちできない。これは冷徹な事実だ。だから、国連の言うように全ての国から軍を無くすというのは正解であろう。
しかし、わが軍に出来ることはないのか?ということで、今我々が集まっているわけだ」
指揮官の言葉に苦笑して、温和な顔の趙上校が言う。
「苗閣下、言われる通りですので、共感した我々が集まっている訳です。それで、閣下からあるいは黄中将殿の人脈もたどって、一通りの東、西、南、北、中央戦区に繋がりを付けました。いずれも解放軍の解散の話には不安と憤懣を持っております。
さらに、腐臭のする現執行部さらに、過去の収賄をないものにしている現政府にも大いに不満を持っています。つまり、世界情勢がこうなっている以上、痛みは仕方がないが手当なしは許さん。そして過去の腐敗のつけはどうにかしろ、と言うことですな。
それで、各戦区で兵を実際に動かせる連中の繋がりを付けました。トップは黄閣下、サブは苗閣下でGOがかかれば動きます。実動部隊のリストはこの通りです」
趙上校が、パソコンに打ち込んだリストをタブレットに表示し見せる。こうした情報は秘密保持のためにネットには載せない。その時、ノックの音がして、周中校がドアに駆け寄りそれを少し開けてみて、相手を確認し大きく開く。
「どうぞ、黄閣下」
「ああ、すまん。遅くなった」
戦区副司令官黄中将が現れた。中背で小太り、白髪の彼は59歳であり、嘗ては解放軍のトップになるだろうという程の逸材であった。しかし、前の主席の蘇に対して、アメリカや日本への敵対的な姿勢に反対して閑職に飛ばされ、現在の主席の朱によって戦区副司令官に返り咲いた形である。
現在の苗らの構想は、黄中将の示唆によって生まれたものである。また、実施に当たっては他の戦区との共同作戦が欠かせないが、黄の人脈なしには成り立たなかった。黄は、特に実際に軍を動かしている比較的若手の将校・将官から絶大な支持を集めているのだ。
苗が席を立って黄を迎えて、握手を求め乍ら言う。
「いや、丁度良かったです。最後のピースが嵌まったようです」
差し出した手を握り黄が応じ、部屋の者達を見渡す。
「うん、そうか。では、いよいよ決行だな」
その言葉に中の一同は深く頷く。その後、黄中将は座ってパソコンの金額を確認し、さらに各軍区の連絡先とメンバーのリストを確認する。その後、満足そうに大きく息をついて顔を挙げて皆を再度見渡して、しゃべり始める。
「うん、有難う。良くやってくれた。これだけの調査及び人に連絡を付けるのは大変だったと思う。
いい機会だから、ここで立ち上がった我々の、現状把握とそれを是正するための手段、その目指すところについて纏めておきたい。いいかな?」
その言葉に、皆が深く頷き聞こうと待ち構える。
「まず、我が中国は前任の蘇主席の時には経済が大いに伸びた。しかし、このことにより、いささか調子に乗りすぎ傲慢になってしまった。また、経済が伸びた大きな要因は、従来には値のついていなかった国有であった土地による。つまり、ゼロだったものに途方もない値が付くわけだから、GDPは当然伸びる。
そして、それに絡んで多大かつ無秩序なインフラ投資を行った。結果、数年で大きく伸びた高速道路、高速鉄道、人の少ない都市に作った多数の高層アパート群である。これには軍備もあるな、海軍の艦艇、空軍の戦闘機・攻撃機、第2砲兵の核ミサイルや宇宙軍の宇宙船などだ。
インフラは無駄なものもあるが、まあ生活を便利にするものでもある。ただ、先ほど挙げた軍の装備は、世界の軍事ドクトリンがドラスチックに変わったお陰で無用の長物と化した。また、我々が考える必要があるのは、作ったものは必ず補修・維持管理が必要であるということだ。
まして、残念ではあるが、我が国の工作物の品質がある。君らも兵器や機器の故障には悩まされてきたと思う。すでに、道路や高速鉄道では破損、故障が頻発してすでに使用に耐えないものも生じていると言う。それが、一時に大量に作ったものに一斉に起きるのだ。これらはすでに負の資産化しつつある。
そして、兵器も結果的にそうなったが、インフラも無駄なものが非常に多い。そして無駄でないものも品質が悪い。これらは作り、建設している時にはGDPのプラスとして現れる。しかし、その金は概ねは借金であるが、その返済が必要になる上に、今後修理・更新に莫大な金がかかる。
しかし、明るい話題もある。なんといっても、我々の物づくりのキャパシティは圧倒的に世界一である。蘇主席の時には傲慢な態度で嫌われて包囲網を引かれていたが、今の朱主席の融和的な姿勢から生産が我が国に戻ってきている。また、質も年々向上しており、日本には敵わんが韓国は抜いただろう。
だから、工業生産・農業生産の輸出で大いに稼ぐことは今後もできる。しかし、すでに土地によるボーナスはない。また、歪な人口構成によるマイナスがあるな。そして、先ほど言った負の資産がある。政府もそれは認識しているのだろう。我々200万の軍を解散すると言い出している。
はっきり言って、今の政府には我々に手当てをする経済的余裕はないはずだ。だから、我々は碌な手当なしに放り出される。しかし、我々は兵士であり武力をもっている。政府も、その危険性は認識しているから、彼らは選挙を行って軍の解散は人民が決めたということにしたいようだ」
「選挙?確かに聞きました。政府内でそういう議論をしていると」
苗少将が考えながら言う。
「いや、考えている段階ではないようだ。中南海の腹は決まっていて、密かに準備は始まっている」
「では急ぐ必要がありますね。高官共の裏金を西側から取り返すには、彼らの政府の協力が必要です。黄将軍の言うように、国連がそれを返すように促すという話はあっても、選挙を行う民主的な政府を武力で倒したということではまずい」
苗少将が顔を挙げて慌てたように言うのを押さえて黄が冷静に言う。
「そう、まずい。我々は武力で政府を転覆させて乗っ取り、選挙を行う民主的政府にするというシナリオだ。そして、その6兆元の金で、解散する軍の者達に不満のない手当てを行う。そして、その金は先ほど言った負の解消を解消するためにも使う。
現在の朱を始め首脳の親族には、その巨額の裏金の持ち主が多く含まれている。だから、我々のようにその没収はできない。しかし、この6兆元は今後の政権運営にどれほど役立つか」
黄将軍は数分考えこんだ後、裏金関係の調査を担当した民上校に聞く。
「民上校、これらの銀行と口座の番号は解かっているのだな?」
「はい、解っています」
「では、当該政府と銀行は引き出し停止の措置の依頼はすぐさま出来るな?」
「はい、それは必要と思っていましたから、準備はできています」
次に聞くのは他の軍区との連絡役の趙上校である。
「では、趙上校、各戦区はすぐに行動にかかれるか?」
「北戦区を除き問題ありません。北戦区は、リーダーと目している柳少将がまだ躊躇っています」
「北戦区か。ふむ、未だに迷うというのは無理だな。最悪北が抜けても構わんが、できれば一緒にやりたい。ふむ北は文上校が加わっている。少々口説いてみよう。では、4日後の日曜日だ。北が加われば良し。でなければ、北は除いて決行だ。
中南海と各省庁を押さえた段階で、我々は占拠した中南海から宣言を出す。民上校は同時に各銀行に中華民主共和国臨時政府の名前で口座の凍結依頼の連絡だ。また、各政府の財務省にも同様に連絡する。
無論、宣言には当該政府への口座凍結の依頼を含める」
黄は決然と皆に向かって宣言するように言う。
―*-*-*-*-*-*-*-*-
2035年10月12日の日曜日朝9時、5つの軍戦区では一斉にクーデター勢力が動いた。まず戦区のトップを始め、クーデターに加わっていない将官を拘束した。さらに、政府の政治拠点の占領を実施すると共に、朱主席を始め全ての閣僚、省長の拘束を行った。政治拠点は中南海にあるビルや各省庁である。
結局、この時北戦区も参加した。黄が念のため柳少将に話をしたところ、他が加わるならということで参加することに決したのだ。おそらく、参加しなくても構わないという言葉が効いたのだろう。クーデターは恐らく成功する。その場合には、間違いなく北は不利な立場に置かれるから正解の決断だろう。
参加兵力は、20万を超えていたと言われる。解放軍200万からすれば、1割足らずの僅かな数である。参加兵力の半数10万は、残りの兵の抑えに残された。基本的には、大部分の兵はクーデター勢力に同調しておとなしくしていたが、幹部あるいはその子弟で反撃しようとする者もいた。
しかし、そうした者はすでに把握されており、大部分は拘束されたが、銃撃戦になるケースが15件生じた。しかし、銃を持って反撃したのは幹部またはその子弟であった。そのため、全て将校であり人望もないため、個人で奮闘した形が多かった。この戦闘でクーデター側に12人の死傷者、拘束側に18人の死傷者が生じた。
その他にも政治家の拘束に当たって、護衛の兵との銃撃戦になったケースも7件あったが、クーデター側に8人の死傷者、拘束側に10人の死傷者が生じた。政治家で流れ弾に当たって負傷した者はいたが、死者はでなかった。
午前11時には、クーデターの成功は決していた。黄中将は苗少将の他に主だったものを連れて、記者会見などを行う中南海の放映室に居た。そこに拘束された朱主席が連れて来られ、黄に気付いて言う。
「ふむ、黄か。今さら時代錯誤の軍事クーデターを起こしてどうする。GPFに討伐されるぞ」
「はは、そうだな。まあ、君も選挙をやって正当性を持とうとしたようだが、君らの共産党政権はどこまでいっても、選挙の洗礼のない独裁政権だ」
「しかし、そういう意味では我々は選挙を行おうとした。君らは正当な政権を倒した軍事クーデター政権だ。どちらに正当性があると外の世界は判断するかな?」
「ふん。どうだろうね。我々が君らと決定的に違うのは、わが国の現在・過去において多額の国の金を盗んできた頭の黒いネズミから金を取り返し罰することだ。その一味である君らにはそれは出来ん。その総額は我々が掴んだところでは6兆元ある。これを全てリストアップしている」
「なに!?6兆!」
朱は目を見開いて驚く。
「ああ。その金があれば、どれだけのことが出来るか。お前も財政運営には苦しんでいただろう?」
「うーむ。調べてみるべきであったな」
「我々は1年後に選挙を行う。敗れるなら野に下るよ。しかし、軍人のための手当てをしてからだ」
「われわれとて、軍への手当は考えていた。しかし……」
「金がなかったのだろう?それは解っていた。だから我々が立ったのだ。我々は、君もその一党も処刑などはしない。裁判を開いて公平に見えるように裁く。君が死刑になることはないよ」
「ふん、公平に見えるようにか。なるほど」
12時になって黄の宣言が始まった。
「わが中華の人民諸君。私は今日、この国の政権を奪取した中華民主共和国臨時政府の首班である黄ミンエイである。これは武力で奪ったものであり、そこに正当性はない。しかし、過去の政権とて武力で政権を奪ってそのままやって来た。だから、そこに差はない。
私は、中将の地位にあり人民解放軍200万の代表であると思っている。私は、話題になっている軍の解散はやむを得ないと思っている。しかし、軍の将官として軍を構成していた彼らを、争いなく社会に溶け込ませる必要がある。その点では、朱前主席の率いる政権ではできないと判断してこの行動に踏み切った。
なぜ前政権が、軍への十分な手当てができないかと言えば、要するに金がないのだ。過去我が国の経済は急速に発展した。しかし、その種は値がついてなかった土地に値をつけたこと、また野放図な建設を行ってGDPを膨らませてきたことだ。さらには赤字も構わず輸出を行った。その結果、確かにGDPが世界2位になった。
しかし、その種はもう使えないどころか、今やマイナスになって戻ってきている。だから、金がない。しかし過去政権を担い、今も担っている者達が国の金を盗んできたのは聞いていると思う。彼らは主として外国の銀行に盗んだ金を預けている。
それを我々は把握し計算した。いくらだったと思う?なんと総計6兆元だ。これを取り返す。その金が収賄等によることは明らかだ。なぜなら、彼らがそのような給料を貰っている訳がないからだ。我々は中華民主共和国臨時政府の名前で、対象の口座の凍結を銀行と当該国にお願いした。
この場でも、銀行と当該国に真摯にお願いするものである。これは、必ず受け入れられるものと信じている。このお金を、主として先ほど言った過去の負債を消すために使う。また、軍の健全な解散のためにも使うが、勿論その明細は全て晒すし、そこで軍に不当に有利になるようにはしないことは約束する。
我々は、1年以内に選挙を行い文民政権に移行する予定だ。もし、軍人が政府に入る場合に現役を退くことを約束する。そして、我々は戒厳令などを布く予定はない。我々は、今後数ヶ月現状の戦力を保持するので、暴動などを恐れていないのでそのような必要はないのだ。
我々中華民主共和国軍は人民のための軍隊である。人民解放軍は共産党のための軍隊であり、共産党幹部が好きなようにしてきた。しかし、その連中はすでに拘束した。我々は、人民を傷つけることはしないし、財を奪うことなどはしない。
とは言え、今回の我々の行動に対して、抵抗するものがおり、合計で死者が我々の兵士21人、抵抗した側19人発生した。残念なことではある。そして、我々は前政権と違ってこのような情報を隠さない。国外の記者も方々も取材して結構だ。
また、諸外国から強く非難されているウイグル、チベットの人権状況であるが、我々も状況を正確には把握していない。だが、直ちに是正すべきであるとは思っている。その我々の対応を含めて取材しても結構だ。とりあえず今日はここまでとする。
人民諸君、君たちはすぐ我々が抑圧的な存在ではないことを知ると思う。我々は君ら皆の、より良い将来を目指している。また、我々は過去において過度に周辺国と対立してきた。この点は朱政権では緩和してきたが、我々は周辺のみならず、世界の国々と仲間になりたいと思っている。以上だ」




