降ってきた初恋1
side:セロン
人生で最低最悪な日はいったい何日あるんだろうか。
少なくとも俺は既に二度ある。
一度目は自分のバース性がΩだったと医者から告げられた時。
同じタイミングで検査を受けた姉がαだった事も原因の一つだろう。
母がΩで父がα、確率は2分の1だったにも関わらず俺がΩ。
小学生だった事もあって当時の俺は母と同じなのかくらいにしか思って無かったが、高学年で授業で性について学び鈍器で頭を殴られたくらいの衝撃を受けた。
まさか男が孕めるなんて、それこそ自分は男なのに何故だと信じてもいない神を恨んだ。
二度目は初めてヒートが来た時。
中等部に進学していた俺は母から念のためにと抑制剤をもらっていたが、こんなに感謝したいと思ったのは初めてだった。
ヒートになると性のことで頭が埋め尽くされる。
しかもその性の相手を男性に求めたくなる。
はっきり言って地獄かと思う。
何故自分から好き好んで抱かれなければいけないんだ。
俺は普段はフェロモンがそんなに強くは無いので意識してαに見えるように振る舞っている。
だからこそ寄ってくるβの女子と性行為をした事だってある。
至って自分はノーマルだと自分自身に言い聞かせていたのに、本能には勝てない事を知った。
この時は持っていた抑制剤を使って無理矢理病院に行き、正しい抑制剤の使い方やヒートの際の注意点を教わった。あとは自衛の為のチョーカーをもらった。
そしてヒートの最中は出来るだけ家に居るのが安全なのだと実感した。
恐らくαなのだろう男性らの視線が常に突き刺さって不愉快だった。
必要最低限の買い物をしていただけなのにそんな事態になるのだから本当に溜息をいくら吐いても足りない。
既に一人暮らしを始めていた俺には頼れる人物が限られていた。
姉のユーリは世話はしてくれるが後々面倒な頼み事をしてくる。
初等部からの友人であるグラッドはβではあるが、第二性がαだ。まだ頼れそうにも思うが、家事能力が壊滅的なので出来れば頼りたくない。
残す一人は中等部に入ってからグラッドを通じて出来た友人のフレア。家事能力は一人暮らしをしていた時間が長いせいか高く、あまり嬉しくはないがαだ。ヒートで暴走しないとは思うが頼れるのはこいつしかいないと直感が働いた。
徐々に力が入らなくなってきた指を叱咤してフレアにSOSのメールを送る。
幸いにもすぐに返事が届き家に来てもらえる事になった。
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フレアがセロンの家に着くと、ドアを開けた瞬間に漂ってきたフェロモンに思わず鼻を手で覆った。
「セロン、来たぞ」
「入ってくれ…」
いつもよりだいぶ頼りない声のセロンに違和感を覚えフレアは声のした部屋へ足を踏み込んだ。
「セロン、まさかΩなのか?」
「あぁ……ヒートがこんなに辛いと思って無かった…」
息も絶え絶えなセロンはαのフレアには目の毒に近いが抑制剤が効いているのか理性を持っていかれるほどではなかった。
「一応スポーツドリンクと果物を買ってきた。食べられそうか?」
「なんとかな…」
「登校はやめておいた方が良さそうだな…」
こんな状態で外出すれば見知らぬ誰かに襲われても文句も言えない事態になってしまう。
セロンもちょうど同じ事を考えていたのか、難しい顔をし、暫く呻くと意を決して顔を上げた。
「フレア、お前にしか頼めないんだ……一度だけでいいから、相手をしてくれないか…?」
「は……?」
思わず気の抜けた声が出てしまったフレアに、セロンは頭を下げて頼み込んだ。
「お前に番が出来るまでで良いから、俺のパートナーになってくれ…」
「セロン…」
「誰だか分からない奴にレイプされるくらいなら、お前の方が安心出来る…」
男の相手もした事があっただろう?とセロンに言われ、確かに男性のΩを相手にした事があったのを思い出す。
その時の相手はヒートでは無いが、冗談交じりに頸を噛んでくれと言われた。
そんな事をしてしまったら番になってしまう為、フレアはその言葉を聞き流していた。
「避妊薬は持ってるのか?」
「病院でもらってきた…」
「本当に俺で良いのか?」
「お前にしか頼めないって言っただろ…頼むぞ、相棒」
滅多に使わない相棒と言う言葉に、セロンも混乱が混ざっているのだと悟る。
「キスと頸を噛むのだけはやめてくれ…」
「分かった」
そしてこの日、フレアに抱かれセロンのヒートは一気に落ち着いた。
それからというもの、ヒートになるとセロンは数日自宅に篭りフレアが世話をする関係になった。
ヒートさえ無ければ至って普通の男性にしか見えないのだから、如何にセロンが努力してそう見せているのかをフレアは知ることとなる。
「運命の番…」
「何だ?」
「いや…母親が、父親に会った時にそうなると分かったって言っていたのを思い出しただけだ…」
性行為後の気怠げな状態で、セロンがポツリと呟いた言葉にフレアは目を瞬かせる。
「御伽話じゃ無いのか?」
「俺もそう思ってた。けど、あながち御伽話じゃ無いのかもしれないと思ってな…」
現にこうして他のαからの虫除けとしてフレアと性行為をしているのだ。
そういう特別な存在が居るとしても不思議では無いのだろうとセロンは自身の考えに悩んでいるようだった。
「そう言えば、グラッドはこの状況を知ってるのか?」
「俺が月一でお前に抱かれてるって?言うわけないだろ。俺がΩだって知ってても、あいつはいつも通りなんだからな」
知ったら何で教えなかった!と怒る様が目に浮かび、セロンはクスクスと笑う
「お前もグラッドには言うなよ。あとはお前の番になる奴」
「俺は番を作る気は無い」
「どうだか。俺で免疫が出来てても、そいつ相手には加減出来ないかもしれないだろ?」
「番で相手を縛りたくない…」
影の落ちたトーンに、フレアの両親の事があるのかと察したセロンは話題を変える事にした。
「そう言えば今度の生徒会、俺もお前も指名されるらしいぞ」
「何処からの情報だ」
「現生徒会長のリーフ・ブラウン先輩からだ。俺が生徒会長でお前が副会長らしい」
「面倒な事を…」
溜め息を吐いたフレアに苦笑し、セロンはふと最近リーフと交わした会話を思い出す。
「先輩が卒業したら弟が入ってくるらしい」
「俺には何の関係も無いと思うが?」
「その子も俺と同じらしいんだ」
つまり男性Ωなのだと言う事なのだろう。
自分の周りにはΩが多いとフレアは隠す事無く溜め息を吐く。
「先輩にその子の事頼まれたから、ヒートの時以外は来なくても大丈夫になるかもな」
「そうか…」
その時はまだ二人とも気付いてはいなかった。
リーフの弟であるグレンが色んな意味で重要になっていくのかを…
2話は12/15に投稿します




