第6話:趙子龍、武威を示す! 三人を圧倒する剣槍術
第6話:趙子龍、武威を示す! 三人を圧倒する剣槍術と龍の眼の片鱗
「いくぜ、趙雲子龍!」
咆哮と共に、最初に動いたのは周倉だった。熊のような巨躯が、信じられないほどの敏捷さで的斗に迫る。肩に担いでいた大薙刀が、風を切る音と共に横薙ぎに振るわれた。その一撃は、岩をも砕かんばかりの凄まじい威力だ。
(でかい!そして速い!まともに受けたら骨ごと持っていかれるぞ…!)
的斗は瞬時に判断し、剣道の摺り足にも似た体捌きで、薙刀の攻撃範囲から紙一重で身をかわす。そして、周倉の巨体がバランスを崩した一瞬の隙を突き、槍の穂先で脇腹を浅く突いた。まるで外科医のメスのように、寸分の狂いもなく周倉の脇腹の急所を浅く突いた。筋肉が痙攣し、周倉の巨体がわずかに硬直する。
「ぐっ…!こしゃくな!」
周倉は顔を歪めるが、怯むことなく即座に体勢を立て直し、再び大薙刀を振りかぶる。的斗は無理に打ち合おうとせず、軽やかなフットワークで周倉の猛攻を捌き続ける。剣道で培った「相手の動きの中心を見極める」感覚が、周倉の豪快だがやや大振りな攻撃の軌道を見切る助けとなっていた。
「周倉だけじゃ埒があかんか!手助けするぜ!」
戦況を見ていた廖化が、ニヤリと笑いながら短い槍を構え、周倉の死角から的斗に襲いかかった。老獪な廖化は、周倉の攻撃を盾にするように立ち回り、的斗の集中を乱そうとする。
(二人がかりか!しかも、この廖化っぽい奴、いやらしい戦い方をするな…!)
的斗は冷静に周囲の状況を把握する。周倉の力任せの攻撃と、廖化の的確な牽制。二人の連携は巧みで、的斗は徐々に追い詰められていく。廖化は時折、地面の小石を蹴り上げて的斗の視界を遮ったり、わざと隙を見せて誘い込んだりするなど、老獪な戦術で的斗を翻弄する。
(まずいな…このままじゃジリ貧だ…!)
的斗は一瞬、ゲームの攻略法が頭をよぎった。「こういう時は、まず連携の要を叩くか、あるいは個別に撃破するか…」。
的斗は敢えて廖化の誘いに乗り、一瞬だけ大きな隙を見せた。廖化が「もらった!」とばかりに槍を突き出してきた瞬間、的斗は予測していたかのように身体を反転させ、廖化の槍を自分の槍で絡め取る。そして、そのまま廖化の体勢を崩し、無防備になったところを槍の柄で強かに打ち据えた。
「ぐはっ!」
廖化は呻き声を上げ、数歩後ずさる。その隙に、的斗は再び周倉との一対一の状況を作り出した。
「兄貴たち、何やってんだい!この裴元紹が仕留めてやる!」
廖化が一時的に戦闘不能になったのを見て、今まで機を窺っていた裴元紹が、獣のような俊敏さで的斗に襲いかかった。その両手には、ギラリと光る短剣が握られている。目にも止まらぬ速さで繰り出される連続攻撃は、的斗を瞬く間に窮地へと追い込んだ。まるで嵐の中の木の葉のように、的斗の身体が翻弄される。
(速すぎる…!見えない!)
頬を掠める短剣の軌道。肩を浅く切り裂かれる痛み。的斗は必死に槍で防御するが、裴元紹の神速の動きに全くついていけない。
(ここまでか…!?いやだ…!こんなところで終わってたまるか!俺はまだ、この世界で何も成し遂げてない!貂蝉にも会ってないし、天下も統一してないのに!)
絶体絶命。裴元紹の短剣が、的斗の喉元に迫ったその瞬間――。
的斗の瞳の奥で、金色に輝く紋様が一瞬浮かび上がったように感じられた。次の瞬間、周囲の喧騒が遠のき、裴元紹の動きが、まるで粘性の高い水中を漂うかのように緩やかに見え始めた。彼の短剣の軌道、筋肉の収縮、そして次に踏み込むであろう足の動き…全てが、脳裏に光の筋となって映し出されるのだ。それは、あまりにも鮮明で、まるで時間が停止したかのようだった。
(なんだ…またこの感覚だ…!?まるで、相手の動きが…いや、その先の未来まで読めるようだ…! この『眼』は一体…!?)
的斗は戸惑いつつも、身体は無意識にその不可思議な情報に従って動いていた。裴元紹の必殺の一撃を、最小限の動きでかわし、カウンターで槍を繰り出す。それは、まるで舞を舞うかのような、流麗かつ的確な動きだった。
「なっ…!?」
裴元紹は、自分の攻撃が全て見切られていることに驚愕の色を浮かべる。的斗の槍が、裴元紹の構えの僅かな隙間を縫って、その肩口を強打した。
「ぐあああっ!」
裴元紹は短剣を取り落とし、地面に崩れ落ちた。
「裴元紹まで…!」「こいつ、一体何者なんだ…!?あんな動き…人間業じゃねえ…!」
周倉と、やや回復した廖化が、信じられないものを見る目で的斗を見つめている。的斗自身も、自分の身体に何が起こったのか理解できないまま、荒い息をつきながら呆然と立ち尽くしていた。
(今の…一体なんなんだ…? この『眼』の力…まるで、ゲームのチートだ…でも、これは現実の力…俺自身の力でいいのか…? 使いこなせればとんでもない武器になるだろうけど、やっぱり身体が妙に重い…まるで、脳と身体がオーバーヒートを起こしたかのような、激しい脱力感と吐き気だ。間違いなく反動だな…)
的斗の額からは玉のような汗が流れ落ちる。身体は疲労困憊だが、心の奥底では、未知の力への興奮と、それを使いこなせるかもしれないという期待、そして一抹の不安が湧き上がっていた。
「まだ…終わりじゃないぜ…!」
周倉が再び大薙刀を構え、廖化も槍を握り直す。彼らはまだ戦意を失っていない。
(そうだな…ここで退くわけにはいかない…!)
的斗もまた、槍を強く握りしめ、再び二人に向き直った。
彼が垣間見た「龍の眼」とでも呼ぶべき、相手の動きを読み切る異能の片鱗。それは、この過酷な三国志の世界で的斗が生き残り、そして何かを成し遂げるための、大きな武器となるのかもしれない。しかし、その力にはまだ多くの謎が隠されているようだった。そして、その力には大きな代償が伴うことも。
戦いは、まだ始まったばかりだった。