表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/64

第8話:魔都・洛陽潜入! 董卓の暴虐と呂布の威圧

第8話:魔都・洛陽潜入! 董卓の暴虐と呂布の威圧


周倉、廖化、裴元紹という頼もしい仲間を得て、的斗の旅は新たな局面を迎えていた。一人旅の心細さは消え、仲間と共に険しい道のりを進むうちに、不思議な連帯感が生まれていた。彼らは元賊とはいえ、根は単純で義侠心に厚い男たちだ。的斗の掲げる「民のための世」という理想に、彼らなりに共感し始めているようだった。

そしてついに、一行は後漢王朝の都、洛陽の巨大な城門の前にたどり着いた。


(でかい…これが洛陽か…!ゲームのマップで何度も見たけど、本物は迫力が違うな…)


的斗は圧倒されながらも、その胸は高鳴っていた。ここには、歴史を動かす重要人物たちがいる。そして何より、あの伝説の美女、貂蝉がいるはずだ。

しかし、城門の様子は的斗の期待とは裏腹に、殺伐とした空気に包まれていた。城壁には董卓軍の兵士たちが物々しく立ち並び、城門を通過しようとする人々は、厳しい検問を受けている。兵士たちは一様に横柄な態度で、民衆に対して怒鳴りつけたり、些細なことで難癖をつけたりしていた。中には、あからさまに賄賂を要求する者もいる。


「おい、貴様ら!どこから来た!何しに来た!」


的斗一行も、見張りの兵士に呼び止められた。的斗が緊張しながら答えようとすると、すかさず周倉が前に出た。


「へい!あっしたちは冀州から来たしがない旅の者でさあ。都見物と、ちいとばかし仕事を探しに…」


周倉は、元賊とは思えないほど下手に出ながら、懐からそっと数枚の銅銭を兵士の手に握らせた。兵士はちらりと銅銭を確認し、指で弾くように確かめると、僅かに口角を上げて笑い、「ふん、さっさと行け!」と道を空けた。


(周倉、意外とこういうの慣れてるな…)


的斗は感心しつつも、董卓軍の腐敗ぶりに眉をひそめた。

苦労して城内に入ると、そこは的斗が想像していた華やかな都とは程遠い光景だった。道行く人々の顔は暗く、活気がない。市場を覗けば、品物は少なく、穀物などの値段は異常に高騰している。街角には餓死したと思われる遺体が転がり、それを避けて人々が黙々と歩いている。子供たちの物乞いの声も、力なく、もはや声量すら出ない。


「ひでえな…これが今の洛陽なのか…」


裴元紹が、思わず呟く。彼の粗野な顔には、民の苦しみに直面した際の素直な怒りが浮かんでいた。

廖化も、ため息混じりに言った。


「董卓とかいう奴が来てから、すっかり変わっちまっただよ。民は食うに困り、役人は私腹を肥やすばかり。奴は都を長安に移すとか言い出して、民の家を無理やり壊してまで準備しているらしい。黄巾の乱の頃と、何も変わっちゃいねえ…いや、あの頃はまだ、人々には僅かながらの希望があったが、今はそれすら奪われたようだ」


その言葉は、的斗の胸にも重く響いた。ゲームでは単なる「暴君」という記号でしかなかった董卓の存在が、今や現実の脅威として、民衆の生活を圧迫しているのだ。


(なんとかしないと…でも、今の俺たちに何ができる…?)


的斗は、自分の無力さを感じながらも、ゲーマーとしての分析眼で周囲を観察し始めた。(これは、ゲームで敵の情報を分析するのと同じだ。この時代の『情報』は、そのまま『命』に繋がる…)


(董卓軍の兵士たちの練度は…あまり高くないな。規律も緩んでる。民衆の不満は…かなり溜まってるみたいだ。何かきっかけがあれば、爆発するかもしれない…)


無意識のうちに、的斗は情報を収集し、状況を分析しようとしていた。

その時だった。


「道を開けろ!道を開けい!呂奉先様のお通りだ!」


前方から兵士たちの怒声と共に、馬蹄の音が近づいてきた。人々が慌てて道の両脇に避ける中、一団の騎馬武者たちが現れた。

その中心にいたのは、深紅の戦袍に身を包み、天を衝くような立派な冠をつけた巨漢の武将。その腰には、一目で名剣と分かる豪奢な剣が佩かれている。そして何より、彼が跨る馬は、燃えるような赤毛に覆われ、尋常ならざる気を放っていた。


(あれが…呂布!そして、赤兎馬…!)


的斗は息をのんだ。ゲームのキャラクターとは比較にならないほどの圧倒的な威圧感。それは、ただ強いというだけでなく、周囲の全てを威圧し、支配するような、まさしく「魔王」と呼ぶにふさわしいオーラだった。的斗の全身の毛が逆立つような、本能的な恐怖を感じさせた。まるで、そこにいるだけで空気を震わせるような、絶対的な暴力の塊だった。周倉たちも、その尋常ならざる気配に顔をこわばらせている。

呂布の行列が通り過ぎようとした瞬間、道の脇で物乞いをしていた老婆が、よろけて呂布の馬の前に僅かにはみ出してしまった。


「無礼者めが!」


呂布の傍にいた兵士の一人が、即座に老婆を蹴り飛ばした。老婆は悲鳴を上げ、地面に無様に転がる。しかし、呂布は眉一つ動かさず、まるで道端の石ころでも見るかのような冷たい視線を老婆に一瞥しただけで、そのまま悠々と通り過ぎていった。その冷酷な視線には、命を尊ぶ心が微塵も感じられず、的斗は血が逆流するような怒りを覚えた。


「……っ!」


的斗は、思わず拳を握りしめた。胸の奥から、激しい怒りが込み上げてくる。


(なんて奴だ…!これが、人中の呂布…!許せねえ…!)


しかし、今の自分では、あの呂布に立ち向かうことなど到底できない。その圧倒的な力の差を、的斗は痛いほど感じていた。手のひらで、槍を握る拳が汗で滑る。あの時、黄巾賊に感じた恐怖とは比べ物にならない。まるで、目の前の存在が、自分とは全く異なる次元の「化け物」であるかのように感じられた。


(いつか…いつか必ず、あいつを倒してやる!この趙雲の身体、そして俺の内に秘められたあの力…何者か分からないが、必ず使いこなして、あの暴虐を止めてやる!)


的斗は、心の奥底で強く誓った。

洛陽の現実は、的斗の想像を遥かに超えて過酷で、そして理不尽なものだった。しかし、その中で、彼の心には新たな目標と、それを成し遂げるための強い決意が芽生え始めていた。

(まずは貂蝉さんだ…彼女に会って、話を聞かなきゃ…)


的斗は、重苦しい洛陽の空を見上げながら、次なる行動を模索し始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ