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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

裏の蛇口

作者: HORA

ああ。

やってしまった。

妻をうっかり殺してしまった···。


酔った勢いで会社の同僚と一度だけ浮気をしてしまったことがバレた。

俺ですら酔っていてほとんど記憶が無いことだ。

それが会社の妻たちのネットワークを通してバレた。


ひたすら妻に平謝りして、そして今回の(つぐな)い旅行だ。

所有している別荘へと遊びに来ている。

以前からずっと欲しがっていた高額なバック。

さらにネックレスも用意してこの謝罪とご機嫌取りである。


それでも妻は旅行中に不機嫌な様子で、

「暑い」

「歩きたくない」

「別荘は森が近くて虫が多い」

やら、文句たらたらである。

ここで俺を許して機嫌が良いところを見せたくない事情はあるのだろうが、

俺は内心で妻のその態度にイライラしていた。


「あんたはお金持ってるしか取り柄無いんだから」


気がつくと別荘リビングにあった灰皿で妻の頭を思い切り殴っていた。

お酒を飲んでいた…という訳ではないのに、浮気の時以上に殴った前後が思い出せない。

妻の嫌みがノイズになって響き続けた時。

衝動的にそのノイズの元を塞ごうと行動してしまった。


「やっちまった···」

軽い怪我であったならばどうにかなるだろうが、

血溜まりができ、妻はピクリとも動かない。

別荘という証拠隠滅には適した場所であったので、

俺は妻であったものを引き()ってまずは外に移動させた。


隣の別荘とは数百m離れており、

人が訪ねてくることは無い。

血溜まりを作る妻をまずは一旦外に放置しておく。


「まず家の中の血を拭き取るか···」

別荘に常備されていたキッチンペーパーやアルコールシートで、

引き()ったことで付いてしまった血痕を綺麗にしていく。

「別荘に旅行で来てて、俺は何をやってるんだ···?」

何だか急にバカバカしくなり、掃除もそこそこにソファーに腰掛けて一息つく。

外に妻の死体が出しっぱなしであると思い出し一瞬ヒヤッとしたが、

すぐに再度ソファーに深く腰掛ける。


「まぁこんな山に人なんか来る訳ないしなぁ。

外に出てアレが居なくなってたら楽なんだけどな。

熊とかが食べたり···」


そのような男性に都合の良い事など起こるはずもなく、

玄関先に向かうと妻は倒れており、そこで血溜まりを大きくしていた。

服に染み込んだ血液はすでに赤褐色になりカピカピに固まり始めているようだ。


「まずは血だか体液だかを洗い流すため水をかけるか。蛇口はどこだったか…。」

別荘の裏に回ると蛇口とホースがあった。

そこで蛇口をひねり水が出るかどうかを確かめる。


ごぽっごぽっごぽ

シャーーーーッ


水は出てきたものの、赤錆が多く含まれているのか赤褐色の水が勢いよく出てくる。

(きた)なっ!ずっと出してなかったからかな。しばらく出し続けていたら綺麗になるだろ。」

10秒程見続けていたものの、赤褐色の水が出続けている。

どこか水道管の中で赤土が混ざりそのように見えるのだろうか。

それは殴った妻から(こぼ)れた液体に酷似していた。


「ふぅ。まぁ飲む訳じゃないしこれでもいいか。ホースが玄関まで届くかどうか微妙だな。」

水を出しながら、ホースをかたかたと引っ張り玄関の方へ移動する。

ホースは余裕で足りたようで、妻の死体のところまで届いた。

赤茶けた水を妻の死体にびちゃびちゃとかける。


「これ、ちゃんと洗い流せてんのか?水も赤茶けてるから何だか分からねーな。」

色々な方向から水を妻の方にかけていると、ホースがかなり伸ばせている事に気づいた。

5,6mくらいしか伸ばせないかと思っていたホースだが、

ゆうに15m以上は伸ばせている。

どこまで伸びるのかが気になり、妻の死体そっちのけで、

水を出しながらホースを伸ばして家から離れて行く。

シャーーーーーッ

赤褐色の水を出しながら歩く。歩く。歩く。

ホースは伸び続けている。

歩く。歩く。歩く。

どこまでも伸びるホースに楽しくなってきた。

そのまま森の中に入っていく。

歩く。歩く。歩く。

もう100m以上は伸びているのではないだろうか?


「このホースが何か新素材で出来ているとかか?

でもどう見ても普通の緑のホースだよな。」

歩く。歩く。歩く。

森の奥に入り別荘はもう見えなくなっていた。

何だかボーっとしてきた。

暑い日に外で歩きすぎたからだろうか?

そう思っていると唐突にするするとホース動き出し、

体にぐるぐると巻き付いた。


…これは夢か?夢に違いない。

何重にも体に巻き付きギュウギュウと締め上げて来る。

そのホースを通る水が、


ドクッ ドクッ


と脈打っている。

それは自身の心臓の鼓動の脈と同期している事に気が付いた。

首を動かして右手に持った、水を()くための散水ノズルを見てみると、

それは散水ノズルではなく蛇であり、右手に噛みついていた。

赤黒い水は俺自身の血を()き散らしていたのだろうか…?

改めてみると俺自身の体は血液が抜かれたからか青白くなっている。


蛇に何重にも絞めつけられた体が強制的に後ろを向かされる。

すると体高が2m程の巨大な馬の体がある。

ずっとホースは自身で引っ張ってきたと錯覚していたが、

この馬に引き擦られてこの森に連れて来られていたらしい。

その頭部は馬でなく雄ライオンの頭が付いている。


尾が蛇、胴が馬、頭がライオン。

混合獣キマイラ


ライオンの頭部が口を大きく開けてこちらに近づいてくる。

その目には何の光も無い。

俺が妻を殺した贖罪を求める存在なのか、

俺も妻もただの食材とされるのか、

その神秘的な存在からの冥土の土産は何も得られなかった。


ゴリッ…

バキッ…

ブチィ…

ガリガリ…


キマイラの胴は一般的に山羊ですが、馬のバージョンもあるので

ホースとして採用しました。

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