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第64話:白龍帝の伝説! そして、未来へ…

第64話:白龍帝の伝説! そして、未来へ…

数十年の歳月が、白龍王朝の上に穏やかに流れていった。的斗――白龍帝は、その賢明なる治世と、民を深く慈しむ心で、中華全土に未曾有の平和と繁栄をもたらした。かつての戦乱の傷跡は癒え、人々は笑顔を取り戻し、文化は豊かに花開いた。彼の名は、歴代のどの皇帝よりも民に愛され、敬われる伝説の君主として、歴史に深く刻まれようとしていた。

その傍らには、常に皇后・貂蝉が寄り添っていた。彼女もまた、年齢を重ねてもなお、その美しさは少しも衰えることなく、むしろ内面から滲み出るような深い慈愛と知性が、彼女を比類なき国母として輝かせていた。二人の姿は、民にとって理想の夫婦であり、敬愛と憧憬の対象だった。


そして、的斗が八十路を越え、自らの死期が近いことを悟った、ある静かな月夜のことだった。彼は、貂蝉を伴い、宮中の一角に造られた、かつて洛陽で初めて彼女と出会った庭園を模した場所へと足を運んだ。そこは、二人にとって思い出深い、特別な場所だった。


「貂蝉…少し、昔話をしてもいいかな」

的斗は、優しく微笑む貂蝉の手を取り、ゆっくりと語り始めた。それは、彼が誰にも明かしたことのない、彼の魂の最も深い場所にある秘密だった。

自分が、全く別の世界――「ニホン」という名の、遥か未来の国から来たこと。山栗的斗という、ごく普通の高校生だったこと。剣道に打ち込み、三国志の物語を愛していたこと。そして、ある日突然、若き日の趙雲の身体に転生し、この激動の時代を生きることになった経緯を、一つ一つ、言葉を選びながら、誠実に語っていった。

貂蝉は、驚きを隠せない表情を浮かべながらも、的斗の言葉を一言も聞き漏らすまいと、静かに耳を傾けていた。その大きな瞳からは、いつしか涙がとめどなく溢れていた。


「…だから、俺は、本当の趙雲子龍じゃないのかもしれない。ただの、臆病で、何も知らない、未来から来た若者だったんだ」

全てを語り終えた的斗は、どこか安堵したような、そして少し寂しげな表情で、貂蝉を見つめた。

貂蝉は、そっと的斗の涙を拭い、そして力強く彼を抱きしめた。

「…いいえ、あなた様。あなたは、紛れもなく私の愛した趙雲子龍様です。そして、山栗的斗様でもあります。あなたがどちらの世界の方であろうと、どこから来られたのであろうと、私のあなた様への愛は、決して、決して変わることはありませんでしたわ」

その声は、深い愛情と、そして全てを受け入れる絶対的な信頼に満ちていた。

「むしろ…そのような大きな秘密と、計り知れないほどの孤独を胸に抱えながら、これほどの偉業を成し遂げられ、そして何よりも、私のような者を愛し、守り続けてくださったあなた様を、私は心から誇りに思います。あなた様と出会えたこと、そしてあなた様の妻として、この人生を共に歩めたことは、私の生涯最大の奇跡であり、幸福でした…」

的斗もまた、貂蝉のその言葉に、とめどなく涙を流した。それは、長年抱えてきた秘密の重荷から解放された安堵の涙であり、そして、時空を超えて結ばれた、かけがえのない愛への感謝の涙だった。

「ありがとう…貂蝉。君がいてくれたから、俺は…山栗的斗は、そして趙雲子龍は、ここまで来れたんだ…。君こそが、俺の本当の天命だったのかもしれないな…」

二人は、言葉にならない想いを胸に、月明かりの下で、いつまでも固く抱きしめ合っていた。それは、永遠に続くかのような、魂の愛の誓いの瞬間だった。


やがて、白龍帝・的斗は、天寿を全うし、多くの民と、成長した皇子・皇女たち、そしてかけがえのない仲間たちに見守られながら、愛する皇后・貂蝉の腕の中で、静かにその偉大な生涯の幕を閉じた。

その死は、白龍王朝全土を深い悲しみに包んだ。国葬には、身分を問わず、数えきれないほどの民衆が参列し、彼の偉大な功績と、慈愛に満ちた仁徳を偲び、涙を流した。空には、まるで彼の魂が天に昇るかのように、一筋の白い龍のような雲が、長く長くたなびいていたという。


的斗の壮麗な陵墓の傍らには、皇后・貂蝉の強い願いにより、一つの特別な品が、そっと供えられた。それは、彼が生前、時折、誰にも見せることなく、懐かしそうに手に取り、大切に磨いていたという、一本の古びた竹刀だった。

その竹刀が何を意味するのか、知る者はごく僅かだった。

しかし、それは確かに、彼が異世界から来た転生者であったことの、そして彼の物語が、一本の竹刀を握ることから始まったことの、ささやかな、しかし確かな証だった。

それはまた、彼が持ち込んだ現代的な価値観や、剣道で培われた「礼」「克己心」「正々堂々」といった精神が、この世界の平和と、白龍王朝の礎に、少なからず影響を与えたことの、静かな象徴でもあったのかもしれない。


白龍帝・趙雲子龍の伝説は、彼が築いた平和な白龍王朝と共に、永遠に語り継がれていく。

そして、その伝説の奥深くには、一人の現代日本の若者の、数奇にして壮大な魂の物語が、静かに息づいているのだった。


おわり

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