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降ってきた初恋2

side:セロン

リーフ先輩が卒業し、俺が生徒会長フレアが副会長になってから暫く経った頃。

先輩から連絡が入った。

なんでも、俺に弟を紹介したいらしい。


俺は先輩に指定されたこじんまりとした喫茶店に向かうと、先輩と同じ髪色をした俺より少し小柄な子が視界に入った。


「お待たせしました、先輩」

「休みなのに悪かったな、マクシム」

「いえ、今日は生徒会も無かったので大丈夫です」

「それなら良かった。こいつがお前に紹介したいって言った弟のグレンだ」


グレンと呼ばれた先輩の弟は少し困ったような表情を浮かべて俺に会釈した。


「初めまして…」

「初めまして。生徒会長のセロン・マクシムだ。見覚えはあるか?」

「全校集会の時に…遠くてよく見えなかったけど…」

「生徒数多いからな…大抵はそんなもんだろう」


苦笑混じりに覚えてなくても大丈夫な事を伝えるとホッとしたのか強張っていた表情が少し緩んだのが分かった。


「それで、今日会わせたって事は何かあったんですか?」

「あぁ……ちょっとな」


苦虫を噛み潰したような表情をする先輩を見て、俺は嫌な予感を覚える。


「何があったんです?」

「同級生のαに襲われかけたんだ」

「ヒートだったんですか?」

「いや、ヒートはまだ来てない…」


ヒートでも無いのに襲われかけたと言う事態に俺は冷や汗が出た。

それはつまりフェロモンが自身でコントロール出来ていないって事だ。

そんな状態でフラフラ出歩いたら本当にレイプされてしまう。


「病院には連れて行ったんですか?」

「あぁ。でもヒートの時に使う抑制剤を処方されただけなんだ。生まれつきのフェロモンの調整は難しいらしい…」

「成る程…」


だから俺に連絡をしたのだと納得した。

俺は幸いにもフレアがパートナーとして相手をしてくれているが、グレンにはそういったパートナーが居ないのだろう。


「もしヒートが学園で起きた時は保健室に行けば何とか早退させてもらえる。でも家で来た場合は絶対に外に出たらダメだ」

「じゃあどうすれば…」

「俺に直接連絡しろ。家の場所を教えてくれたら俺が面倒見てやる」

「良いんですか?」

「俺も初めてヒートが来た時はヤバかったからな…同じΩの方が気が楽だろ?」


俺の言葉に安心したのか、グレンはやっと表情が和らいだ。


「ありがとうございます」

「気にするな。それより確認したいんだがいいか?」

「はい、何ですか?」

「お前襲われかけた時どうやって逃げたんだ?」

「友達が偶然助けてくれたんです…一緒に帰る約束だったのに俺が来なかったから…」

「その友達はαなのか?」

「βです…」


少ししょんぼりとしてしまったグレンに俺は失言だったと気づいた。


「もしかして、βしか周りにいないのか?」

「はい…」

「そう言う事か…」


それで先輩は俺にこんな頼み事をしたのかと腑に落ちた。

確か先輩もβだ。

看病は出来てもそれ以上の事は教えられないし、助け方も分からないのだろう。


「今日、このままお邪魔しても良いですか?グレンに色々教えておいた方が良いと思うんですが…」

「そうしてもらえると助かるな…」


移動するかと先輩が動くと俺とグレンも後を着いて行く。



着いた先は先輩とグレンが暮らしている家だった。


「先輩、確認なんですがご両親って…」

「俺たちが初等部の頃に事故でな……保護者は祖父母になってる。学園からはちょっと距離があるから俺たちだけで此処で暮らしてる」

「じゃあ、先輩が行事で居ない時は…」

「昔は祖父母の家に泊まらせてた。けど、この間の事もあるからあまり出歩かせたく無いんだ…」


自分達だけではどうにもならなくなっているのが伝わり、もし迷惑で無ければと一つ提案する。


「なら俺の家に泊まらせますか?」

「良いのか?」

「Ω同士なら大丈夫ですよ。迷惑でしたか?」

「いや…そうしてもらえると有り難い」

「グレンは嫌か?」

「嫌と言うか…迷惑じゃありませんか?」


本当に提案に乗って良いのかと不安そうなグレンの頭を撫でてやる。


「大丈夫だ。部屋も余ってるしな。ただ、俺がヒートの時は泊まらせてやれないんだ…それでもいいか?」

「はい。ありがとうございます」

「とりあえずグレンの連絡先教えてくれ。ヒートになったらすぐ病院に連れて行ってやるから」

「ヒートって、どんな感じになるんですか?」

「あー………お前の部屋で話すか。ちょっと言いにくいから」


流石に先輩の前で性行為に関するような話はしづらい為、グレンの部屋に入らせてもらった。


「ヒートの話の前に、病院で貰った薬見せて貰っても良いか?」

「はい。これです」


グレンから見せられたのは俺がヒートになった時に使ってる抑制剤だった。

これを常日頃から飲まないといけないのは不憫としか言いようが無い。


「病院でチョーカーは貰ったか?」

「チョーカー…?」

「これのことだ」


今自分が着けているチョーカーを外してグレンに見せる。

透明な素材で出来ているチョーカーはグレンは見た事が無かったのか不思議そうに眺めた。


「どうしてこれを着けるんですか?」

「勝手に番にされないためにだ。αの中には簡単に番にして捨てる屑が一定数いる」

「そんな…」

「お前も友達が助けてくれなかったらそうなってたかもしれないんだからな。フェロモンが強いって自覚はないと思うけど、身を守る為には着けた方が良い」


一気に青ざめたグレンによほど襲われかけたのが怖かったのだと同情してしまう。

俺はある意味運が良かったのだと複雑な気分になるが、顔に出すような事はしなかった。


「それ、使って良いぞ」

「え、でもセロンさんの分が…」

「俺はこの間ヒートだったから暫く大丈夫だし、お前は早めにチョーカーに慣れた方が良い。付け方教えてやるから覚えろよ」

「はい…」


グレンにチョーカーの装着の仕方を教えて漸くヒートの話をする事になった。

やはりと言うか、性行為で緩和されると知るとグレンは嫌そうに顔を顰めた。


「俺男なのに…」

「Ωの宿命だな…」

「セロンさんは嫌じゃ無いんですか?」

「俺は割り切ってるからな…こいつだったら自分本位に抱かないって信頼してる奴に頼んでるから割り切れてるのかもしれないけどな」


そう言いながらフレアには感謝してもしたり無いと内心で溜め息を吐く。


「色々教えてくれてありがとうございます」

「気にするな。俺もΩの知り合いが出来て嬉しいから」


そろそろ帰るかと携帯を取り出し、そういえばまだ連絡先を交換していなかった事に気付く。


「グレン、連絡先教えてくれ」

「あ、はい」


連絡先を互いに交換して、俺は帰り支度を整えた。


「学園で困ったことがあっても連絡して良いからな」

「ありがとうございます」

「じゃあ、また学園で」


先輩にも挨拶して俺は帰路に着いた。



先輩とグレンの家にお邪魔してから暫くして生徒会の仕事が忙しくなりかけてた頃、グレンから連絡が入った。

律儀に本当にヒートになったら一番に連絡をしてくれたようだった。


「家に居るのか?」

『はい…』

「少し待てるか?病院連れて行ってやるから」

『はい…待ってます…』


電話でも分かりやすいくらい具合が悪そうで、俺は急ぎの案件だけを捌いて帰り支度をした。


「セロン、急用でも出来たのか?」

「あぁ。残りの仕事任せて良いか?」

「あぁ、大丈夫だ」


フレアに残りの仕事を任せ、俺はグレンの家に向かった。

家に着いてチャイムを押すと少し時間がかかったがドアが開いた。


「セロン、さん…」

「かなりキツそうだな…病院行く準備出来てるか?」

「何、とか…」

「タクシー呼ぶからちょっと休んでろ。来たらすぐに行くぞ」

「はい…」


携帯でタクシーを呼び、グレンが受診した病院に連れて行くとグレンはすぐに病室に連れて行かれた。

先輩の代わりに話を聞くと、初めてのヒートが重く点滴を打って様子をみた方がいいとの事だった。

すぐに先輩に連絡を取ると先輩は慌てた様子で駆けつけて来た。


「マクシム、グレンは?」

「今点滴中です。様子見に行きますか?」

「あぁ」


病室に着くと、グレンが点滴をしている横で先輩は深く息を吐いてグレンの手を握り締めた。


「グレン…ごめんな……」

「兄、さん…?」

「お前が苦しんでるのに、俺は何もしてやれない…」


何故周囲がβの中グレンだけがΩなのか

支えてやりたいのに、自分達はまだ子供で守り切れない現状が先輩を苛んでいるのが伝わってきた。


「ヒートの時は病院で過ごす事になりそうですね…」

「そうだな…」


下手に家で閉じ籠って居るよりは安全かもしれないと先輩は呟き、俺も同意した。


「せめて番が出来たらな…」


フェロモンも性衝動も全て番のαにしか向かない分、こんな風に病院で耐える事をしなくて済むと思うと言いかけて言葉を飲み込んだ。

そんな簡単に番が見つかれば苦労しない。

現に俺だって番を見つけられていない。

つくづく現実はΩに優しくないと溜め息を堪えた。


結局グレンは数日入院する事になり、グレンの祖父母も入院中は様子を見てくれる事になった。


俺はといえば、グレンの日頃の話し相手として一緒にいるようになった。

ヒートが近くなる感覚がグレンにはまだ掴めていない事もあって、一緒にいる時にヒートになる事もしばしばあり危なっかしいとしか言えなかった。

弟がいるとこんな感じなのかと思うと先輩が苦労性なのも分かる気がした。



「そう言えば、お前のお爺さん剣道の師範なんだって?」


俺の家でグレンと色々喋っている時、ふと頭をよぎった話題を口にした。


「ふぇ?何ですか急に」

「お前危なっかしいから護身用に身体鍛えた方が良いぞ」

「護身用に…」

「お前と一緒に歩いてるとαがチラチラ見てるのがよく分かるからな」


抑制剤で抑えているとはいえ、微量に漏れているフェロモンを鼻の良いαが捉えて見てくるのだ。

初めてのヒートの時に経験したあの嫌な視線は筆舌に尽くし難い。


「やっぱり鍛えた方が良いですかね…」

「俺も知り合いの伝手で柔道始めたしな」

「そうなんですか?意外…」

「俺も本当はしたくないけど、念のためにな。自分の身は自分で守るに越した事は無いだろう?」

「そう、ですよね…」


一度襲われかけた経験もあるからか、グレンはギュッと拳を握りポツリと呟いた。


「俺、やってみます…爺ちゃんなら事情分かってるから教えてくれると思うし」

「頑張れよ」

「セロンさんと一緒にいるの落ち着くから、時間が減るの残念なんですけどね」


苦笑混じりに言われ、俺は思わず面食らった。


「そんなに落ち着くか?」

「多分Ω同士だから警戒しなくて済むからだと思います」

「警戒しなくて済むね…一理あるな」


確かにこのふわふわした空気はグレンが持つ特有のものなんだろう。

本人は自覚して無いが、顔も整ってるし馴染めば屈託無く笑う姿は可愛い。

番になれるαは幸せ者だなと他人事だからこそ暢気(のんき)に思ってしまう。



それからはあっという間の日々だった。

俺は生徒会と柔道の稽古、グレンはほぼ毎日剣道の稽古で一緒にいる時間が取れなくなった。

学年が違うからメールで他愛無い話をしたりはしていた。

グレンはヒートになったら病院に入院する事に落ち着いてからは自分で行けるようにもなり俺の出番はほとんど無くなっていた。


「これで良かったんだろうな…」

「何の話だ?」

「別に…弟分が手が掛からなくなったと思っただけの話だ」


ヒート中の相手を未だにフレアに頼っている自分はグレンより進歩しているのか疑問だが、安定していると言う事実には変えられなかった。

俺の独り言の意味がよく分からなかったのかフレアが不思議そうに眺めてきたのが面白くてつい笑ってしまう。


「いつまでもお前に俺の相手をさせるのもどうかと思っただけだ」

「今更だな…始めは一度だけだと言われたにも関わらずこうなっているんだからな」

「身体の相性は良い方が良いだろう?」

「………否定はしない」


傍目から見てもフレアはかなり上等な部類に入るαだろう。

無愛想ではあるが気配りは出来るし、最近ではモデルのバイトも始め肌の手入れもキチンとしているから清潔感もある。

加えてずっと柔道と空手を続けているからか身体もかなり男らしくなっている。

それを独り占めしているのだから、他のΩに文句を言われても仕方がないと思っている。


「もうすぐ高等部か…」

「高等部でも生徒会はあるのか?」

「リーフ先輩の所為では無いと思いたいが、入学していきなり生徒会長をやれだからな…お前も道連れだけどな」

「…聞いてないぞ」

「言ってなかったからな」


盛大な溜め息を吐くフレアに苦笑し、何ともなしに頭を撫でる


「俺ら以外は上級生だ。ちゃんとフォローしてくれる」

「フォローが無ければ俺は抜けるぞ」

「言うと思った…」


大方中等部の生徒会の話を聞いた高等部の生徒が面白がって俺とフレアを指名したと言うあたりだろう。

与えられた仕事をまた精一杯やるだけだと割り切る事にした俺とは違って、フレアは俺以上にやらなければいけない事がある。フォローするのは当然の事だ。


「また三年間宜しくな」

「そうだな…」


まさかその高等部に入ってから事態が大きく変わる事になるなんてその時の俺は知る由も無かった。


次回は12/22に投稿予定です。

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