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降ってきた初恋3

月白です。思っていた以上に皆さまに読んで頂けていて嬉しいです。ありがとうございます。

今回のお話は登場人物がちょっと多いので、設定を読んでいただいてからの方が読みやすいかと思います。宜しくお願いします。




side:セロン

高等部に上がり、即生徒会に入る事になった俺とフレアは高等部の生徒会室に来ていた。

そこには申し訳なさそうな顔をするリーフ先輩と見知らぬ先輩方が集まっていた。


「マクシム、シリウス君、本当にすまない…」


俺だけじゃ止められなかったんだと渋い表情で頭を下げられ、この人は本当に人が良すぎると苦笑してしまった。


「新入学生が生徒会長って言うのは如何(いかが)かと思うんですが、先輩達はそれで良いんですか?」

「だって君達、中等部で色々面倒だった作業の効率化とかしてくれたみたいじゃん。それなら高等部でもその手腕を発揮して貰った方が良いし、早いに越した事は無いでしょ?」


あっけらかんと笑いながら指名された理由を言われ、俺は辛うじて頭を抱え込みたくなるのを堪えた。


「せめて入学式だけは先輩方だけでやってください。後は諦めて引き受けます…」

「そう言う事ならOKだよ。宜しくね、マクシム君、シリウス君」

「宜しくお願いします」


そう言えば担当の教師は誰なのだろうかと聞こうとすると、ドアがノックされどうぞー!と先輩の一人が返事を返すとドアが開いた。


「もう顔合わせしていたのか?」

「あ、黒鵺(くろぬえ)先生!今丁度してたところだよ!」


黒鵺先生と呼ばれた教師に目を向け、俺は直ぐに後悔した。


身体が、理性が、言うことを聞かない。

この人が欲しいと本能が暴れて歯止めが効かない。


「(まさか、これが運命の(つがい)…?)」


こんな暴力的な本能を、俺は知らない。


一気にヒートにでもなったかのように身体が熱くなって、隣にいたフレアの服をギュッと掴んだ。


「セロン…?どうした」

「どうかしたのか?」


心配そうな声すらも肌が粟立って止まらない。


「っ……ちょっと、具合が悪くなってしまって…」


必死に此処から逃げる口実を探そうとするのに頭が働いてくれない…

服越しに熱が伝わったのか、フレアが手を覆ってくれた。


「直ぐに休んだ方が良さそうなので、今日は連れて帰ります」

「身体、お大事にねマクシム君」


労ってくれる声に返事を返す余裕もなく、フレアに引っ張られる形になりながら生徒会室を出た。


「お前の家に行くか?」

「っ……何処、でもいい…」


早くあの声を消して欲しくて

暴走して止まりそうに無い本能を止めて欲しくて

頭がおかしくなりそうだった


俺の様子が普通じゃないと察したフレアがタクシーを拾って、俺を家まで届けてくれた。


「ベッドまでは歩けるか?」

「多、分…」


荒い呼吸のまま何とか寝室に着くと、今まで散々避けてきたキスをフレアにしていた。


「セロン、どうした?」


ただ事では無い状態の俺にフレアはどうすれば良いのか珍しく困っているようだった。


「…っ……上書き、して…くれ……」

「上書き…?」

「酷くしていいから…!…助けてくれ……」


頬が何かで濡れている気がしたけど、どうでもいい

早くあの男の声を、気配を、消して欲しくて

辛うじて残っていた理性の切れ端で避妊薬を飲んで、初めて溺れるようなセックスをした。


「落ち着いたか…?」

「何とか、な…」


もう何度達したのかわからないほど欲に溺れて、自己嫌悪しかなかった。

フレアは何が起こったのか深く聞いてこず、ただ隣にいてくれた。


「お前が居てくれて助かった……ありがとう…」

「急にヒートになったのか?」

「ヒートじゃない気がする…」


あくまで俺の感覚に過ぎないが、巻き込んでしまっている以上フレアには話しておかなければいけない。


「声をかけてきた教師が居ただろう?」

「あぁ…」

「多分あれが、母親の言ってた運命の番なのかもしれない…」


俺の言葉に(にわ)かには信じがたいのかフレアは黙り込んだ。


「そうだとしたら本当に…どうしたら良いのかわからない……」


声を聞いただけでこんな風に乱されるなんて、思ってもみなかった…


「番を見つけた事は喜ぶ事じゃ無いのか…?」

「こんな状態になるのにか?むしろ出会いたく無かった…」


これなら今までの安定した日常の方がずっとずっと良かった

こんな、支配されたい、全てを自分のものにしたいなんて恐ろしい本能に目を背けたままでいたかった…


「あの教師と出来るだけ接点が無ければ、こんな事にはならないと思う…」

「そうか…」


そんな僅かな願いすら、神様とやらには届いていなかったようで

俺は入学式に人生で三度目の最低最悪な日を味わう羽目になった。



入学式の教師紹介で雨月黒鵺(うづきくろぬえ)と紹介された(恐らく)運命の番は生活指導と生徒会の担当らしく、生徒会に所属している限り頻繁に接点があるようだった。


「こんな事なら引き受けるんじゃなかった…」


誰にも聞かれないくらい小さな声で本音が口から出てしまった。

唯一の幸いは姿が遠すぎてよく見えていない分本能が暴走していない事くらいだ。


「(生徒会以外にも接点がありませんように…)」


心の中で必死に祈ったがそれも儚い祈りでしか無かった…


「このクラスを担当する事になった雨月だ。一年間宜しく頼む」


入学式を終えてクラスに入ると最悪な事にクラス担任として再会してしまった。

おかげでまた身体が言うことを聞かない。

ただ話をしているだけなのに、背筋がゾクゾクする。


「(念のために持ってきて良かった…)」


雨月が連絡事項を伝え終え教室から去ると、俺はすぐに抑制剤を飲み込んだ。


「セロン、大丈夫だったか…?」

「セロン、具合悪いの?なんか顔赤いよ?」


偶然同じクラスになれたフレアとグラッドが寄ってきて、気が抜けて机に突っ伏してしまった。

グラッドに指摘された通り今頬のあたりに熱が集まっていて、冷え切った机が心地良かった。


「大したことじゃないから大丈夫だ…」

「具合悪いなら保健室行けば?」

「いや、そこまで悪い訳じゃない…」


グラッドの純粋な心配が今の俺には心苦しい。

既に事情を把握しているフレアはなんとも言えない表情をしていた。


「(グレンは常にこんな感じだったのか…)」


最近あまり連絡の取れていない弟分を思い出し、ヒートの度にこんな思いをしていたのかと身をもって理解すると同時に心から同情した。


「(運命の番なんて出会わなければ良かった…)」


それとも本当に番になってしまえば解放されるのだろうか…?


「現実的じゃない…」

「え?何か言った?」

「いや…なんでもない……」


とりあえず今の俺に出来る事は本能を押さえつける事。

その為にも病院に行かなければいけない。


「生徒会の仕事っていつから始まるか聞いてるか?」

「いや、聞いていない」

「もし集まりがあっても欠席するって伝えてくれないか?」


急いで帰り支度を整えると、フレアは何処に行くのか気づいたようだった。


「あぁ、分かった」

「セロン、何か用事でもあるの?」

「急用が出来たんだ。もう帰っても大丈夫そうだから行くな」

「気をつけてねー」


足早に学園から出るとそのまま行きつけの病院に向かった。

病院では主治医に抑制剤を多く処方して欲しい事、もしかしたら運命の番を見つけてしまったかもしれない事を包み隠さず話した。


「そう言う事ならその人に番になって貰った方が身体の負担は少ないよ?」


困ったように背もたれに身体を預ける主治医に、何としても薬を貰いたい為本音を話す。


「俺は本能で自分を抑えきれないのが嫌なんです。ただ普通に生活したい…それだけなんです」

「うーん……まぁ、相手が教師で担任ともなると関係を持つにしてもリスキーだよね…」


主治医もどうするのが得策なのか考えあぐねているのか、頭を悩ませている。


「中等部では何とか誤魔化せていた事が出来なくなるのは嫌です…」


せめて学園にいる間だけは、俺は俺のままでいたかった。

無意識に奥歯を噛み締めて俯いていた俺に、主治医は息を吐くと苦笑しながら言った。


「そこまで言うなら仕方ないか……でも過剰摂取は絶対駄目だよ?ヒートのバランスが崩れちゃうからね」

「気をつけます…」


何とか抑制剤を多めに処方して貰い、そのまま帰路に着いた。



それからの日々は、ほぼ地獄だった。

会いたくなくても担任だから最低二回、授業や生徒会がある日は四回雨月と顔を合わせなければいけなかった。

おかげで多めに処方して貰った抑制剤も、毎日服用するから月に一回は病院で処方して貰うしか無かった。

そして主治医が危惧していた通り、中等部では規則正しくきていたヒートが不規則になった。

完全に毎日飲み続けていた副作用だろう。

それでも周囲にはΩだと気付かれないように細心の注意を払って乗り切った。


「身体が怠い…」

「薬のせいか?」


生徒会室でフレアと二人で書類整理をしていて気が緩んでいたのか、口に出す気が無かった言葉が漏れていた。


「ヒートが不規則になったせいだ。薬のせいでもあるのか…?」

「今日は早く帰ったらどうだ?」

「そうするか…」


現に体調がだいぶ悪い。

大人しくフレアの言う事を聞いた方が良さそうだと判断し、そのまま家まで帰った。



(ようや)く訪れた夏休み

俺は姉のユーリからバイトをしないかと持ちかけられ、その提案に飛びついた。

姉は昔から占い関係に才能があったらしく、自分で店を構えられるほど人気と信頼を得ていた。店も学園から距離があり、受験の願掛けなどで利用したい生徒がどうやって行こうと悩んでいるのを耳にした事もある。

なので本音を言うと、夏休みの間少しでも学園から距離を置きたかった俺からすれば好都合だったのだ。


「姉さん、久しぶり…」


高等部に上がってから一度も顔を合わせていなかった姉は俺を見るや否や手を掴み、仕事を手伝うであろう占いの店のスペースではなく居住スペースに連れて行かれた。


「姉さん、どうしたんだ…?」

「それはこっちのセリフ。セロン、何があったの?そんなにガタガタなフェロモンになって…」


中等部では安定していた時に会っていたのですぐに気がついたのだろう。

女でもαはαなのかとつい感心してしまった。


「言わないと駄目か?」

「正直に言わないと、お父様達にそのまま話すわよ」

「分かった…」


下手をしたら転校させると言い出しそうな両親が目に浮かび、俺は渋々事情を話した。

話し終えると姉は深く溜め息を吐いて俺を寝室に放り込んだ。

相変わらず馬鹿力だ。


「バイトは明日からでいいから今日はずっと寝てなさい。抑制剤は飲んじゃダメよ」

「良いのか?」

「此処ならその番かもしれない人は来ないから、安心して休みなさい」


そう言われて俺は肩から力が抜けた。


「そんなにガタガタって事は、昨日まで毎日抑制剤飲んでたの?」

「ヒートもあったからな…」

「ヒートがあったのはいつ?」

「昨日で終わった…」

「そう…なら、此処にいる間は抑制剤禁止。分かった?」

「分かった…」


眠りやすいようにお香が焚かれ、俺は気付くと深く眠ってしまっていた。


翌日からは店の手伝いではなく、姉の食事作り要員として働いた。

俺の波のあるフェロモンが客を刺激するかもしれないと姉から提案されて大人しく従う事にした。

実際問題、中等部のグレンのような状態になっている今の自分はあまり人前に出たくなかった。

特にプライベートな時間は一人でいる方が気が楽だった。


「グレンに会いたい…」


唯一気兼ねなく、緊張もせずに一緒に居られるグレンに会いたいとつい思ってしまう。

高等部と中等部ではなかなか時間も合わないし、俺が生徒会で忙殺されていたから会う時間なんて取れていなかった。

このバイトが終わったら連絡しようと心に決めると、出来上がった料理を並べ姉を呼びに行く。


「姉さん、出来たぞ」

「ありがとう。すぐ行くわ」


ちょうど客の波も引いていて、店の看板をopen からclose にひっくり返し中に戻る。


「今日のご飯何ー?」

「トマトの冷製パスタとサラダ」

「今日はトマトの気分だったから良かったー」


嬉しそうに食事をする姉を見て、何処か安心している自分がいると気付き苦笑してしまう。

どうやら抑制剤のせいで精神的にもボロボロだったようだ。


「夕食のリクエストは?」

「キムチ鍋!日本酒冷やしておいてね!」

「暑いのに鍋か…」

「良いじゃない、エアコンガンガンにしても良いわよ」

「そこまでしなくても良い」


他愛ない家族との会話がこんなに癒されるのだと初めて知った。



姉の店でのバイトが終わり、家に戻ってくると俺はグレンに連絡を取った。

グレンも連絡しようとしていたのだと言われお互い笑ってしまった。

連絡を終えると、すぐに家にグレンがやってきた。


「セロンさん、お久しぶりです」

「グレン…お前デカくなって無いか?」

「15センチ伸びました!」


まだまだ伸びますよと嬉しそうに言うグレンに、つい文句を言いたくなる。


「前はあんなに可愛かったのに…」

「可愛いって…」


男が言われても嬉しくないワードにグレンは苦笑すると、何か気付いたのか表情が曇った。


「セロンさん、何かありました?」

「何かって?」

「なんか俺みたいになってません…?」


とりあえずお邪魔しますと中に入ったグレンに続き、俺も部屋に入る。


「そんなに分かりやすいか?」

「気をつけて見ないと分かんない感じですけど…なんか、変です」

「そうか…」


これでも姉のところで抑制剤断ちをしていたからマシになっていた方なんだと伝えると、グレンは心配そうに顔を覗き込んできた。


「無理しちゃダメですよ。俺で良ければ話相手になりますから」

「ありがとう…」


グレンの近くは以前と変わらずふわふわしていて心地良くて、俺はソファーに深く腰掛ける。


「お前は運命の番が良い人だといいな…」

「どう言う事ですか?」


隠す気もあまりなかったので、グレンにフェロモンが乱れた原因を話すと顔が青白くなっていた。


「お前まで具合が悪くなってどうするんだ」

「だって、セロンさんでそんな風になっちゃうなら俺どうなっちゃうか分からなくて…」


性行為なくヒートを乗り切っているグレンからすれば恐怖に近いのかもしれない。

本当に俺は運が悪かっただけなんだ…


「怖がらせるつもりは無かったんだ…悪かったな」

「話してもらえて良かったです。また俺会いに来ますよ。セロンさんが楽になるなら」

「そんな事言ったって、お前にも用事とかあるだろう」

「恩人を見捨てるほど薄情じゃないですよ」

「恩人って…」


あまりにも真剣な表情で言うから俺は固まってしまった。


「あの日、兄さんにセロンさんを紹介してもらえて無かったら俺はきっと酷い事になってた。セロンさんが教えて助けてくれたから、俺はここまで強くなれたんです」

「グレン…」

「だから今度は俺を頼ってください。買い物でもなんでも一緒に行きますから」


そう言われて、気付くと頬が濡れていた


「セロンさん⁈大丈夫ですか?」

「大丈夫だ……ありがとう…」


フレア以外に頼っても大丈夫な人になってくれたグレンが嬉しくて、気づいたら涙が溢れ続けた。


「泣ける時に泣きましょう?セロンさん学園じゃ絶対泣けないんだから」


ギュッと抱き締められて背中を摩られ、殆ど残ってないプライドで声だけは出さないようにして思い切り泣いた。


本当は辛かった

番に愛されたいと叫び続ける本能を押し込めるのは

出来る事なら俺だって本能に従ってしまいたい

でも、相手は教師でしかも担任だ

どう考えたって番になってくれそうもない

これが恋だと言うのなら、俺の初恋は気付いた時点で失恋している


次回は12/29の11時くらいに投稿します

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