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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第2章 争いの顕在化と変化する世界
21/43

2-5 日向家の日常

この作品は間違って消去した作品の復活版です。

 日向家は、まだ防衛省の官舎に住んでいる。R情報なるものの存在が、ネットにちらほら書かれるようになって、それが近年の様々な開発の元になっているということが言われている。日向家は、直接それに結びつけられてはいないが、様々な動きに絡んでいるということは知られてきた。


 そのことからすれば、一家はとても普通の家には住めないので引っ越しは難しい。家族の各々への護衛の配備は続いており、この解消の見込みは当面ない。ただ、日向家への護衛については、年間で1億円以上の経費を要することから、当初政府内で必要性を疑問視する者もいた。


 しかし、涼から出た『R情報』によって日本国に巨大な利益が生じている点は、もはや疑う者はおらず、この経費の支出を疑問視する者はすでにいない。この点は、護衛の管理をしている山瀬という防衛省の担当者から各々に伝えられている。だから、一家としては後ろめたい思いはすることはなくなった。


 ただ、日向家としては、せめてもの気遣いで当初防衛省持ちであった官舎の家賃8万は払っている。父隼人は同じ構内に職場の施設庁の事務所もあり、そこに席をおいて様々な施工事案の管理をしている。そして、必要に応じて車で各地の現場に出かけている。だから、隼人にとっては徒歩10分の職場は非常に便利だ。


 母は、日向クリエイティブの仕事がある。だが、公認会計士の資格を持っていることから、防衛省から経理事務の監査の仕事の申し入れがあった。具体的には、自衛隊の市ヶ谷事務所の経理課の嘱託として働くものだ。すでに1年働いているが、専門家としては気楽な仕事であり、徒歩8分の便利な職場である。


 嘉陽学園大学2年生の涼と高等部2年生の彩香は、互に隣接している嘉陽学園に通学している。ただ、涼の場合は大学に行くのは平均的には週2回である。これは、担当となった真柄教授との入学時の条件であり、追加で政府からの学校への要請もあって認められている。だが、試験は普通に受けることになっている。


 彩香は高校生なので、当初は普通に登校していたが、産業技術研究所で始まった開発に入り込むことになった。それはエネルギー室長の城山真紀にR情報を渡した結果始まったものだ。

 その2つのテーマの内のアルミ鋳造型のモーターについては、割にスムーズに開発が出来て、すでに2030年に発売された新型自動車に使われている。


 また電力を変換する熱発生システムは、高周波熱発生機の基本形についてはスムーズな開発ができた。しかし、そのまま使える応用先もあったが、極めて多様な応用先があってそのままでは使えない場合も多い。このため、彩香の管理するR情報へのSOSが出るようになった。


 それがきっかけで、彩香も面白くなって研究に入り込むようになった次第だ。彩香は、R情報を深く研究して基本的な体系を理解している。その結果、政府が絡んでいても、いや絡んでいるからこそ、それをまとめて開示は出来ないことを確信した。


 その点では、最初はそのように決断した兄、涼の判断を傲慢と思ったが、実は正しかったことを悟ったのだ。内心で『涼兄ちゃん、ごめんね』とつぶやいたが、実際は何も言わなかった彩香であった。このように、彩香は情報の中身それぞれについて深く理解するようになった。


 ただ、無論設計資料等の細かいものは目を通していないが、それがどのような考えの元で設計されて、どのように機能するかということは理解した。その意味で、その知識を元に何かを作れる訳ではないが、この機能を求めるならこのようなものがあり、それはどの資料を使えばよいかと言う理解である。

 つまり、聞けば答えが出てくる打ち出の小づち的な存在になったのだ。むろんR情報に含まれているという条件付きであるが。


 室長の城山真紀というより、その部下の柿本誠司が、彩香のその才能に気が付いた。彼は、彩香が『なにか追加の情報の相談があれば乗る』と言った言葉を覚えていた。さらに、自分達が情報を得るだけで帰っていくのを残念そうに見ている様子も印象に残っていた。


 それに、彼女は高校生ではあるが、彼としては好みのタイプである。だから、少しウキウキしながら、電話で彼女に連絡を取り、教えて貰いたいことがあるとして敢えて研究室に呼んだのだ。迎える際に、彩香が護衛の女性を伴っていることに少し驚き、彼女の置かれている状況を理解した次第だ。


 彼は室長の城山と一緒に、彩香を迎えて質問を始めた。それは様々なタイプの小型の熱発生システムと、逆に製鉄のような莫大な熱が必要な溶融の熱システムの開発あった。それに対し、彩香はすぐさまこういう技術があると答えることができた。

 そのことで、城山真紀は今抱えている開発を終えるには、彼女の助力が必要であると確信して腹を決めた。


「彩香さん。私達は今聞いたように、適用先の数が多くてさらにその使い方が多様な小型の熱発生装置と、製鉄炉や製鋼炉などの大規模電気炉の適用を考えています。この応用先には数はさほど多くなくニッチなわが国にとっては国際競争力もあって大変重要な業種もあります。

 この開発のアドバイザーをしてくれないかしら。今日は授業を終わって来て貰ったけど、出来るだけ授業への影響がないようにします。報酬もきちんと払うようにします。できたら、考えてくれないでしょうか?」


 柿本は彩香がその言葉を聞いて、明らかに前のめりになったことに気がついた。しかし、実際には悪戯っぽい目になって彼女は言った。

「うーん。私の学校はちょっと厳しいのですよね。それに夜や休日は嫌ですね」


 そこに柿本が口を挟んだ。

「僕の親類に嘉陽学園に行っている子がいて、君や兄さんのことを聞いたのですよ。君は成績が常にトップクラスで余裕しゃくしゃくと言っていましたよ。また、兄さんの涼さんは高校の時は半分程度しか登校しなかったとか。それでも成績はトップクラスだったそうですね」


「へへ。解っている訳ですね。ええ、実は私は兄さん譲りの勉強法で、余り家では勉強しないので余裕はあります。今はクラブ活動もしていないしね。実のところ、活躍している兄さんが羨ましかったの。あそこまではのめり込む気はないけど、私もある程度やってみたいと言う気はあります。


 それに、情報の掘り出しに選択と提供に関しては、多分お役には立てると思います。でもそこで、自分もある程度その開発の過程に加えて頂くと嬉しいと思っています。報酬は、私もそれなりに使えるお金はありますから、いくらでも結構ですので、文句は言いません

 でも出来たら、兄さんのように学校に話をつけて、休んでもいいようにしてもらえると嬉しいかな」


「それは、折角の学校でのトップクラスの成績をよろしいの?」

「ええ、ある程度休んでもそれなりの成績は取れます。それに、私は特に一流大学を目指していませんから。兄さんのように内部進学でもいいのです」

「であれば、涼さんの事例もありますし、省を通じて手続きをします」


 そのような経緯で、彩香は週の1回か2回は産業技術研究所に通い、開発の状況を視察して、様々な新機構の導入や改善を提言して開発に大いに貢献している。つまり、現在の技術の基盤がなかった彼女は、R情報が常識になっている。だから、彩香にとってはR情報が常識であり、その目で既存技術を見るので問題点、改善点に気が付きやすいのだ。


 こうして彩香も協力して、2030年から電子抽出型発電システムによる、産業への電力を用いた熱利用が本格的に始まった。その後、燃焼ボイラーが全廃され、製鉄・製鋼所また諸金属の精錬が電炉に代わって、鉱物燃料がほぼ全廃した産業体制が整ったのは2036年であった。

 しかし、それらに必要な技術開発が概ね完了したのは2033年である。


 しかし、この開発において未だ少女であった彩香の役割は極めて大きく、彼女なくしては開発に10年以上、いや完成すらしなかったともいわれている。とは言え、それが公になったのは、彼女が30歳になってからのことである。これは、公になることによる彼女への保安上の危険を避けるためであった。


 彩香は、学校内では度々1位になるようなトップの成績により元々注目されている。更には、美人ではないが可愛い容貌と均整の取れたスタイルから男子生徒には人気がある。とは言え、成績が良い子には嫉妬からの反感を持ものもいる。


 女生徒については、この学園には、ハイソサエティの者、またそうであると思っている者が多いことから、彼女の超然とした態度に反感を持つ者が多い。この超然とした態度というのは、実のところ男子の告白除けであるのだが。


 彩香自身は、嫌われようが実害のない限りあまり気にしていない。その点では、上品な者が多い嘉陽学園では、精々が態度に示したり、嫌味をこそこそ言う位で実害はないので助かっている。それでも同じクラスの女生徒は本当の人柄は解かるので親しくなる者もいる。


 綾小路奈美恵という隣の席の女生徒が、目下の親しい仲の友人だ。彼女は姓から伺えるように、本物の名門のお嬢さんであり、動作は優雅でおっとりしているし、言葉使いもそうだ。嘉陽学園では中学では、外部生と持ち上がりの内部生と分けてクラスを編成しているが、高等部の2年からは概ね成績順である。


 5番以下に落ちたことのない彩香は、無論A組であるが、同じA組の奈美恵も成績は良い訳だ。聞くと、彼女は小学校から家庭教師がついているそうだから当然かもしれない。彼女は名門であり、かつ財閥一族の一員であるが、人を見下すようなところはなく、彩香から話かけて親しくなってからは気さくに話す。


 奈美恵は中背で色白、すらりと均整は取れているがややふくよかで、美人でないが動作の端々に気品が溢れている。ただ、流石にドリルではなく、背まである髪をリボンで結んで流している。彩香はこういう人に会ったのは初めてであり、彼女と友達になれただけでもこの学校に来てよかったと思うくらいだ。


 彼女は、大事に守られて育てられた人であることが良くわかる。多分、人から悪意を向けられたこともないのだろう。だから、人に悪意を向けることもない。それでもきちんと躾を受けているので、勉学では授業に集中しているし、人の言うことは聞き我儘を言うこともない。


『はあ、理想のお嬢様ですね。こういう人もいるんだ』

 知り合ってしみじみ思う彩香であるが、頭が良くて好奇心も強い奈美恵との会話は心地よい。彼女には婚約者がいる。立習院大学1年生の、やはり財閥の御曹司で康之という名前らしい。


 昼休み、教室の窓側のテラスで、彩香は奈美恵と向かい合って話している。テラスに置いた10脚ほどの籐椅子に座っているが、椅子は綾小路家が寄付したらしい。

「彩香様は明日お休みですか、残念ですわ。お忙しいのですね、いつもの研究所ですの?」


「はい、でも午後には三木製鋼所の製鋼の実験炉の運転を見せてもらいます。ええと、製鋼というのは製鉄した鉄を強い鋼鉄に変えることで、その実験炉は電力で溶かして鉄を鋼鉄に変えるものです」


「ええ、製鋼は知っていますことよ。康之様の家の会社の一つが製鋼所を持っていますもの。康之様が教えてくれましたわ。それは説明が熱心でした。殿方はあのようなことがお好きですね。おほほほほ」

 彼女は口を隠して上品に笑うが、彩香は『おほほ』という声で笑って、かつ似合う人は始めてだ。


 それから、奈美恵は憧れの目で彩香を見て話を続ける。

「はあ!彩香様は凄いですね。そのような炉が、あなたの提案を取り入れて作られたのでしょう?だから、見せてくれるのだと思いますわ。それは大事な実験なのでしょう?」

「はは、それほどでも。でも結局は兄の持っている資料のお陰です。この件で確かに多少はアドバイスをしました。でも大事なのは、この炉が成功すれば、製鉄炉にもまず適用できるということです」


「そうですか。それにしても、明日行けば、前に言っておられた柿本様という研究員の方と会われるのでしょう?前にお話になった時の彩香様に表情が違っていましたことよ」

 奈美恵は目を輝かせて、詰め寄る。お嬢様も恋バナが好きなのだ。


「ええ、柿本さん?確かに中では若いし、優秀ではありますね。でも確か26歳ですよ。私がもうすぐ17歳ですから、概ね10歳上です。犯罪とは言えないにしても、ちょっと無理じゃないですか?」


「でも、人生100年時代に、その程度の年の差は何ということもないでしょう。なにかお兄様に似ておられるとか、そこに魅かれるのでは?」

 目をキラキラさせて迫る奈美恵に閉口するが、胸がチクリとする彩香であった。だが、逆襲する。


「でも来週頭に、奈美恵様は康之様と臨海水族館にいかれるとか。デートですね?」

「ええ、水族館には何度か行きましたが、臨海水族館は都合がつかずようやくです。私は普通の開館時には行けませんので、火曜日の閉館時に行けることになりました。本当に嬉しい!」


 両手を握ってにこにこする彼女は本当に嬉しそうだ。ちなみに、彼女レベルの深窓のお嬢様は、一般の人で込み合うような場所にはいかない。貸し切りに出来ないことはないが、一般人に迷惑がかかるのでしないのが綾小路家のようだ。それで、早めに休館する夕刻に訪問するらしい。

 ちなみに、彩香も奈美恵と話す時は相手に合わせて『様』つけにしている。


 さて、涼であるが、彼は大学2年生である。彼は出来るだけ講義には出席しており、真柄教授ともちゃんと付き合って、論文作成も手助けをしている。論文の題名は以下の3つであり、同時並行的に作成している。

「触媒回路の機能が成り立つ理論的背景」

「触媒回路による物性的な影響の解析」

「触媒回路により影響をうける物質の挙動の解析」


 涼は触媒回路については、基本的に責任を持って作成し管理している。だから、マキノ工機の回路作成棟と防衛省中央研究所の回路作成棟へはしばしば通っている。回路そのものは、長方形の銀板を覆った特殊な樹脂にCADで描いた回路を一種のエッチングで刻む事でできる。


 これに、一定の方向で決められた強さの電流を流すことで、必要な作用を及ぼすことのできる場を形成する。秘密は樹脂に描いた回路図と電流を流すためのコンパ―タである。回路図を刻んだユニットは別の樹脂で覆っており、はぎ取ろうとすると回路を刻んだ樹脂が融ける。コンバータは分解しようとすると、主要部が溶解する。


 ただ、涼は何時か回路盤の製法の秘密は漏れると思っており、時期を見て公開すべきと考えている。ただ、日本社会が出来るだけ早く持ち込んだ技術を使いこなして、豊かに強くなって欲しいと思っている。そして、日本が世界を指導し秩序を持って世界へこの技術を広め共に豊かになっていけば良いと思う。


 現在の世界の国家秩序において、技術を無制限に公開すれば、必ずまず軍事用途に使おうとする。それは負の競走を生み、戦争を招く可能性が高い。あるいは過当競争による互いの疲弊を招くと思うのだ。だから人類全体が豊かになって、ゆとりが出来た段階までは抱え込むしかないと考えている。


 また、この触媒回路を用いた技術の良い所は、資源の大量消費がないので持続性があるということだ。だから、一旦豊かになった社会はずっと持続できる。それでも争いはあると思う。だから、争いを治める理性的な国際軍事力組織の構築が必要である、そのように考えている涼であった。



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