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転生者が変える人類の近未来史  作者: 黄昏人
第1章 涼の歴史への登場
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1-11 涼と彩香の転校と、重力エンジンの開発

この作品は間違って消去した作品の復活版です。

 涼たち日向家は、市ヶ谷に引っ越した。家は、上級幹部用の3LDKの4階建てアパートのフラットであり、一応両親の寝室に涼と彩香の部屋もある。だが、客間はないので客は居間に泊める必要がある。だから、客間のあった村山市の家に比べれば狭いが、東京の都心では十分広い方だろう。


 その家は、市ヶ谷の自衛隊の施設が集まる厳重なフェンスに囲まれた中にあり、その中に入るには衛士の守る門を通る必要がある。だから、安全ではあるが、家に尋ねるのはいささか以上に敷居が高いだろう。そのことを考えると不便というしかない。しかし、一家としては父が襲われたという事態から、そこに引っ越すのに踏ん切りがついたというものだ。


 ところで、父が襲われた顛末は、逃げた一人は結局捕まらなかったし、捕らえた2人を尋問しても金で雇われた半端もので背景は一切判らなかった。父については、入院をして麻酔銃の針の刺さった跡は残ったが、特に他に怪我等はなく、どちらかと言うと相手のほうの負傷が重かった。


 そのことから、隼人は護衛をしてくれている暴力のプロである宮入から「なかなかラガーというのは凄いものですね」と冷やかされた。ちなみに、あの晩に宮入が隼人を殴ろうとした犯人に「警察だ!」と叫んだのは、『解りやすいから』と言うことらしい。その点は警察とは話がついているそうだ。


 涼と彩香が、嘉陽学園へ転校したのは7月1日である。異例の時期の転校に、涼も彩香も大いに注目された。涼の場合は、教室に先導した担任の八木美並教諭が、教室に入り自分の横に涼を立たせて皆に言った。


「今日から転校してきた日向涼君です。異例の時期の転校ですが、決して涼君や家族に問題がある訳ではありません。ですが、理由は詮索しないようにお願いします。彼の姓と名の文字はこの通りです」

 彼女は「日向 涼」の文字を、電子黒板に描いて見せ、涼に自己紹介を命じて皆に言う。


「では日向君、自己紹介をしてください。なお、彼は特待生ですので……」

 その言葉にクラスにがやがやという声が起きた。この学校の特待生は、学年で10人以下であり、学力優秀で名門大学に合格することで学校の看板になり得るものだ。それをわざわざクラスに知らせるのは、八木教諭が涼の転校を良しとしないための悪意であろう。


「はい、紹介のあった日向涼です。埼玉県の村山市から市ヶ谷に引っ越してきましたので、それに伴って転校しました。いろいろあって、休みがちになるかと思いますので、御迷惑をおかけしますが宜しくお願いします」

 涼は八木の悪意は感じたが、どうせ1年もない話だと無視して言った。


「はい、先生。ここはDクラスで外部生のクラスですよね。そもそも何で外部生が中途入学できるのですか?また、それもエリートたる特待生とは。とてもそうは見えないのですが」

イケメンで賢そうな男子生徒が手を挙げて言う。


 涼は外見で貶されるの慣れているので気にしなかったが、いささか彼のイケメンが羨ましかった。彼とて、自分への冷めた女生徒の視線がイケメンへの視線と全く違うことから、そのようにあこがれの目で見て貰いたいとの思いはある。


「うーん。それは言えないわ。いずれにせよ学校では、理事長まで図って決めたことです。私もはっきりとは訳を知りません。でも、特待生については主要科目だけだけど試験を受けてもらって、全てで95%以上の得点でしたから、通常は特待生の資格はあります」


「まあ、ミステリアスな日向 涼ということで、なにかと大目に見て下さい。ええと、君の名前は?」

「加山倫太郎だ」

 そのように応えたイケメンに涼は言う。

「そういうことで皆さんよろしくお願いね。それにしても加山君はいいな。イケメンで、頭よさそうで名前までかっこいいよな」

「な、な。お前。馬鹿にしてるのか!」


「いいや、本心を言ったまでだ。皆さん改めてよろしくお願いします」

 涼は教師の傍から一歩離れて、皆に向かって大きく頭を下げる。

「ハハハ。面白いな、こいつ」

 真ん中あたりに座った、浅黒い顔の引き締まった体の男子生徒が笑って言う。

「おれは、成瀬裕司だ。よろしくな。日向 涼」


「おお、有難う。よろしく頼むわ」

 涼が言ったとこで、八木がパンパンと手を叩き言う。

「はい、これで日向君の紹介は終わりました。日向君はそこの空いた席に座って下さい。次の数学に授業が始まるから、静かに待っているのよ」


 HRの時間に、涼を紹介したD組の担任の八木はそそくさと出ていく。涼はクラスの皆とは距離を取られたが、言葉の通り成瀬とは打ち解けた。これは一つには、涼がもはや猫を被るのをやめ地で振舞うようになったために、孤高かつ無頓着な成瀬と波長が合うことが判ったためである。


 涼の場合はこのように少し波乱があったが、彩香の場合、紹介そのものは穏やかに済んだ。だが好奇心に満ちて群がってくるクラスメートに手を焼くことになった。 女子の場合は、好奇心の的は単に不思議な転校生かつ特待生と言う意味であったが、男子の場合には彼女の容姿に魅かれたピンク色の意図であるため厄介であった。


 しかし、基本的にブルジョアの子弟が通う嘉陽学園は、3/4の生徒は小学校から持ち上げりで、まさにブルジョアであるが、D組は普通に近い家庭の子供たちである。とは言え、D組であっても特待生以外は、普通の私立の倍以上の授業料が必要である点で普通の家庭である訳がない。


 一方で、基本的な能力のない者は厳しく選別されている。なので、豊かでそれなりの能力のあるものが集まっているので、家の格による差別はあっても悪ガキが暴れるような荒れる要素はない。また、彼らは家庭教師をつけるのが普通であるので、それほど学力が悪くなることはない。


 さらには、金はかかるが、大学まである嘉陽学園内において持ち上がりで入れる。だから、よほど上昇意欲が高くなければあくせく勉強の必要はない訳で、ストレスもそれほど高くなることはない。そういう意味では高校3年生の涼のクラスの皆も、大学受験を控えているにも関わらず全体にのほほんとしている。


 中学3年生の彩香のクラスはもっとのんびりしており、それもあって彼女の皆への印象は『少々お上品』と言う感じであった。だが、廊下など学校内を歩いて他のクラスの者を見ると、動作そのものが磨かれている者がおり、『いやこれは格が違うわ』と思ってしまった。


 ところで、涼については、市ヶ谷の自の防衛省関係者の官舎である住宅に引っ越した点は、後悔し始めている。これは、涼はすでに中央研究所に重力エンジン関係の資料を渡しているのだが、航空自衛隊の強いプッシュもあって、20人態勢で資料の読み解きにかかった。


 その結果がほぼ纏まったが、こんな『とんでも理論』に基づく装置など出来る訳はないと主張するものが7割ほどいた。だが、そこに核無効化装置の実証ができたという結果がでた。知らされた、大臣はじめ上層幹部は全て、R資料(涼由来の資料を自衛隊、防衛省等の呼び名)は正しいと思うようになった。


 そして、航空幕僚長の地位にある宮坂空将から、その重力エンジンを装備した戦闘機を始め航空機の能力と必要な予算、さらにその場合の自衛隊の戦力の評価のシミュレーションの結果を知らされた。それによると、核兵器のない状態では、ロシアや中国を遥かに凌ぎ、やりようによっては総合的に米軍をもしのぐとの結果である。


 これは、重力エンジンが全く新しい推進システムであり、コストや機能・性能的に既存のジェットエンジンを大きく上回っているために、既存の兵器体系では歯が立たない。このため、比較的既存の兵器所有量が少ない日本が、先行者利益を有効に使えば、少なくとも短期的は有利になるということだ。


 そして、核の無効化装置の実現を計算に入れて、重力エンジンが戦力化できれば、ほぼ北朝鮮は無論、ロシアや中国相手でも十分対処できるとの結果である。中でも中国は現状では日本の数倍の戦力があり強敵である。


 しかし、R情報の重力エンジンの機能からすれば、量の差を十分克服できるという評価結果である。さらに、核を考えなければウクライナ相手に苦戦するロシアはもはや脅威ではない。まして世界の最貧国の北朝鮮は通常兵器での継戦能力はないため、無効化装置実用化の公表によって実質国家体制が崩壊すると見られている。


 ロシアに対しては、現在の日本からすれば、違法に占拠されている北方4島を取り戻す検討が防衛省内部で密かに始まっている。ロシアは、すでに通常戦力がお寒いことは知られてしまったので、その所有する核が無効化された際には、強国ではなく普通の国である。


 だから、ウクライナを始め不当に占領されている領土を取り返すべく、周辺諸国が動くだろうと見られている。だから、日本がその一環として動く予定だ。無論この検討は政権内部からの指示があってのことである。


 なお、中国に関しては、実質のGDPは公表されている値の半分程度とみられている。それでも日本のGDPの1.5倍あるが、その経済成長の源であった仕組みが機能しなくなった。

 

 その一つは価値のなかった土地に値段をつけてGDPを膨らませてきたことがあり、またもう一つは世界の工場として集中豪雨的に輸出によるものである。

 そして、先の一つはすでに行き詰まって、不動産の大不況を招いている。次の一つも、過剰生産よる世界市場の焼き畑化により、先進国の規制の厳格化によって国境を超えることが出来なくなった。


 しかも、その輸出そのものが利益が出ない赤字輸出であることが明らかになっている。国内産業が耐えきれなくなったために、失業者の増加と労働条件の悪化によって、国内の暴動が抑えきれなくなってきている。

 従来から中国では軍事費より国内治安保費が大きいと言われてきたが、流出した内部文書によりそれが事実であることが裏付けられた。


 このような行き詰まりを、中国政府は外征によって国民の意識を高揚させて、解決を図る可能性が非常に高まったと見られている。一方で、中国の軍事費は日本の3倍を超えるレベルを保っていて、普通に考えれば通常兵器においてはもはや日本単独では抗しえないレベルになっている。


 さらに、日本は妙な憲法に縛られているために、軍事力については、断固たる反撃ができないと世界中から判断されている。つまり、中国からすれば日本は安全な餌なのだ。


 その上に、アメリカもそれを種にして、日本に対して費用負担のみならず様々な妥協を要求するようになっており、最近ではそれが嵩じて、沖縄から軍を引き挙げる動きを見せている。このことからすれば、アメリカがR資料のことを知れば安保を絡ませた要求により取り上げる動きをすると見られている。


 加えて、国の安全保障会議では核無効化により核のない状態では、沖縄の占領程度であればアメリカは動かないのではないかという悲観的な分析がでている。つまり、一旦中国に占領させてそれを叩き出すことで、日本の属国化をさらに進めるのではないかということだ。


 従って、重力エンジンが実現可能なことを信じ、それが多くの問題は解決できると考え始めた政府首脳と、防衛省・自衛隊の幹部は本腰を入れてきた。そのような背景において、防衛中央研究所の関係者による、重力エンジンの実用化に向けての研究の報告会が開かれて、これには涼も出席している。


 研究に従事した20人余及び、実用化に必要な各部署の幹部30人余りに加え、春日防衛大臣に吉川事務次官、自衛隊の陣内統合幕僚長、宮坂航空幕僚長それに八坂中央研究所長と偉いさんがそろい踏みである。50代の研究者である主任研究員尾の田宮が、それを見て面白くなさそうな顔をして舌打ちをする。


 彼は、R資料の信ぴょう性を疑っている。核無効化装置が成功したということは聞いているが、彼レベルではR資料の一つが成功したとしか聞いていない。彼の常識では重力エンジンの基礎になっている理論などは、もっともらしくまとめられているが、『ありえない』ことだ。


 重力を自由に扱うなどということがある訳はない。さらにはその根底になっているのは、触媒回路と言う怪しげなもので、ファンタジーで言う魔方陣そのものだ。まあ、注ぎ込むのは魔法の代わりに電力ではあるが。

 装置化については、資料を涼とかいう高校生が説明してそれぞれの専門分野の研究者が納得しているので、実現は可能だろう。


 それに、さほどの規模のものではないので、作るのにそれほど時間は要しないだろう。しかし、装置が作れたところで、機能する訳のない訳のない物を作ってどうするのか呆れる思いだ。研究者として作業そのものは面白かったが、多くの物の実現性には首をかしげている。


『まあ、リーダーに指名された中川という若造は熱心にやってはいた。涼という高校生の機嫌をとって熱心に聞いていたな。まあ、機能するはずのない装置を作るための道筋はまとめたから、これからは民間の工場の役割だ。それにしても、防衛省と自衛隊のトップそろい踏みとは、どういうつもりだ?』


「はーあ。暇な連中だ、何を考えているのか?」

 もともと狷介で反抗的な田宮は、つい口に出して言ったところ、がやがやと煩かった会場が、大臣の入場もあって静かになって、傍を通っていた大臣にも聞こえた。


 元々春日は、政治家としては向こう気が強く、言いたいことは言うタイプだ。彼は足を止めて、田宮を向いた。

「ほう、君は今日のテーマの重力エンジンが実現できないと思っているのだな?」

 内心は怒っているが、口調は静かだ。


「ええ」春日は狼狽えたが、自分が正しいと思っている、彼はぐっと力を入れて言い返す。

「は、はい。私は自分が科学者としてこのようなものは実現することはあり得ないと思います」

「ほお!よく言った。しかし、エンジンの製作は可能と聞いたが、どうかね?」


「ものは出来るでしょう。機能しないだけで」

「はは、なかなかの信念だ。では、仕事として装置を作るのには全力を尽くしてくれ。そして、機能しなかったら私が君に謝るよ。反対に機能したら君は忙しいところをここに集まった皆に謝るんだ。どうだ、これだったら公平だろう?」


「え、ええ。そうですね。重力エンジンが機能すれば、会場の皆さんに向けてお詫びの文章を公開します」

「ああ。機能しなかったら私も立場があるので、公開はできないので君に直接謝ろう」

「はい」

「うん、なかなか自分の信念に自信があるのだな。まあ、最初に話をさせてくれ」


 春日大臣は、皆に向かって作られた席に歩み寄り立ったまましゃべり始めた。

「防衛大臣を拝命している春日です。皆さんがご存じのように、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、世界は一挙に流動化し始めました。そこにおいて、我が国発のある装置がその状況を一挙に動かします。


 そうした場合でも、わが国を取り巻く安全保障環境は、改善はしても厳しいものに留まるでしょう。そこにおいてこの重力エンジンが実用化され、早期に戦力化されるなら、わが国の安全保障は万全のものになります。そして、防衛省および自衛隊を率いる役割を担っている我々はその実現性を信じています。

 皆さんがこの装置の実用化に全力を尽くすように、防衛大臣の職をあるものとして要請します」


 そう言った春日は深く頭をさげ、期せずして会場から拍手が沸いた。その後、実用化に必要な作業が示され、各部署での役割が整理された。各出席者がそれを受け入れ、必要な人員・予算などの手当ての要望が出されて。この会議を受けて、次の日から正式に重力エンジンの実用化プロジェクトがスタートした。



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