第51話:劉璋降伏と益州平定、そして成都入城と新体制の構築
第51話:劉璋降伏と益州平定、そして成都入城と新体制の構築
葭萌関が、的斗こと趙雲子龍率いる白龍軍の電撃的な奇襲によって陥落した――その報は、雷鳴のように益州全土を駆け巡り、巨大な衝撃と戦慄を走らせた。
「あの天険の葭萌関が、背後から一夜にして…」
「間道を通ったというが、あれはもはや獣道。人の軍勢が通れるはずがない…」
「趙子龍は、天兵でも率いているというのか…」
益州の諸将や豪族たちは、白龍軍の神速の用兵に人知を超えた何かを感じ取り、恐怖に震えた。成都から派遣された討伐軍も、白龍軍の勢いの前に戦わずして瓦解。さらに、葭萌関を落とした後も、白龍軍が略奪を一切行わず、民に手厚く保護を与えているという噂が広まると、彼らの心は急速に傾いていった。ある者は白龍軍の勢いを恐れて早々に降伏の使者を送り、またある者は成都の劉璋を見限り、領地の保全を条件に内応を申し出てきた。益州の防衛網は、内側から雪崩を打つように崩壊し始めたのだ。
成都の城内もまた、絶望的な混乱に包まれていた。
「なぜだ!なぜ葭萌関が落ちるのだ!」
益州牧・劉璋は、報告を聞き、玉座から転げ落ちんばかりに狼狽した。彼は的確な指示を出すこともできず、ただ宴に逃避するように酒を煽り、佞臣たちに囲まれて現実から目を背けるばかりだった。宮殿には楽の音が響き渡っていたが、その音色はどこか空虚で、むしろ城内に渦巻く不安と絶望を際立たせるかのようだった。
そんな中、法正と孟達は、成都城内での最後の仕上げに着手していた。彼らは、劉璋に最後まで忠誠を誓いつつも、益州の将来を憂いていた重臣、黄権や李厳に接触した。
「黄権殿、李厳殿。もはや劉璋様に益州を治める力はございませぬ。趙子龍将軍は、仁徳と武勇を兼ね備えた、この乱世を終わらせるに足るお方。ここで無益な抵抗を続け、この豊かな成都を火の海にすることこそ、先祖代々の土地と民に対する最大の不忠ではございませんか?」
法正の言葉は、彼らの心を激しく揺さぶった。彼らもまた、劉璋の暗愚さに愛想を尽かし、このままでは益州が滅びると危惧していたのだ。
追い詰められた劉璋は、ついに法正を呼び出し、その真意を問いただした。
「孝直…お主は、わしを裏切るというのか…?」
その声は震え、目には涙すら浮かんでいた。
法正は、静かに、しかしきっぱりと言った。
「劉璋様。私は、益州の民を救いたいのです。趙子龍将軍は、決して新たな暴君とはなりませぬ。むしろ、彼の元でこそ、益州は真の繁栄を手にすることができるでしょう。どうか、ご決断を。降伏こそが、この益州の地と民を、無用な戦火から救う唯一の道にございます」
数日間に及ぶ苦悩の末、劉璋は、ついに降伏を決意した。彼は、先祖代々の位牌が並ぶ霊廟に一人こもり、夜通し涙を流したという。それは、自らの不徳を詫びる涙か、あるいは失われる権力を惜しむ涙か。だが、夜が明ける頃、彼は臣下たちの前にやつれた姿を現し、静かに告げた。「城門を開けよ。民を戦火に晒すことだけは、あってはならぬ…」。それは、暗君なりの、この土地と民に対する最後の愛情の示し方だったのかもしれない。
白龍軍が成都の城門の前に到達すると、城門は静かに開かれ、劉璋が僅かな供回りを連れて姿を現した。彼は、自らの身分を示す印綬を手に、的斗の前に進み出て、深々と頭を下げた。
「趙子龍将軍…この劉季玉、降伏いたします。どうか、益州の民だけは…お救いください…」
的斗は、馬上から静かに劉璋を見下ろし、そしてゆっくりと馬から下りた。
「劉璋殿、そのご決断、見事である。約束しよう。益州の民には、指一本触れさせぬ。これよりこの地は、白龍軍が責任を持って安寧を保つ」
的斗は、勝利に驕ることなく、敗者である劉璋に対しても礼を尽くした。そして、成都に入城する際には、兵士たちに厳しく略奪行為を禁じ、自らも馬から降りて民衆の中を歩き、彼らに深々と頭を下げた。
「これよりこの益州は、民が安心して暮らせる地となる!皆、安心してほしい!」
その謙虚で誠実な姿は、恐れと不安の目で見守っていた成都の民衆の心を瞬く間に掴み、やがてそれは安堵と、そして新たな時代への希望へと変わっていった。
益州平定後、的斗は早速、新たな統治体制の構築に着手した。その最初の仕事は、今回の最大の功労者たちに、その働きにふさわしい地位と責任を与えることだった。
療養から復帰し、その明晰な頭脳がますます冴え渡る徐庶には、丞相代理として、河北と益州、二つの広大な領土全体の行政と民政を統括する重責を任せた。徐庶は、荒廃した益州の復興、公平な法制度の整備、そして民心の安定といった内政全般を取り仕切り、的斗の「仁政」の理念を具体的な政策として次々と実行に移していった。
法正には、軍師中郎将の地位を与え、益州方面の軍備再編、新たな防衛体制の確立、そして徐庶と協力しての法典編纂といった、軍事・法制面での顧問を任せた。彼の非凡な知略と厳格な性格は、新体制の規律を引き締める上で不可欠だった。
そして陳宮には、筆頭軍師として、益州を強固な後背地とした上で、中原の曹操や江東の孫権といった残る強敵に対する、今後の大局的な戦略立案を委ねた。
それぞれの才能が、適材適所で活かされる新体制。それは、的斗の天下統一への道を、さらに確実なものとしていくための、重要な布石であった。
白龍軍は、中原と益州という広大な版図を手中に収め、天下統一への最大の足掛かりを得たのだ。だが、的斗の表情に慢心の色はない。益州の北には、まだ曹操の影響下にあり、張魯といった勢力が割拠する漢中の地が横たわっている。そこは、益州の門戸であると同時に、中原へ進出するための重要な鍵となる場所だ。
「次なる目標は、漢中の平定。益州の守りを固め、天下統一への道を盤石にする」
的斗の目は、すでに次なる戦場を見据えていた。




