表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/64

第55話:涙の帰順! 関羽・張飛、白龍軍に加わり、劉備の夢を託す

第55話:涙の帰順! 関羽・張飛、白龍軍に加わり、劉備の夢を託す

関羽との魂を賭した一騎打ちを終え、互いの力を認め合った的斗と関羽。静寂が支配する寺の境内で、関羽はゆっくりと青龍偃月刀を鞘に納めた。

「…見事であった、趙子龍殿。貴殿の武勇、そしてその志の高さ、確かにこの関雲長の魂に刻みました。貴殿ならば…あるいは、我が兄・劉玄徳が果たせなかった夢を…」

その言葉には、深い感慨と、そして新たな希望の光が宿っていた。

傍らで固唾を飲んで見守っていた張飛もまた、的斗を見る目が先ほどまでとは明らかに変わっていた。そこには、もはや敵意はなく、むしろ尊敬と親近感にも似た感情が浮かんでいる。


「趙子龍殿、こちらへ」

関羽は、的斗を促し、寺の裏手にある小さな丘へと案内した。そこには、漢中の山々を見渡せる場所に、質素ながらも手厚く祀られた一つの墓があった。劉備玄徳の墓である。墓石の傍らには、彼が生前愛用したという双股の剣が供えられ、周囲には季節の花々が手向けられていた。関羽と張飛が、毎日欠かさずここを訪れ、兄を偲び、その遺志を胸に刻んでいることが窺えた。

的斗は、静かに墓前に進み出て、深々と頭を下げた。

(劉備玄徳様…あなたの民を思う心、そしてその大きな徳は、俺が決して忘れることのないものです…)


「兄者…」

張飛が、嗚咽を漏らしながら墓石に語りかけた。

「俺たちは…兄者の夢を諦めきれずに、今まで戦ってきた…でも、もう…俺たちだけじゃ、どうにもならねえのかもしれない…」

その巨躯を震わせ、子供のように泣きじゃくる張飛の肩を、関羽がそっと抱いた。

そして、関羽は的斗に向き直り、決然とした表情で言った。

「趙子龍殿。我ら兄弟、劉玄徳様に誓った忠義は、終生変わることはございません。しかし、その劉兄の遺志を継ぎ、真に民のための世を築こうとされる貴殿に、我らの残りの生涯と、この武を捧げることこそが、兄者への最大の供養となると信じます」

関羽は、その場に膝をつき、深々と頭を下げた。

「この関雲長、今日より貴殿を新たなる主君と仰ぎ、その覇業を、この青龍偃月刀にかけて助太刀いたす所存にございます!」


「兄貴がそう言うなら、俺もだ!」

張飛もまた、涙を拭い、的斗の前に力強く膝をついた。

「趙雲!いや、趙子龍殿!俺はあんたに惚れたぜ!兄者の夢、あんたになら託せる!この張益徳、今日からあんたの矛となり、どんな敵だって蹴散らしてやる!」

桃園の誓いで結ばれた二人の義兄弟が、今、新たな主君に忠誠を誓った瞬間だった。


的斗は、その光景に言葉を失い、ただ熱いものが込み上げてくるのを抑えきれなかった。

(関羽と張飛が…あの伝説の英雄たちが、俺に…!)

転生者である彼にとって、これは夢にも思わなかったほどの出来事だった。彼は、目の前の二人の忠義の重さと、託された劉備の夢の大きさに、打ち震えた。

「関羽殿…張飛殿…」

的斗の声は、感動で震えていた。彼もまた、二人の前に膝をつき、その手を取った。

「必ずや、劉備様の理想を超える世を、皆で築き上げましょうぞ!この趙子龍、お二人のその熱き忠義と、天下無双の武勇を、決して無駄にはいたしません!」

三人の目からは、自然と涙が溢れ出ていた。それは、劉備への追悼の念と、これから始まるであろう新たな戦いへの誓い、そして、身分や立場を超えて結ばれた、熱い魂の絆の証だった。


数日後、関羽と張飛は、彼らを慕って最後まで従ってきた少数の手勢と共に、正式に白龍軍へと合流した。

この報は、白龍軍に大きな衝撃と、そして一抹の波紋を広げた。

古参の将兵たちの多くは、その天下に轟く武勇を知るだけに、「関羽様、張飛様が味方に…これでもう負けることはない!」と士気を高めた。

しかし、軍議の席では、陳宮が冷静に懸念を口にした。

「両将の武勇は、確かに天下無双。大きな力となりましょう。しかし、彼らは劉備殿への忠義で生きてきた方々。我らが白龍軍の『仁義』と、彼らが守り続けてきた劉備殿への『忠義』は、似て非なるものかもしれませぬ。その融合がうまくいかねば、組織を内から乱す劇薬にもなりかねませんぞ」

徐庶もまた、頷く。

「兵たちの間にも、戸惑いの声が上がっております。『主君を守れなかった敗将ではないか』『あの気性の激しい方々と、我々はうまくやっていけるのか』と…。彼らの加入は、軍に新たな火種を生む可能性もございます」


軍師たちの冷静な分析は、的斗の浮かれた心を現実に引き戻した。そうだ、俺にとっては伝説の英雄でも、この世界では違う。彼らを真に白龍軍の一員として機能させ、全ての将兵の心を一つに束ねること。それこそが、リーダーである俺に課せられた新たな、そして極めて困難な課題なのだ。


その夜、的斗は関羽、張飛を自室に招き、三人で静かに酒を酌み交わした。周囲の喧騒や懸念から離れ、ただ武人として、そして新たな道を共に歩む者として、互いの心を探り合うように。

白龍軍は、ここに最強の、そして最も扱いが難しい翼を得て、天下統一への道を、さらに力強く駆け上がっていくことになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ