2-10 宇宙戦艦建造の余波
この作品は間違って消去した作品の復活版です。
春日防衛大臣の要請で急遽官邸に集まった、高井首相を始め麻山財務大臣、山根官房長官に甲斐外務大臣であるが、春日大臣から神戸での話を一通り聞いて高井が呆れた顔で応じる。
「うーん、それほどのものですか?宇宙戦艦?僅か162億円の改造潜水艦が?」
「ええ、私も予算からしてそれほどのものではないと思っていました。しかし聞いてみると、さっき言ったようなことで、もっともなことです」
「それが、海上、海中、空中、宇宙とどこでも行けて、しかも強力な武器を持っている、ということか。アメリカあたりでも焦るな。むしろ、アメリカにこそ早く知らせないと、揉めるぞ」
年配でご意見番役の麻山が言うと、甲斐外務大臣が応じる。
「ええ、ラッセル大統領は随分前から、我が国を標的に非難してきています。とりわけ、『正当な負担なくして防衛もない』と公言しています。それに、ロシアが実質潰れたのは歓迎しているとしても、わが国発の技術だったことが気に入らないようです。
さらに、ここ2年位の様々な技術により、我が国の産業界が沸いているのが気に入らないようです。なにしろ、彼には気に入らないことだらけです」
苦笑して言う甲斐に対し高井が真面目な顔で返す。
「甲斐大臣、事実中国が動くとなれば、アメリカは余り当てにならないよね」
「ええ、日米安保条約はすでに機能を止めようとしています。そもそもラッセルは、核が無効化した今、中国は通常兵器ではアメリカに敵わないので、自分達には害がないと主張しています。だから、放置するという考えです。国防省は反対のようですが」
「ということは、その『ありあけ』のことが判ったら、中国が行動を起こす可能性があって、その場合には日本が独自で立ち向かう可能性があるわけだね?」
「そうです。それはあり得ます。軍の最高司令官は大統領ですから、国防省は大統領に従う必要がありますから。とは言え、そう単純なものではありませんが」
「で、春日大臣。その宇宙戦艦たる『ありあけ』に少数ではあるが、重力エンジン機があれば中国が敵になっても負けることはないと。しかし、被害は避けられないということですね?」
更に問う高井に、春日は山中にレクチャーされた内容を思い浮かべながら答える。
「ええ、そう2ヵ月後には『ありあけ』を戦力化できます。さらに、売ることを約束した国に納品を伸ばしてもらって、『そら』を40機揃えます。加えて『しでん』が32機、戦力化されます。これらは、在来の戦闘機などとは違うフィールド、つまり亜宇宙で戦いますから、敵には対処できません。
このように、攻撃には強いのですが、数が少ないだけに守りは対応しきれません。だから、戦いは避けたいですね。だから、アメリカその他を引っ張り込みたいのです。つまり、核無効化の戦いをもう一度ということです。それだけに、『ありあけ』の技術はこれ等の国で共有する必要があります」
そこに甲斐外務大臣が口を挟む。
「総理、率直に言って、中国の東南海は戦争を欲しています。すでに、かの国の土地から金を生み出すという土地本位制は終わって、普通の資本主義のルールが適用されるようになっています。
そこにきて、過剰生産による製品の飢餓輸出を行ったために、国際包囲網をひかれ飢餓の部分がマイナスとして国内でも表面化しつつあります。
結果として、企業の赤字・倒産と最悪と言われる雇用情勢を生みだしています。それは、過去に類のないほどの激しい暴動を引き起こしています。それに対しては、かの国は辻々にカメラ・盗聴器をしかけ鉄壁の監視網を作りこれらの暴動を取り締まってきました。
しかし、もはやこの取り締まる層に十分な利益を与えられなくなっています。結果として、留まるところをしらない暴動とその被害の拡大です。だから、国民の目をそらすための何か、つまり敵を作ろうとしています。その相手は、勝っても実入りのないフィリピン辺りでは民衆は満足しないでしょう。
その意味で、アメリカから見放されつつある日本は、実入りが見込める格好の敵ですし、なにより『憲法』という自分の身も決然と守れない大きな欠陥を抱えています。その上に理由があるのは、重力エンジン関連の開発のことは彼らも掴んでおり、これの数が揃えば近い将来敵わなくなると見ています」
「ふーむ。余計危ないということか。春日大臣、まだかの国はその宇宙戦艦のことは掴んでないよね?」
首相の問いに春日は応える。
「ええ、予算が小さいのが功を奏しましたね。ただ、すでに軍は準動員体制には入っています。しかし、実際のGOには……。スタートには、そう3ヶ月は必要です」
「よし!何と言っても国防に楽観は禁物です。君らのその想定に乗って、内閣として動きましょう。甲斐大臣の言う通りなら、時間の問題ではあったようだけど、その『宇宙戦艦』によって加速された訳だ。
春日防衛大臣は、アメリカに飛んで、マクガン国防相に会い、宇宙戦艦について説明して全ての技術を共有すると約束して下さい。私はイギリスにフランス、ドイツとオーストラリアを回りますので、その後春日さんは、各国についてアメリカと同じことをお願いします」
首相が決然と言った内容に、麻山が大きく頷いて賛同する。
「そうですな。それがいいでしょう。しかし、この騒動が落ち着いたら、憲法を改正して日米安保条約も解消する必要があるな。その前に、総選挙をやって議席を増やす必要があるが、昨今の内閣の支持率をみれば大丈夫だろう。また核無効化の動きの中で、憲法の欠陥は大きくクローズアップされた。
直近のアンケートでも、改正支持が70%を超えたから問題ないだろう。日米安保も、近年のラッセルの勝手な言い分に国民も嫌気がさしているから、解消に反対する者は少数だろうな」」
首相以下の閣僚は、麻山の言葉に大きく頷いた。
首相の4か国訪問と春日防衛大臣のアメリカ訪問は、国内と世界ともに大いに注目した。
政府の発表は、4ヵ国訪問については、『国際情勢の変化に伴うお互いの役割についての協議』とし、何とも曖昧なものであった。一方で、春日防衛大臣のアメリカ訪問については、『東アジア周辺の安保状況の整理』というやはり曖昧なものであったが、中国を名指するに等しい名目であった。
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「トム(マクガン国防相)、日本からカスガが君に会いに来るが、彼の本音の目的は何だ?」
ラッセル大統領がいつもの調子で国防相に聞く。同席しているのは、国務長官のベンソーム、CIA長官のカーターである。
「はい、大統領。重力エンジン関係の重要な開発について協議したいとのことですが、ずばりこれが本当の目的だろうと思っています」
「重力エンジン関係の重要な開発?何だろう。すでに我が国が受け取る『そら』という奴は出来つつあるのだろう?」
「ええ、多分ですが、我が省でも検討しているのが、潜水艦に重力エンジンを積むことです。潜水艦はすでに気密構造ですから、動力としてあの日本の発電機を積んでかつ重力エンジンを積めば……」
「ええと、トム、横から失礼。君も知っているだろうが、自衛隊は今退役したコウベで潜水艦の改造をしている。アリアケという名だったな」カーターCIA長官が口を挟む。
「なに!つまり、重力エンジンとあの発電機の特性上、殆ど無限に行動できて、宇宙にでも行ける……、水中も潜れるか。『そら』は小さいから積めるものは知れているが、潜水艦なら桁が違うな。あいつらそれを作っているって?」
「ええ、我々はそう読んでいます。多分完成は間もなくでしょう。多分、彼らはそれについて、我々に説明するために来るのだと思います。つまり隠すのはまずいということでしょう」
「ふーむ、まあ説明に来るならましだな。小型宇宙船の『そら』については、すでに我が国に売っている。さらに戦闘機バージョンの『しでん』も同様のはずだ。だから、その潜水艦改造の船も同様だろう。
それで、潜水艦に重力エンジンを積んだ船はどの程度の戦力になるんだ?」
大統領の質問には国防相のマクガンが応える。
「これは、極めて厄介というか強力な戦力になります。しかも、我々が掴んでいる改造の予算は、僅か約1.5億ドル(レートは110円/米ドル)でF35の1機と同等で、彼等の予算規模でも多数作れます
何より厄介なのは、その艦が直接簡単に宇宙に昇れることです。亜宇宙を通って、地球上どこでも1時間足らずで行けます。その結果、例えば地上500㎞から爆撃できます。これを実行されたら防ぐのは困難です。この場合には、何も爆弾である必要はなく岩でも強力な爆弾になります。
また重要な情報として、彼らは電磁砲を完成したと言ってきました。これは、我々が先に開発して一定の成果が出た所で、自衛隊に技術を供与して彼らが開発を引き継いでいたのです。しかし彼等が言うR情報によるのだと思いますが、ずっと進化させました。すでに、径25㎜で弾速9㎞/秒のガンは完成し、径150㎜で弾速8㎞/秒のガンも完成間近らしいのです」
「オオ、マイガー。それはまずいな。しかも、潜水も出来ると……。しかもその費用だと、彼らは簡単に増産できる」
ラッセルは天を仰いで慨嘆し嘆くが、マクガン国防相が応じる。
「重力エンジン艦の場合には、潜水は実は余り意味はないと分析しています。行動範囲が知れていますから脅威は限定的です。やはり、亜宇宙を利用する方の脅威は遥かに大きいのです。
それと、この場合には日本は多分持っている16隻の潜水艦を全て改造するでしょう。1.5億ドルで最強の艦に生まれ変わるのですから、そうしない理由はありません」
「うーむ。それで、トム。日本はその重力エンジン艦を種に、どういう交渉を持ちかけてくるのだろうか?」
「多分、なかり融和的なものだと思っています。まず、次々に改造する艦は、我々や彼らの首相が訪問する国に売るつもりでしょう。最初の艦は取っておくでしょうが。しかし、その真の理由は中国です。先日も検討したように、中国の中南海(指導部)は戦争を欲しています。そのターゲットはあの憲法を持つ日本でしょう。そこに我々が介入することを望んでいると思います」
その言葉に一同が頷くのを見て、国防相は話を続ける。
「現状においてでも、すでに持っているか今後1~2ヵ月内に完成する重力エンジン機の力で日本は中国に勝てます。しかし、それなりの被害は免れないでしょう。彼らはそれを嫌っているのです。だから、我々とイギリスにフランス、ドイツにオーストラリアを巻き込めば、中南海も戦争に踏み切れないという狙いです。中国は負ける。それもひどい負けになるのが余りにも明白ですから」
「なるほど、彼等にも弱みはある訳だ。それで我々にその最強の艦を売って仲間に引き込もうと、なるほど面白い。ただ我が方でその改造は出来ないのか?」
再度の大統領の質問に国防相が応える。
「重力エンジンとして、数千トンレベルのものを飛ばすための重力を操作する装置は、我々には開発できません。日本は当然すでに開発しているでしょう。元々彼らは、船舶を重力エンジン機に代替する心算のようですから、数千トンの潜水艦を飛ばす程度は簡単でしょう」
「ふーむ。なるほど、ところで、マック(ベンソーム国務長官)。タカイが欧州とオーストラリアに行くのはその関係かな?」
「ええ、基本的にはカスガのための地ならしでしょう。ただ、彼等の言うR情報の公開にはもっと融和的になるとみています。現状では日本のみが、突出してR情報によって豊かになりつつあります。それにより、我々もヨーロッパの連中もイラつきを感じています。
彼等はR情報によって近年急速に力をつけてきましたが、その過程はすでに既定の路線に乗っていますから、彼らの産業構造と経済の改善は自立的に進みます。だから、すでにその情報を独占する必要はないのです。その状況において、世界からのイラつきを彼らは察しています。
彼等は、独善的に振舞った結果、孤立して戦争に突入して大きな被害を受けた歴史をトラウマとして記憶しています。また、近代においても主として我が国相手ですが、力関係によるごり押しで、産業面で不利になって衰退に追い込まれた記憶があります。
だから、力のある仲間を作りたいのです。だから相手は我が国のみではないのです」
「ふん。弱い者は搾取されるのだ。しかしそのR情報を持つ日本は弱者ではなくなったということか。まあ良い。カスガがどういう話を持ってくるかだ。それ次第で話は変わってくる」
大統領の言葉に続けて、マクガン国防相が前から思っていた持論を言った。
「その点は承知しました。また、それに関連ますが、日米安保条約はすでに役割を終えたと思いますが、いかがでしょう?つまり、重力エンジン機によって地球上どこにでも、1時間足らずで行けるとなると、現地に部隊を置く必要はなくなります。また、日本はまもなく自国を十分守る力を付けます。私からカスガに持ち出しても良いように思いますが?」
「うん。私は賛成だ。もはや日米安保条約は役割を終えたし、NATOもそうだな。必要があっても、トムの言うようにわが軍はステーツにいれば、どこにでも駆け付けられる。どうかね。カスガに持ち出しても良いと思うが?」
大統領の言葉に、ベンソーム国務長官が頷き持論を述べる。
「大統領の言葉に賛成です。またタカイのヨーロッパ等の訪問に際して、R情報の管理を緩和する話が出るだろうと推定している。この辺りは当事国に確認するが、その場合わが国がその動きから外れる訳にはいかないでしょう。だから、出来ればカスガに合わせて経済産業相のコマキを呼びたい。よろしいですか?大統領」
「うむ、よろしい。呼んでくれ」




