とんてない崖っぷちで助けてください
「誰かぁーーー!助けてくれーーー!」
俺の助けを呼ぶ声が地割れのように開いた崖の底から響いた。
俺は冒険者A、シルバーランクの冒険者だ。
本日は魔物の森にオークを狩りに来ていた。冒険者は最悪オークが狩れれば生きていける。オーク肉と森に自生している野菜を食べれば飯に困ることはないからである。
昔馴染みのゴールドランク冒険者の2人が色々俺に良くしてくれようとするが断っている。そんな乞食みたいなことは俺の心が許さない。
オークはこの森にはたくさんいる。繁殖力が高く狩っても狩ってもいなくなることがない。
俺の目の前に一体のオークが現れた▼
オークは大きさが2mくらいで木のこん棒を持っている。俺の武器は普通の鉄剣だ。こん棒に剣が引っかかると武器をそのまま持ってかれてしまう恐れがあるので打ち合うことはしない。
オークの攻撃は大振りであり、ちゃんと見れば避けれる。俺はオークの振り下ろしを避け腕を斬りつける。脂肪が厚く一撃で斬れないがこれを繰り返していけば…
(…よし、こん棒はもう握れないな?)
オークは木のこん棒を落とした。後は頭を叩き割るだけ…そんな油断がこの状況を招いたのだろう。俺が剣を振り下ろすよりも早くオークのフックが脇腹に当たる。
「ぐへぇ〜」
力を抜いて受けたため気の抜けるような声が思わず出てしまった…
こういう時はしっかり防御するよりも全てを受け入れ脱力した方が痛くないので俺は拳の勢いのままにわざと吹っ飛んだ。
そこで俺は2つミスをした…
力を抜きすぎてうっかり鉄剣を落としてしまったこと。そして吹っ飛んだ先が崖だったこと…
「うわぁーーーー!!」
崖から落ちた俺は幸いにも崖の中腹にあった、少し広めの岩棚に引っかかったおかげで助かった。岩棚からも落ちそうになったが、全身でブレーキをかけてギリギリ堪えたよ…崖の底は見えない。底まで落ちていたら死んでいただろうな。
…崖の上の方を見てみると、オークが俺の鉄剣を片手に持って上から見下ろしているのが見えた。そしてそのままどっかに行ってしまった…
「ここを降りてまで俺を追おうとは思わんか…」
俺をここまで追いかけて殺したとしても、こんな急な崖を再び登るのは無理だろうし。そして俺もこんな崖を登れるわけもなく…
「誰かぁーーー!助けてくれーーー!」
俺はまた助けを求めることになった…
「…誰も来ない」
今この辺に他の冒険者はいないのであろう。叫ぶのにも体力が必要だ。また数時間後に助けを求めることにしよう。幸いにもこの岩棚はそこそこ広い。横になったり寝返りをするくらいのスペースは余裕である。
「今回はなんとかなるかなぁ…」
ぶっちゃけ俺はこんなピンチになることが珍しくはない。よく命の危機に陥り、助けてもらったりなんとなく助かったりしている。昔はミサキにそのことでめっちゃ怒られてたが、慣れてしまったのか今は白い目で見られるだけで済んでいる。ハサンは…基本的に助かった俺を見て大爆笑している。
俺は荷物を崖の底に落とさないようにバッグから取り出す。ミサキに作ってもらった水の魔石があるから1週間は水に困ることはないだろう。食べ物は…頑張って切り詰めれば3日分はありそうだ。
他には小さなナイフやミサキの火の魔石、医療品、簡易的な野営セット…野営セットを展開できるスペースはさすがにないか。
この持ち物で俺の岩棚サバイバルが今始まる…!!
「暇だ…」
と言っても俺がやることはない。ただ野営セットにあったシートを岩棚に敷き、崖から落ちた時にできた擦り傷に薬を塗って横になっていた。
横になれるだけこの間の落とし穴よりはマシかな。
ボッーっと空を眺めながら、俺は数時間過ごす。そろそろまた声を上げてみるか…俺が声を上げようとすると少し遠くから
「ガァルルルルル!」
「ゴォーーーー!」
魔物達の鳴き声が聞こえた。
多分そこそこ近くにたくさんいるのだろう。
(…今じゃなくてもいいかぁ)
今声を上げても来るのは魔物だけ…助けを求めるのは後にしよう。
そしてのんびりしていたらあっという間に…
3日経ち食べ物が無くなった…
「あー、俺は今度こそ死ぬのかぁ」
ここまで誰も助けに来ないことある?ミサキとハサンはどうした?いつもならもう助けに来てくれるじゃん…いや、八つ当たりだよなこれは。反省しよう。
こうなったら体力がある内に崖登りにチャレンジをするべきだろうか。滑って落ちる未来しか見えないけど。
そんな覚悟をしていたら俺のいる岩棚に一人の男が上から降りてきて俺に剣を向けてきた。
「ん?ただの人間?」
「はい…ただの人間です…」
それは勇者と呼ばれる、プラチナランクの冒険者だった…すげー、こんな近くにいるよ。俺は大人しく両手を上げ無抵抗をアピールする。
「君は…こんなところで何をしているんだい?」
「崖から落ちてずっと助けを持っていました」
「あー…あー!もしかしてAか?」
「はい、そうです。俺が冒険者Aです…」
勇者が俺を知ってる?マジで?感激なんですけどー!
「ハサンが言ってたよ!『俺の悪運だけが強い友人が森の中で助けを待ってるはずだから見かけたら頼む』って」
ハサンと勇者って知り合いなの?羨ましい!ってか悪運だけが強い友人ってなんだ!もっといい紹介の仕方してくれよ…
「悪運が強いのはホントみたいだねぇ。今街は魔物のスタンピードの対応に追われてるからね。そんな中、この森で生きてられるなんてとんでもない運だよ!ああ、もう魔物は全部倒したから街も無事だよ?」
マジか、スタンピードが起きてたのか…だから俺の助けはいつまで経っても来なかったわけか…でも無事ならいいか
「あの、すみません。俺をこの崖の上に戻してくれませんか?そこからは自分で帰れるので…」
「いいのかい?確かに僕はこの崖の底に用事があって来たからそれは助かるけど、一人で無事に街まで戻れるの?」
「大丈夫です!体力は残ってます!」
「そうなの?じゃあせめて僕の予備の剣をあげるよ」
「ホントですか!家宝にします!」
「ハハハ、ハサンの言ってた通りホントに面白い人だ。また会おうね!」
俺の足元から上に向かって風が吹き上がる。俺の体と俺の荷物が浮かび上がり、そして俺が落ちた崖の上に優しく置かれた。
ふぅー!やっと助かったぜ!
しかも勇者の剣を貰っちまったよ!
3日間頑張って生きたかいがあったわ!
俺はウキウキルンルンな足取りで町に戻った。
「うわーーーーー!Aーーーーー!」
「アイツは…プフ…死なないと…プフ…思ってたのにな…」
ミサキが祭壇にしがみつき号泣していた。ハサンはミサキの肩に手を置き肩を震わせている。遠くから見てもわかる。アレは笑いを堪えてる顔だ…不謹慎だぞ!
俺が家に戻ると俺の家の前で、俺の葬式が行なわれていた…俺の愛用していた鉄剣が祭壇に置かれている。どうやら俺と戦ったオークもスタンピードに混ざっていたのだろう。鉄剣だけ先に街にお帰りしてたみたいだ。
ど、どうしよう…ウキウキ気分が無くなってしまった。建物影からどうしようかと思って自分の葬式を見ていたら俺の頭になんか止まった。
「コヒョ?コヒョヒョヒョヒョー!」
「ちょ…」
「…えっ?」
「まあ、生きてるとは思ったぜA…ブフー」
コヒョン…空気読んでください。
「Aーーー!」
「お帰り、今回はどこで死にかけてたんだよ」
大人しく俺は葬式をしてる最中の前に顔を出した…
「どうも…まだ生きてるんで葬式はやめてくれないかな?」
お葬式に参加してくれていたみんながこちらを見る。
そして巻き起こる怒涛のお説教地獄…
どうしていつもお前は…
今度こそ死んだと思った。
ここまできたらもうワザと死んだフリしてんじゃないの?
このバカアホマヌケ!
葬式費用は自分で出せよ?
帰れなくなった経緯を話してもそれは止まることがなかった。ハサンは怒られてる俺を見て楽しそうにしてらっしゃる。
そしてお説教が終わり寄ってきたゴールデンコンビがやってきた。
「一応言っとくとな?俺は葬式の必要はないって言ったんだぜ?俺はお前が死んでないって信じてたからな」
「だってぇ…オークがAの剣を持ってたんだもん。死んだと思うじゃん…」
「オークに殴られた時にうっかり離しちまったんだよ…すまん」
「でもホントに悪運強いよなお前。スタンピードが起こったんだぜ?普通に森にいたらそれこそ巻き込まれて死だったんじゃないか?」
「悪運……そうだよ!ハサンお前勇者様になんて紹介してくれてんだ!悪運だけが強い友人って悪口じゃねぇか!」
「やっぱ勇者に助けて貰ったんだな。アイツはスタンピードの元凶をシバきに向かったから、なんとなく出会いそうな気がしたんだよ」
そういえば俺のいた崖の岩棚の下に用があるって言ってたな…ってことは何?
「…俺のいた崖の底にスタンピードの元凶がいたってこと?こわっ!」
「マジで気をつけてよねA。私たちだって毎回あんたを助けにいけるわけじゃないんだから…」
…はい。




