表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/64

第54話:関羽、義を問う! 青龍偃月刀との魂の対話、そして新たな希望

第54話:関羽、義を問う! 青龍偃月刀との魂の対話、そして新たな希望

張飛との死闘で火照った身体に、夜風がやけに冷たい。的斗は、案内された寺の一室で、荒い呼吸を整えながら、目の前の男と向き合っていた。

関羽雲長。

彼はただ座っているだけで、部屋の空気を支配していた。張飛が放つ荒々しい圧とは違う。それは、何十年も風雪に耐えてきた巨岩のような、揺るぎない存在感。その美しい髯の一本一本にさえ、彼の生きてきた壮絶な歴史が刻まれているかのようだった。


「趙子龍殿、改めて問わせていただく」

関羽が口を開くと、部屋の空気がさらに張り詰めた。声は静かだが、その一言一句が、腹の底に重く響く。

「貴殿は、何のために戦うのか?その胸に抱く『義』とは、一体どのようなものか?そして、我が兄・劉玄徳が、その生涯を賭して目指した、民が安んじて暮らせる『仁の世』を、貴殿は真に理解し、それを実現するだけの覚悟と器量をお持ちなのか?」

その問いは、尋問ではない。魂の検分だ。この男は、俺が掲げる理想の、その根源を見極めようとしている。


的斗は、背筋を伸ばし、関羽の射抜くような視線を真っ直ぐに受け止めた。

「関羽殿…まず申し上げたいのは、俺が劉玄徳様を心から尊敬しているということです。その『仁』の精神、民を思う心、そして多くの人々を惹きつけた徳の高さ…それらは、俺が目指す国の、揺るぎない礎となるべきものだと信じています」

的斗は、物語の主人公として見てきた劉備の姿を思い浮かべながら、心からの敬意を込めて言った。

「しかし、俺は、劉備様の理想をただ受け継ぐだけでは足りないと考えています。この乱世を本当に終わらせ、未来永劫続く平和な国を築くためには、さらに具体的な仕組みが必要です」

そして的斗は、自らが思い描く国家像について語り始めた。法の下の平等を徹底し、身分や出自に関わらず、実力のある者が登用される公平な社会。民衆の生活水準を向上させ、誰もが安心して暮らせるための福祉制度。そして、子供たちが夢を持って学べる教育の普及。

「俺は、ただ強いだけの国を作りたいんじゃない。誰もが笑顔で、明日への希望を持って生きられる国を作りたいんです。そのためなら、どんな困難も、どんな犠牲も、乗り越えてみせる覚悟があります!」

その言葉は、転生者としての的斗の、心の底からの純粋な願いでもあった。


関羽は、黙って的斗の言葉に耳を傾けていた。その表情は厳しいままだったが、瞳の奥には、何らかの感情の揺らぎが見て取れた。

やがて、関羽は静かに立ち上がり、傍らに立てかけてあった青龍偃月刀を手に取った。その刀身が、月光を吸い込んで妖しい光を放つ。

「…言葉は分かった。だが、その魂の在り様は、言葉だけでは測れぬ」

関羽が、音もなく庭に下り立つ。

「その覚悟、この関雲長の刃で、今一度確かめさせていただこう!」


的斗もまた、静かに立ち上がり、龍胆の槍を手に取った。

「望むところです、関羽殿!」


二人の英雄が、再び対峙する。張飛との戦いが「剛」の激突だったとすれば、この関羽との戦いは、「静」の極致だった。互いに構えたまま、動かない。風の音、虫の音、そして互いの心臓の鼓動だけが、異常なほど大きく聞こえる。

先に動いたのは、関羽だった。

踏み込みの音はない。まるで水面を滑るように間合いを詰め、青龍偃月刀が、最小限の動きで的斗の喉元を狙う。それは、武技というより、もはや芸術の域に達した一撃だった。

的斗は、「龍の眼」を極限まで集中させる。関羽の肩の僅かな動き、筋肉の収縮、そして刃が描くであろう死の軌跡。その全てを読み切り、槍の穂先で、刀の側面を弾く。

キィン!

甲高い金属音が、夜の静寂を切り裂いた。


そこから始まったのは、言葉を超えた対話だった。

関羽の偃月刀が描く一閃は、彼の揺るぎない「義」そのもの。一切の迷いがなく、ただただ重く、鋭い。

的斗の槍は、その重い一撃を受け流し、いなし、そして反撃の隙を窺う。それは、変化する状況に対応し、未来を切り開こうとする、彼の柔軟な「志」の現れだった。

戦いの中で、関羽は的斗の瞳の奥に、揺るぎない「民への慈愛」と、劉備の理想を真に理解し、それを超えて新たな時代を築こうとする「志の高さ」を感じ取っていた。そして何よりも、的斗の身体から放たれる、清らかで力強い「龍の気」は、関羽の魂に直接語りかけてくるかのようだった。

(この若者…兄者が探し求めていたのは、あるいはこのような…)

関羽の心に、かつて劉備が語った「天命を持つ者」の姿が重なった。


長い、長い打ち合いの末、ついに二人の動きが止まった。互いの武器は、相手の喉元寸前で静止している。勝敗は、紙一重。

「…見事」

先に刃を引いたのは、関羽だった。その表情には、戦いを終えた武人としての満足感と、そして何か大きなものを見出したかのような、深い感銘の色が浮かんでいた。

的斗もまた、荒い息をつきながら、関羽を見据えていた。

「関羽殿…あなたこそ…真の義士だ…」

二人の間には、言葉を超えた魂の共鳴が確かに存在していた。関羽は、この若き龍の中に、劉備の夢を託すに足る、新たな希望の光を見出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ