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第7話:ついてこい、俺の仲間に! 熱き魂の共鳴

第7話:ついてこい、俺の仲間に! 熱き魂の共鳴


裴元紹を打ち破った直後、的斗の身体を強烈な疲労感が襲った。先ほどの、視界がクリアになり相手の動きが読めた不可思議な感覚は、彼の気力と体力を著しく消耗させたらしい。額からは脂汗が流れ、視界がチカチカと明滅する。全身の筋肉が痙攣し、まるで内臓が燃えているかのような熱が身体を蝕む。意識を保つのがやっとで、頭の中はまるで沸騰しているかのように混乱していた。


(やばい…身体が…重い…)


的斗は槍を杖代わりにし、何とかその場に踏みとどまるのが精一杯だった。


「…化け物め…」


最初に言葉を発したのは、肩を押さえながら立ち上がった裴元紹だった。その声には、恐怖と同時に、どこか畏敬の念も含まれているように聞こえた。

周倉と廖化も、武器を構えながらも、先ほどの的斗の常人離れした動きと、今の消耗しきった様子のギャップに戸惑いの色を隠せない。


「てめえ…一体何者だ…? さっきのあの動きは…ただの武術じゃねえぞ…」


周倉が、大薙刀を握りしめながら低い声で問う。

的斗は荒い息を整えながら、精一杯の虚勢を張って答えた。(くそっ…こんな姿を見せては、せっかくの好機を逃してしまう…!)


「俺は…趙雲子龍だ…ただの趙雲子龍だ…」


その言葉に、周倉は納得がいかないというように眉をひそめる。廖化は、値踏みするような目で的斗をじっと見つめていた。

沈黙が続く。張り詰めた空気の中、最初に動いたのは的斗だった。

彼はゆっくりと槍を地面に置き、両手を広げて見せた。


「もう…戦う気はない。それより、さっきの言葉の続きをしないか?」


周倉たちは顔を見合わせる。目の前の若者は、明らかに疲弊している。今なら三人でかかれば、確実に仕留められるかもしれない。しかし、彼らの心には、先ほどの的斗の神がかり的な強さと、その後の消耗ぶり、そして何よりも、その真っ直ぐな瞳が焼き付いていた。


「…何の話だ?」


廖化が、警戒を解かずに尋ねた。


「お前たちの腕は確かだ。こんな所で、旅人を襲って糊口を凌いでいるのは惜しい。俺と一緒に来ないか、と言ったはずだ」


的斗の言葉に、裴元紹が吐き捨てるように言った。


「馬鹿言うな! 俺たちをコケにしやがって…今更仲間になれだと?」


「コケにしたつもりはない。本気だ」


的斗は真剣な眼差しで三人を見据えた。彼の瞳には、先の黄巾賊との戦いでも見せた「弱い者を守る」という純粋な「義」の光が、この時も一瞬輝いた。


「お前たちは強い。だが、その力を、人を虐げるためではなく、民を守るために使ってみる気はないか?」


その言葉は、三人の胸に重く響いた。彼らは元々、黄巾の乱に参加し、世の中を変えようとした者たちだった。しかし、食い詰めて賊に身を落とした。人を襲い、奪うことでしか生き延びられなかった。心のどこかでは、そんな自分たちに嫌気が差していたのかもしれない。


周倉が、地面に唾を吐きかけた。


「民を守る、だと? 甘っちょろいことを言うじゃねえか。この乱世で、そんな綺麗事が通用すると思ってんのか?」


「通用するかどうかは、やってみなければ分からない。だが、俺は本気だ。俺は天下を取り、民が安心して暮らせる世の中を作る。そのためには、お前たちのような信頼できる仲間が必要なんだ。(民が安心して暮らせる世を作るために、俺にはお前たちの力が必要なんだ!)」


的斗の言葉は、単なる言葉だけではなかった。彼の瞳の奥に宿る揺るぎない覚悟と、全身から発せられる得体の知れない気配が、彼らの心をねじ伏せるかのように響いた。それは、まるで、彼らの心に眠る「義」の感情を揺さぶるかのようだった。

廖化が口を開いた。


「…あんたが目指す世の中は、昔、俺たちが夢見たものと似ているのかもしれねえな。だが、俺たちは一度裏切られた。そう簡単に人を信じるわけにはいかねえんだ。黄巾…彼らもまた、民を救うという理想に燃えていた。それが、歪んでしまったのか…」


的斗は、彼らの過去の痛みを理解しようと努めた。


「俺は、お前たちを裏切らない。俺の戦いを見てくれただろ? 俺は逃げも隠れもしない。それに、お前たちの力を、正当に評価する。ただの使い捨ての駒にはしない」


そして、的斗は続けた。


「ついてくるかどうかは、お前たちが決めろ。だが、もし俺と共に来るというなら、俺はお前たちを兄弟として迎え入れるつもりだ」


的斗の言葉を聞き終え、三人はしばらく無言だった。

最初に口を開いたのは、意外にも裴元紹だった。


「…あんた、本当に強いのか? さっきのは、まぐれじゃねえのか?」


「まぐれかどうかは、これから証明していくさ。だが、お前たちを倒した事実は変わらない」


的斗は不敵に笑った。彼の瞳に、先の「龍の眼」の残滓のような、微かな金色が宿っているように見えた。

裴元紹は、しばらく的斗の顔をじっと見ていたが、やがてふっと息を吐き、肩の力を抜いた。


「…いいぜ。あんたについて行ってやる。こんな山賊暮らしも、もう飽き飽きしてたところだ」


次に、周倉が豪快に笑った。


「がっはっは! 面白い! こいつは面白いぞ! いいだろう、趙雲子龍とやら! この周倉、アンタのそのデカい夢に、いっちょ乗ってやるぜ! 民を守るってのも、悪くねえ響きだ!」


最後に残った廖化は、腕を組み、しばらく考え込むような素振りを見せていたが、やがてゆっくりと頷いた。


「…分かった。あんたの言葉を信じてみよう。だが、もし俺たちを裏切るようなことがあれば、その時は容赦しねえからな」


「ああ、約束する」


的斗は、力強く頷いた。

こうして、三人の元黄巾の猛者たちは、的斗の仲間となることを決意した。

的斗は、近くに落ちていた自分と周倉たちの折れた槍や武器の破片を集め、それを地面に深々と突き立てた。


「これは、俺たちの古い自分との決別の印だ。そして、これから共に新しい道を歩む誓いの証だ」


的斗がそう言うと、周倉、廖化、裴元紹も、それぞれの武器をその周りに突き立てた。

四人は、突き立てられた武器を囲み、互いの顔を見合わせる。まだ互いのことを深く知っているわけではない。しかし、そこには確かに、これから始まるであろう壮大な物語への期待と、共に戦う仲間としての絆の萌芽が感じられた。

的斗は、心の中でガッツポーズを決めた。(ゲームでは劉備の配下だった周倉が、俺の最初の仲間になるなんてな…歴史は、もう変わり始めているんだ…!)

三国志の英雄たちとの、本当の意味での最初の出会い。それは、山栗的斗が趙雲子龍として、この世界で確かな一歩を踏み出した瞬間だった。

夕日が、四人の新たな誓いを照らし出していた。

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