降ってきた初恋4
月白です。前回も読んでいただきありがとうございます!
年内最後の投稿になります。宜しくお願いします。
来年もゆるゆると投稿していきます!
注:作品内で未成年喫煙のシーンがありますが絶対に真似しちゃダメです。
side:グレン
世の中は不公平だとずっと思って生きてきたけど、こんなに強く思ったのは恩人である彼が…セロンさんが声を必死に堪えて泣いていた時だった。
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「やっと高等部か…」
春になり、俺は漸く高等部に上がった。
去年の夏、セロンさんがあんなにボロボロになってしまうまで気付かなかった自分に嫌気がさして。
今までの償いにもならないけど、出来るだけ側にいた。
俺とセロンさんのヒートの時は無理だったけど。
側に居ると困ったように笑うけど、嬉しいと思ってくれているのも伝わって結局俺は彼に助けられてばかりいる。
「セロンさん、大丈夫かな…」
今日の入学式ではセロンさんのスピーチがある。
最近は入学式の準備が忙しいからと会えて無かったので純粋に心配だ。
「グレン、もう式始まるよ!」
「今行く!」
始まった入学式でスピーチするセロンさんは事情を知らなければαに見える程堂々としていてカッコ良かった。
「(こうやって見ると少し痩せた気がする…)」
会えていない間にまた何かあったのかもしれないと思うと、ソワソワして落ち着かない気分になった。
式が終わりクラスの説明が終わると、俺は生徒会室を目指した。
今日ならまだ残っているはずだと考え、若干迷いながらも目的地に着けた。
「(居るといいな…)」
数回ノックするとセロンさんから返事が聞こえ恐る恐るドアを開ける。
「失礼します…」
「グレン、急にどうしたんだ?」
俺以外の人を想定してたのか微妙に表情が強張っていた彼はすぐに安堵の表情に変わった。
「スピーチの時、ちょっと気になった事があって…」
「それなら少し移動するか…ついて来い」
いい場所があるんだと言いながら鍵を手にしたセロンさんに首を傾げたくなるのを堪えて後を付いていく。
「何処に行くんですか?」
「まだ秘密」
そう言って連れて来られたのは高等部の屋上だった。
「普段は立ち入り禁止なんだ」
生徒会長の特権で鍵を使えるのだと理解すると、俺はつい呆れたような声を出してしまう。
「良いんですか?俺みたいな一般の生徒に教えちゃって」
「お前なら誰にも言わなそうだから大丈夫だ」
随分と信頼されていると取れる言葉に俺は簡単に嬉しくなってしまう。
「俺とセロンさんで内緒ってことですか?」
「あ〜………もう一人居る。けど、アイツは滅多に来ないから俺とお前の秘密で良いのかもな」
そう言いながらブレザーの内ポケットをガサゴソし始め、セロンさんは家では見せて貰った事が無い物を取り出した。
「セロンさん、それってタバコじゃ…」
「正解。ちょうどこの位置だと職員室からも生徒指導室からも見えないんだ」
慣れた手つきで電子煙草のスイッチをつけて紫煙を吐き出す姿はかっこよくて、注意した方が良いのについ見入ってしまった。
「……いつから吸い始めたんですか?」
「割と最近だな…」
「俺がお邪魔出来なかった間に何かあったんですか?」
一番聞こうと思っていた質問をぶつけると、セロンさんは視線を彷徨わせ諦めたように紫煙を吐き出した。
「お前、勘が鋭くなったな…」
「だって、今までならタバコに頼らなくても大丈夫だったじゃないですか…」
「そうだな…」
ちょっと疲れ過ぎたんだと言って吸い途中のタバコを携帯灰皿で揉み消すと、セロンさんは自嘲気味に笑った。
「入学式以外にも色んな行事があって、その度に番かもしれない奴と接触しなきゃいけなくなって…抑制剤の過剰摂取にならないようにこれで誤魔化すようになったんだ」
そう言うセロンさんは入学式で見た時とは全く違う、完全にΩの顔をしていた。
「セロンさんはその人のことが好きなんですか?」
「………分からない…」
「え…?」
「身体の所為で好きだと錯覚してるのか、俺自身が意識しているのか…分からないんだ」
「セロンさん…」
俺達Ωは本能の部分でαを求めてしまう。
中等部であんなに安定していたセロンさんがボロボロになる程悩むなんて
それこそ、その状態そのものが恋と呼ばれるものと同じなんじゃ無いかと言おうとして言葉を飲み込んだ。
この話はもっと…セロンさんがちゃんと番が出来た後にでも笑い話として言った方が良い気がして、俺は話を強引に変えることにした。
「俺も吸ってみて良いですか?」
「興味あるのか?」
「家だと誰も吸わないから興味あったんです」
一本だけだぞと言われ新しい煙草をつけてもらうと慣れない煙に咽せてしまった。
「お前は吸わずにいられる方が良いと思うぞ。ヒートの時は病院の所為で吸えないんだから」
「吸ってみたかったんですよ…」
「それ、勿体無いから貰うぞ」
そう言ってするりと俺の手からタバコを取るとまたプカプカと紫煙を吐き出していた。
「そう言えばセロンさん、絶対痩せましたよね?前に会った時もう少し筋肉あったと思うんですけど」
「まぁな…柔道に全然行けてないんだ」
「セロンさんの師匠、俺の爺ちゃんの友達だから心配してましたよ」
「通えそうになったら行くって伝えておいてくれ」
生徒会が忙しいのだろうなと一人で納得していると、セロンさんはちょうど吸い終えたのか灰皿でタバコの始末をしていた。
「そろそろ戻るか」
「もう大丈夫なんですか?」
「お前のおかげでいい気分転換になった。ありがとうな」
「どういたしまして」
すっかり顔つきもいつものαに見えそうなものに戻っていて、時々こうしてここで喋るのもいいんじゃないかと考える。
「今度から此処に来たくなったらメールしてくれ」
「分かりました」
+
俺が思っていた以上に生徒会はいつも忙しそうで、なかなか誘いづらい思いをしていた時。
偶然廊下でセロンさんを見かけた。
「(今なら声かけたら気付いてくれるかな…)」
そう思って声を掛けようとした時、セロンさんに先に声をかけた茶髪の男子生徒に何故か目を奪われた。
「(なんだ、これ……)」
目が離せない。
距離があるのに、その人の姿をまるで頭に焼き付けるように俺の身体は金縛りでもなったみたいに動かなくなった。
「なんなんだよ、これ…」
混乱する頭で必死に考えようとしてもうまくいかなくて
俺は動けるようになるとセロンさんにメールを送った。
メールは直ぐに返信されて、放課後に生徒会室に来るようにと書いてあった。
+
セロンさんに屋上に行きたいと言うと他の人がいないのを確認して、一緒に向かった。放課後の屋上は西陽が差して少し眩しかった。
「今日はどうしたんだ?」
「あの…えっと……ちょっと、聞きたいことがあって…」
「聞きたいこと?」
不思議そうに聞き返すセロンさんに、あわあわしながら俺は思い切って聞いてみた。
「その…今日セロンさんと廊下で一緒に喋ってた人、なんですけど……」
「廊下……あぁ、フレアの事か?」
「フレア、さん…?」
「フレア・シリウス。生徒会の副会長だ」
「フレア・シリウスさん…」
反芻するように口に出すと、廊下で見た姿を思い出して何故か頬が熱くなった。
「フレアと何かあったのか?」
「何かあったって言うか…その……自分でもよく分からない感じなんですけど…俺、その人のこと見てたら動けなくなっちゃって…」
「動けなくなった?」
「はい。金縛りみたいな感じで、目がずっとその人のこと追ってて…」
初めての感覚に戸惑う事しか出来なくて、セロンさんならこの気持ちを知っているのかと思って聞いてみたと白状するとセロンさんは何とも言えない表情をしていた。
「お前それ…恋ってやつじゃ無いのか?」
「こ、い…?」
「もしくは一目惚れ」
「一目惚れ……」
口に出してみても全く現実味の無い単語に俺は頭を捻るしかなかった。
「俺に色恋沙汰の相談は無駄だぞ。周りの友達辺りに相談してみろ。きっとお前の欲しい答えを教えてくれる」
「分かりました…セロンさんは恋ってした事無いんですか?」
「無いといえば無いな…」
恋を覚える前にヒートが来てしまったと寂しげに呟くセロンさんが、ちゃんと手を繋いで無いと何処かにいってしまいそうで俺は咄嗟に手を繋いだ。
「グレン…?」
「セロンさんも、絶対出来ますよ。俺はよく分からないけど、セロンさんなら絶対出来ると思います」
「その根拠のない自信は何処から出てくるんだ」
変な奴とクスクス笑って言われ、俺は至極真面目に答える。
「セロンさんは幸せにならなきゃダメです。と言うか、なってくれないと嫌です」
「お前は優しいな…」
「俺はセロンさんに今みたいに笑ってて欲しいんです。だから…だから……」
必死に言葉を探している俺の頭を撫でて、セロンさんは寂しそうに微笑むだけだった。
「お前の気持ちだけで充分だ。ありがとう」
「セロンさん…」
「中身は変わって無いのに、いつの間にか身長抜いてるのがムカつくけどな。お前少し縮め」
「無理な事言わないでくださいよ」
言われて初めて気が付いた。
いつの間にか身長でセロンさんを抜かしていたんだ…
ずっと自分より大きい印象だったからすごく変な感じだ。
セロンさんに話を逸らされた気がするけど、きっと聞いて欲しく無いからだと思った俺はそれ以上言えなかった。
セロンさんがタバコを一本だけ吸ってる間にポツポツ近況を話して、吸い終わると一緒に屋上を出た。
+
セロンさんに言われた恋、もしくは一目惚れなのかがよくわからない俺は翌日クラスの腐れ縁二人に相談する事にした。
「で、この感じってなんだと思う?」
「恋だろう」
「恋だね」
やっとグレンに春が来たか〜と言う友人・凛蓮に俺はムッとする。
「なんだよ、やっとって」
「今時保育園児でも初恋はあるのに、高等部になって漸くでしょ?やっとって言いたくなる」
「そうだな。特にお前はΩだから、余計にそう思う」
「ケイまで酷い…」
もう一人の友人・螢灼にまで言われて俺はショックを受ける。
そんな珍獣みたいな扱いになるなんて…
「でもなー、相手が悪いよね」
「相手が悪いって?」
なんの話か分からなくて首を傾げると、レンは呆れたように溜め息を吐く。
「非公認のファンクラブがある程人気者だって事。フレア先輩もセロン先輩も中等部の頃からあったよ」
「セロンさんも?」
「だってあの人αでしょ?」
みんな外見でしか判断して無いんだなと思いつつ、本当はΩですなんて言ったら一大事になる気がして俺は頷くに留めた。
「二人ともイケメンで、頭良くて、運動も出来てって、女子が好きな要素満点じゃん。ファンクラブも、本人達の迷惑にならないようにするのが絶対条件で入会出来るって聞いた事あるなぁ」
「そんな凄い人なんだ…」
「だから、セロン先輩の弟ポジションにいるグレンも結構注目されてるんだよ。気付いてた?」
「は……?」
なんだそれ。初耳過ぎて開いた口が塞がらない。
「お前のファンクラブは中等部の頃あったぞ」
「え、え、はぁ?!」
「中等部三年の時にひっそりこっそり活動されてたんだよ。俺とレンで誤魔化してたけど」
ヒートと日常生活でいっぱいいっぱいだった俺にそんなものがあったなんて知らなかった…
と言うか……
「それって俺がΩだってバレてるんじゃ…」
「それが意外とそうでもないんだよね」
「え?」
「身体の弱いαだって嘘の噂流したらみんな信じた」
「はい?」
「だってグレン、Ωだってバレたく無いんでしょ?だったら嘘の噂で誤魔化せるなら良いかなって…」
「それは…そうだけど……」
二人に秘密にされてたのが面白くなくて、変な顔になってしまう。
「それにファンクラブ出来た頃、お前剣道で結構筋肉ついてきたり身長伸びたりしただろ?意外とαって言っても信じる奴が多かったんだ」
「成る程…」
それで生活に影響が無かったんだと知り、複雑な心境になる。
「まぁ、ファンクラブの話はこれで終わりって事で良いとして。グレンはフレア先輩の何を知りたいの?」
「何って…」
「プロフィールくらいならファンクラブの子に聞いて教えて貰えるよ?」
「プロフィール…」
「と言うか、お前『好き』が良く分かってないだろ」
ケイに痛いところを突っ込まれて頷く。
「好きにも種類がある事ぐらいは知ってるだろ?」
「馬鹿にしてんのか」
「馬鹿じゃ無いのか?」
「友達とか家族に向けた好きぐらい知ってる!」
流石に失礼過ぎると怒るとケイに鼻で笑われた。
「じゃあ恋人に向けての好きは?」
「それは………」
「やっぱり馬鹿じゃないか」
「ゔぅ……」
本当に分からないんだ。仕方ないじゃないか
「今のお前みたいに相手を良く知りたいとか、一緒に居たいとか、同じくらい好きになって欲しいとか…人によって様々で重たくなる奴だって居る」
「グレンはヤンデレとかにならないでね。私達まで被害に遭いそうだから」
「ヤンデレ?ってなんだ?」
そこからか!とレンに呆れ気味に言われ変な事を聞いたのかと心配になる。俺が言った言葉に何か閃いたのかレンは鞄をゴソゴソし始めた。
「グレンだったらこう言う方が分かりやすいかも」
はいと手渡されたのは少女漫画で、俺は意味が分からなくて首を傾げる。
「漫画で何が分かるんだ?」
「恋人に向けての好きが分かる、一番良い参考書とでも思って読んでみな」
「参考書ね…」
「貸してあげるから家で読んでみて」
「分かった」
ちょうど始業のチャイムが鳴り俺達は自分の席に着いた。
+
家に帰ると、俺はレンから借りた少女漫画に目を通した。
確かに、恋愛の参考書だなと思いながら最後まで読み切って本を閉じる。
「フレア先輩、か…」
俺が知ってるのは髪の色とチラッと見えた瞳の色だけ。
でも、その瞳と目を合わせたいと思うと胸のあたりがギュッとなった。
「プロフィール…教えてもらおうかな……」
こんなに誰かの事を気になるのが初めてで、なのに嫌な気分にはならなくて
むしろもっともっと知りたいとすら思ってしまって…
少女漫画の主人公でもあるまいしと思いつつも、これが恋なんだろうと俺は漸く自覚した。
次回は1/5の11時くらいに投稿予定です。




