第57話:甘寧水軍大暴れ! 火計と水上戦のスペクタクル、「龍」の天候操作
第57話:甘寧水軍大暴れ! 火計と水上戦のスペクタクル、「龍」の天候操作
長江の水面を埋め尽くさんばかりに展開した白龍軍と孫権軍。天下の命運を賭けた決戦の火蓋は、まず孫権水軍の先制攻撃によって切られた。
呂蒙、陸遜といった若き智将たちの指揮のもと、孫権水軍の艦船は、まるで生きているかのように巧みに動き、白龍軍の先鋒に襲いかかった。その操船術は見事で、水に不慣れな白龍軍は初戦から苦戦を強いられる。
「くそっ、江東のネズミどもめ、なかなかしぶといじゃねえか!」
水軍都督の甘寧は、旗艦の船首で悪態をつきながらも、その瞳は冷静に戦況を見据えていた。彼は、正面からのぶつかり合いでは分が悪いと判断し、夜陰や川霧に紛れて、得意の奇襲作戦を敢行した。
甘寧率いる数十隻の快足船団は、音もなく孫権水軍の主力艦隊の背後に回り込み、後方の補給船団や連絡船を次々と襲撃。火矢を放ち、敵船に乗り込んでは白兵戦を仕掛ける。その戦いぶりは、まさに長江の暴れ龍。この奇襲により、孫権軍の兵站は徐々に混乱し始め、前線の士気にも微妙な影を落とし始めていた。
しかし、戦局を決定づけるには至らない。孫権軍の抵抗は依然として激しく、戦いは膠着状態に陥りつつあった。
「…やはり、これしかないか」
的斗は、陳宮と法正が練り上げた、乾坤一擲の策を実行する時が来たと判断した。それは、この赤壁という水上戦の要衝において、古来より用いられてきた「火計」を、さらに巧妙に、そして大規模に仕掛けるというものだった。
陳宮と法正は、この戦場の地形と、数日間の風向きのデータを徹底的に調査し、最も効果的な火船の運用計画を立てていた。大量の硫黄や硝石を積んだ数十隻の火船が、密かに準備されていた。
問題は、風だった。火計を成功させるためには、敵陣へと吹き込む強い東南の風が不可欠。しかし、決行の日、空は分厚い雲に覆われ、風はまるで白龍軍の行く手を阻むかのように、逆向きに吹いていた。
「これでは…火計は不可能か…」
徐庶が、絶望的な表情で呟く。兵士たちの間にも、動揺が広がり始めていた。
その時、的斗は静かに目を閉じ、天を仰いだ。
(龍の力よ…もし本当に俺に、民を救う天命があるというのなら…今こそ、その力を示してくれ…!)
的斗は、自らの内にある「龍の血脈」の力を、極限まで高めようと精神を集中させた。彼の身体から、再び金色のオーラが立ち上り、天へと昇っていく。それは、まるで天に祈りを捧げる龍の姿のようだった。
すると、奇跡が起こった。
厚く垂れ込めていた暗雲が、まるで意志を持ったかのように割れ始め、その隙間から太陽の光が差し込んできた。そして、あれほど頑なに逆向きに吹いていた風が、ぴたりと止み、次の瞬間、強い東南の風が、白龍軍の帆を大きく膨らませ始めたのだ!
「風が…風が変わったぞ!」
「東南の風だ!天が我らに味方したのだ!」
白龍軍の兵士たちから、歓喜の雄叫びが上がる。彼らは、的斗の起こした奇跡を目の当たりにし、その神がかり的な力に畏怖の念を抱いた。
「今だ!全火船、放て!!」
陳宮の号令一下、数十隻の火船が、東南の風に乗り、猛スピードで孫権水軍の密集した艦隊へと突っ込んでいった。
火船は次々と孫権軍の艦船に激突し、瞬く間に巨大な火柱を上げる。炎は風に煽られて燃え広がり、長江の水面は紅蓮の炎で埋め尽くされた。孫権水軍の艦船は、互いに鎖で繋がれていたため(連環の計)、逃げ場を失い、なすすべもなく炎に包まれていく。
「うわあああ!」「助けてくれー!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。多くの孫権兵が、炎に焼かれ、あるいは長江の濁流に飲み込まれていった。
「全軍、総攻撃開始!孫権を討ち取れ!」
的斗は、自ら白龍軍の旗艦「白龍号」に乗り込み、燃え盛る敵艦隊へと突撃の号令を下した。
炎と煙が渦巻く中、白龍軍の猛将たちが躍動する。
張飛は、船から船へと飛び移り、丈八蛇矛を振り回して敵兵を長江へと叩き落とす。「どけええい!俺の前に立つんじゃねえ!」その咆哮だけで、敵兵は恐怖に竦み上がった。
関羽は、味方の船楼から冷静に戦況を見つめ、炎に巻かれて混乱する敵の指揮船を見つけると、青龍偃月刀を投擲。見事、敵将を船ごと両断し、指揮系統を完全に麻痺させた。
古参の将たちも負けてはいない。周倉はその怪力で敵船の碇綱を断ち切り、裴元紹は身軽さを活かして敵船に忍び込んでは内部から混乱を巻き起こす。そして廖化は、冷静な指揮で後続部隊を導き、確実に戦果を拡大させていった。
水上でも、的斗の「龍の眼」は健在だった。炎と煙に包まれた混乱の中、敵将の動きを的確に捉え、的確な指示を出す。そして、自らも槍を振るい、乗り込んできた敵兵を薙ぎ払う。
炎上する敵艦に乗り込んだ的斗の前に、二人の歴戦の将が立ちはだかった。孫呉の宿将、韓当義公と周泰幼平だ。彼らは、孫堅・孫策の代から江東を守り続けてきた猛者であり、その武勇は広く知れ渡っている。
「趙子龍!貴様の首、この韓当が貰い受ける!」
「江東の意地、見せてくれるわ!」
韓当は偃月刀を、周泰は身の丈ほどもある大刀を振るい、的斗に襲いかかる。二対一という不利な状況であったが、的斗は「龍の眼」を凝らし、二人の連携攻撃の僅かな隙を見抜く。
まず、韓当の薙ぎ払いを紙一重でかわし、懐に飛び込むと同時に槍を繰り出し、その鎧の隙間を正確に貫いた。「ぐっ…!」韓当は呻き声を上げ、崩れ落ちる。
「韓当殿!」周泰が怒りの形相で斬りかかってくるが、的斗はその大刀を槍で受け止め、逆にその勢いを利用して周泰の体勢を崩す。そして、がら空きになった胴に、必殺の一撃を叩き込んだ。
「ば…かな…人の…力では…ない…」周泰は、信じられないものを見る目で的斗を見つめ、絶命した。
孫呉の誇る二人の勇将を、的斗は瞬く間に討ち取ってしまったのだ。その姿は、まさに戦場を支配する龍そのものだった。
太史慈の矢が空を舞い、徐盛の指揮が水軍の陣形を支える。白龍軍の猛将たちは、慣れない水上戦に戸惑いつつも、それぞれの武勇を発揮し、甘寧や的斗を援護し、孫権軍の残存勢力を掃討していく。
赤壁の地は、今、紅蓮の炎に染まり、新たな時代の覇者の誕生を告げていた。
白龍軍の、圧倒的な勝利だった。