4-8 涼の資源探査4
これは間違って消去した作品の復活版です。
宜しくお願いします。
涼達はニューブリテン島の調査を終え、治安の悪いポートモレスビーにやってきた。ネンゴらの記者会見から1週間後である。その日は、社員10人全員がインターカメロンホテルに宿泊しているが、一泊250USドルの料金は政府持ちである。スカイカーは、十分ホテルの駐車場に収まるので問題ない。
陸軍基地という話もあったが、会社の方針変更で、PNG政府は調査団の人件費を含む経費を全て負担して、資源に対する権利はなしとなったのだ。無論、PNG政府は大喜びである。ということで、高級ホテル住まいになった訳だ。
PNGとりわけポートモレスビーの治安は悪いが、高級ホテルは安全である。それは、それなりの警備をしており、大体2重の檻で囲んでいるからである。まあ、それと大きなその種の組織とは話がついているのだろう。
ニューブリテン島では実質5日間の調査を行った。流石に最初の日のような発見はなかったが、金・銀に銅、鉄、硫黄の商業ベースに乗る鉱床が見つかっている。特に鉄については鉱石で8億トンベースのものである。鉄の場合には、銅と違って含有率が50%ほどあるので、輸出をしてかつPNGの当分の国内需要を当分満たす程度はあることになる。
また、最初に見つけた銅鉱山は地名をつけてキクナ鉱山となった。現在、桐山の知り合いを国が雇ってボーリング調査を行っている。これは、主として鉱石の銅の含有量を調べるためであり、その際には金の含有率も調べる。通常、銅鉱脈には金が混じっていて、銅の精錬時には分離される。
日本の菱刈金山の金の産出量は年間7~8トンであるが、その精錬は鉱石を四国に運んで、銅の精錬と一緒に行っている。キクナ鉱山の銅の資源量が、金属として本当に5,900万トンあれば金は千トン以上あると見込まれる。
涼は、ニューギニア本島の調査は桐山たちに任せようと思っている。そろそろ、、国内の研究所等からの来てくれという要求が無視できなくなったのだ。ただ、その前にPNGの日本大使館からの面会の要請があり、ホテルで待っているところだ。
涼と桐山に調査班のサブリーダーの名波寛治が、ロビーで待っていると、男4人女1人で5人がやってくる。互いに紹介したが、来たのはPNG大使の三宅と1等書記官加山に2等書記官の梶田女子、それに経産省の資源課長の宮崎に加えて四菱マテリアルのオーストラリア支局の来栖である。
大使が直接出てくるのは中々のことであり、経産省の本省の課長が来ているのは、まずキクナ銅山の話だろう。まずは、加山一等書記官の話から始まった。
「今回、皆さんが来られたことで、PNG政府の大改編が始まりました。結局、マスコミの大報道で大統領のレビン・オスワクに首相のケン・オクズレ及び、財務大臣キース・カモイラ氏は完全に失脚しました。現在、国会議長の権限で選ばれた特別検察官が取り調べをしています。
まあ、あれだけマスコミから過去の収賄のことを暴かれたら如何に大統領でも無理です。この件で国民の大きな怒りを買っているのは、自分のわいろを優先して国の利益を大きく損なったことです。大統領選挙が多分1ヶ月後には行われますが、今回の英雄であるネンゴ大臣が有力です」
「へえ!ネンゴ大臣が大統領!まあ、でもいいことなんじゃないかな。僕は今回初めて会ったけど、熱心でいいよね。桐山さんは親しいんでしょう?」
「親しいと言っても、3年程前からの付き合いです。涼さんに資源探査の話を持ち掛けたのも、ネンゴ氏から頼まれたことがきっかけです。だから、確かにキクナ鉱山の発見は彼の手柄と言えるでしょう。まあ、いろいろ経緯を聞くと色んな偶然が重なった訳ですが」
加山がにっこり笑って言う。
「ほお、次期大統領の有力候補に、親しい日本人がいるというのは我々大使館にとって朗報です。公にはしていませんが、実のところ大使館では担当国の首脳の分析をしています。PNG政府ははっきり言ってかなりの腐敗体質なのです。
しかし、ネンゴ氏は一味違うというのが、接触した人の共通した意見ですね。全体のわいろ体質のなかで、少なくとも自分から求めたことはないようです。それに、国を何とかしようという熱い思いを語ることはあったようです。
あのキクナ鉱山の発見の時の記者会見での、最後の言葉は本音であったと思っている人が多いようです。少なくとも国民のインテリ層は期待しているようです。そこで、あの会見でも触れられていますが、PNGでキクナ銅山の銅の精錬をして産業開発をするという話です」
加山書記官は、経産省の宮崎課長を見ると、彼は咳ばらいをして話し始める。
「ええ、現在では世界の国々が資源の確保に走っています。有力な鉱山の利権を確保して安定供給をしようというわけです。日本も例外ではなく、世界中でそのような活動をしています。そこに、今回のキクナ鉱山の話ですから、何とかしたいと飛んできた訳です」
そこに桐山が応じて話を始める。
「ええと、宮崎さん。従来PNGの鉱山の利権は中国がだいたい持っていっています。しかし、これは要するにわいろを簡単に出すからです。ネンゴ氏は、そこを最も嫌っています。だから、日本が出てくるのは大いに歓迎だと思いますよ。
また、そこで日向 涼さんに会ってもらって頼んでもらうのが一番効きますよ。ネンゴ氏は涼さんのことを随分調べていました。今回の探査にしても、涼さんの属していた大学の真柄教授まで知っていたので、私が接触したわけですから」
「うーん、では具体的にどうするかです。何れにしてもネンゴ氏にアポは簡単にとれないでしょう?」
宮崎から、加山に問うが一等書記官は首を振る。
「なかなか、今や時の人ですからね。かなり時間がかかるでしょう」
涼がそこで桐山に向いて言う。
「桐山さん、連絡してみてよ。いつでも連絡をくれって言われているのでしょう?」
「ああ、じゃあ、ここから」
そう言った桐山はスマホを操作する。暫くの呼び出し音が鳴るが、大使以下日本人の訪問者は期待して真剣に桐山を見ている。10回も鳴らない内に応答がある。
「ハロー、桐山か。なにかあったか?」
「ああ、ちょっとMr.涼からお願いがあるということなんだが、30分ほどでいいから会えないかな?」
「あ、まあ、外ならぬMr.リョウなら。そうだな。明日正午でどうだ、飯は出せんが?」
「ああ、了解。じゃあ。全部で7人だけど頼む」
「7人?まあ、解った。待ってるぞ。Mr.リョウによろしくな」
スマホの会話ははっきり聞き取れ、一行の顔色が明るくなる。そこで、経産省の宮崎課長が涼に頭を下げて頼む。
「やはり、日向さんからお願いしてもらうのが一番のようですね。何とかお願いします」
「ええ、まあいいですよ。国益ってやつですよね。では、そちらの民間の方の話を含めて、全体の大枠を教えて下さい」
その後、夕食に共にして1時間半ほど、日本政府の思惑と四菱マテリアルの絡みを含めて、じっくり話があった。つまり、日本側としてはPNGについては、資源開発を中心とした総合的な開発を行うプランがある。これは国連の貧困撲滅プロジェクトの一環でもある。
このプロジェクトでは、GP8が受けもち国を決めて進行の主体を担うというものになる。PNGは本来オーストラリアの受け持ちであるが、資源に魅力を感じている日本が手を挙げてオーストラリアも賛同している状態という。どうも、オーストラリアは、中々思うようにならない相手にうんざりしているようだ。
さらに、オーストラリアは資源が有り余っている国なので、PNGの資源には余り興味がない。しかし、日本側も、如何にもPNGの政治体制が信頼できないことに加え、あるべきキャパシティに比べ発見されている資源量が少ないことに二の足を踏んでいた。
そこに、今回の銅鉱山の発見と、指導者の交代劇であり、さらに涼が絡んでいるということである。
「すぐ行け!」という、資源局長の檄で宮崎が飛んできた訳だ。なお、その資源局長は小牧経産大臣から尻を蹴とばされている。
四菱マテリアルの意見は、進捗の速度を速めるなら最初から鉱山開発の会社を巻き込んでいた方が良いということだ。また四菱マテリアルであれば、精錬プラントもお手のものである。日本政府はキクナのみならず今後の涼達の調査に大いに期待しているところだ。
そして、その席でニューギニア島の西半分のインドネシア側の調査の打診があった。
「インドネシア大使館から連絡がありまして、インドネシア側のニューギニア島、彼らの言う西イリアンですが、そこの資源探査のお願いがありました。まあ、当然ニュースを見てのことです。西イリアンはすでに石油、天然ガス、銅や金の採掘をしていますが、まだ調査しきれていない所が多いのです」
2等書記官の梶田女子が言うのに、宮崎が付け加える。
「出来ましたら、PNG側の調査に続いてお願いできればと思っています。その際に、資源の利権は日本を優先するようにお願いしたいのですが……」
涼が桐山を見て聞く。
「うーん。桐山さん、いける?」
「ああ、一応西半分の地質は把握しているから、まあ3週間ほど調査期間が伸びる程度だな」
「では、いいですよ、宮崎さん。で、利権は日本が握る。でも、そうしたらわが社日向クリエイティブの経費は誰が持つのかな?」
それに宮崎が答える。だいぶ上から権限を持たせてもらっているらしい。
「それは、当然日本政府が持ちます。そして、今後の海外の資源探査は日本政府の意向も汲んで頂けると有難いのですが。どうでしょう?」
「うーん、折角探査を日向クリエイティブの仕事にしたのに、また政府のひも付きか。まあいいよ、次に行くところはそっちで決めて。だから、その西イリアンの件も宮崎さんと大使館でインドネシアと交渉して決めて下さい。だけど、取りあえずインドネシアの他の島はまた別ね」
そのような話で、また資源探査の方向が変ってしまった。だけど、政府が前に出れば、相手との交渉などを任せることができるから通関なども楽だろう。ただ、これもPNGで大当たりを引いたからである。
翌日、昨日のメンバーで、時の人になったネンゴ鉱物大臣に会いに行く。大臣の執務室は、よくそれなりの人数の客が来るから、応接室が付属しており、秘書もついている。
ネンゴはまず、涼と握手して桐山とハグするが、それから三宅大使に丁重に挨拶する。日本はPNGの最大の援助国の一つであるから、その大使ともなれば、大臣もちゃんともてなす。
打合せの通り、涼から話始める。無論英語である。
「ネンゴ鉱物大臣。ご存じのように、すでニューブリテン島の調査は終わりました。その結果はメールでお送りした通りです」
「うむ、すぐにでも事業化できそうな地点が4ヵ所ある。キクナ鉱山ほどではないが、十分な成果だ。本島の方ではもっと期待できると思っている。いや、君らのチームには本当に感謝している」
「ええ、それで今日日本大使を含めここに伺ったのは、もう御推察だと思いますが、日本に発見された開発の優先権を与えてほしいということです。我が国は残念ながら、関係者へのキックバックはしませんが、貴国のことを思っても開発を考えています。
無論、大臣のお考えのように、キクナ鉱山については、採掘及び精錬も含めてこの国で行うこととして、その利益でPNGの国家開発計画2035-3040を促進する計画のようです。また、明日以降行うニューギニア本島の調査の結果も当然それに生かす予定です」
「国家開発計画2035-3040というのは、JICA(国際協力事業団)がまとめたやつだね?」
この大臣の涼への質問への答えから、1等書記官加山に変わった。彼は開発計画を策定したJICA調査チームの補助を担当したのだ。
「ええ、要は国家開発というのは将来のあるべき全体像を描いて、効率よく開発を進めるための具体的な手法を述べたものです。それは地域計画、インフラ整備、産業育成、教育などを総合的な含んだものです。しかし、そこで弱かったのが資金です。
その意味では、今回のキクナ鉱山による産業の発展と利益によりあの計画は十分実現できます。また明日からの探査で発見されるものは、計画の前倒しまたは質を上げることに使えます。我々はキクナ鉱山の利権を得ることで、そういうことを提案し実行したいと思っています」
「うむ、まさに私と私の仲間が望んでいるのはそういうことです。まあ、政府としての体制が整うのは選挙後ですが、私はいずれにせよそれなりに発言力は持つことになります。ですから、そのような方向で進めるつもりであることは、ここでお約束します」
その後の3ヶ月に渡るニューギニア全島の探査は、実り多いものであった。日本の2倍の面積があるこの島の、インドネシア側の西半分は比較的調査はされて資源開発が進んでいる。調査が遅れていた東半分つまりPNG側は地質的に豊富な資源があるはずであった。
そして、それは正しいことが判ったが、要は地上に現れた鉱石が少なかったということであったのだ。当初PNG側で1ヶ月未満と見ていた調査が2ヵ月になったのは、発見が多く詳細調査に時間を要したためだ。
1万トン程度はあるという結果がでた金鉱脈、キクナ鉱山の2倍に近い銅鉱脈、世界最大級のニッケル鉱脈、マンガン・モリブデンの大鉱脈、石炭の大鉱脈も発見されている。大当たり過ぎて、世界の資源賦活量が変るほどで、PNGの立ち位置が全く変わってしまった。
ニューギニア島の西半分も、時価にするとPNG側の半分程度の資源が見つかり、インドネシアも大喜びである。そして、ボルネオやスマトラ島など国の残りの調査も熱望している。
この結果を受けて、日向クリエイティブでは探査チームを5チーム作った。これは資源探査の窓口になった日本政府が、殺到する探査依頼に音をあげて頼み込んできたものだ。チームは小スペースでも降りられる『カメさん』に探査スカイカーを10機積んで、更にトラックや仮設小屋などを積んだ機材を持っている。
1チームは25人であり、地質や鉱山開発の専門家が揃っているが、日本人のみでは人材が集まらなかったので、全部で125人の探査部は10カ国の出身者による国際色豊かな職場になった。資源探査部は、部員が涼以下160人を抱える日向クリエイティブ最大の組織になった。
その状況にある政治家が、日本政府の仕事に日向クリエイティブという民間会社を専任させるのはおかしいと騒いだ。要は、自分の息のかかった会社にやらそうとしたのだ。それが新聞に載ったが、日本政府の発表ですぐさましぼんでしまった。そもそも涼の名前が出た段階で、普通の新聞はそのようなネガティブな話は余程裏を取らないと載せない。
その発表は以下のようなものであった。
『日向クリエイティブでやっていた事業に、政府が乗せてもらっている。そのお陰でこれだけの国益を生んでいる』
そして、PNGの話とすでに探査の済んだ国とのやり取り、そのことで日本が得た権益を具体的に述べている。




