第5話:邂逅、黄巾の三傑! 周倉・廖化・裴元紹
第5話:邂逅、黄巾の三傑! 周倉・廖化・裴元紹
行商人たちと別れ、再び洛陽を目指す的斗の旅は、以前にも増して慎重なものとなっていた。先日の黄巾賊との遭遇で、この時代の無法地帯の恐ろしさを身をもって知ったからだ。
(いつどこで、また賊に襲われるか分からない…油断は禁物だな)
腕の傷は浅く、数日でほとんど痛みは引いた。趙雲の身体は回復力も並外れているらしい。的斗は自身の身体の異変を「龍の血脈」と結びつけ始めていた。
数日後、的斗は険しい山道へと足を踏み入れた。行商人から「この先の峠道は、腕利きの山賊が出るという噂だ。できるなら避けた方が良い」と忠告された場所だったが、洛陽へ向かうにはこの道が最短だった。
(山賊ね…ゲームなら経験値稼ぎの相手だけど、現実はそうもいかないよな。しかし、もし相手が物凄く強くて、本当に命を奪いにきたら…?俺は昨日だって賊相手に、奇跡的に助かっただけで…)
的斗は槍を握る手に力を込め、周囲への警戒を怠らない。
道の両脇は鬱蒼とした森で、昼なお暗い。湿った土の匂いと、微かに腐葉土の香りが混じる。時折、獣の遠吠えのような音が聞こえ、不気味な雰囲気を醸し出している。的斗の背筋を冷たい汗が伝う。心臓の鼓動が耳元で大きく鳴り響く。
ふと、的斗は道の脇に、巧妙に隠された罠のようなものを見つけた。細い蔓が地面に張られ、うっかり踏み込めば足を掬われそうだ。
(やっぱりいるな…しかも、素人じゃない)
的斗は慎重に罠を避けながら進む。すると、今度は道の先の木の枝が不自然に揺れ、何者かが潜んでいる気配を感じた。
(見張りがいるのか…組織的な山賊団なのかもしれない)
緊張感が高まる。的斗はいつでも槍を振るえるよう、臨戦態勢を整えた。
しばらく進むと、道が少し開けた場所に出た。そこは峠の頂上付近らしく、見晴らしは良いが、同時に身を隠す場所も少ない。
(ここが奴らの狩場か…?)
的斗がそう思った瞬間、道の両脇の岩陰や木の上から、三つの人影が躍り出た。
一人は、熊のように巨大な体躯に、ぼうぼうと髭を蓄え、青龍偃月刀に似た大薙刀を肩に担いでいる。その眼光は鋭く、全身から圧倒的な威圧感を放っていた。
(でかい…! こいつ、周倉か…!?)
ゲームで見た周倉のイメージと重なる男だった。
もう一人は、やや年嵩で、痩身ながらも目つきは老獪。手には短い槍を持ち、どこか油断ならない雰囲気を漂わせている。
(こっちは…廖化っぽいのか。しぶとそうだ)
そして三人目は、小柄で猿のように身軽そうな男。腰には二本の短剣を差し、獣のような鋭い目で的斗を睨めつけている。その短剣の刃は錆びつき、血の痕跡がこびりついている。
(裴元紹…か。素早そうだな、厄介そうだ)
的斗は瞬時に、ゲーム知識と目の前の三人の特徴を結びつけた。間違いない、彼らは後の関羽の忠臣・周倉、蜀の長寿の将・廖化、そして悲運の武人・裴元紹だ。
(マジかよ…こんなところでエンカウントするなんて…!しかも、序盤にしては強敵すぎるだろ!)
心の中で叫びつつも、的斗の表情は冷静さを保っている。いや、むしろ、その口元にはかすかな笑みすら浮かんでいた。
(こいつら、ゲームじゃ序盤の頼れる仲間だった。もし仲間にできれば、大きな戦力になる…!そうすれば、天下統一への道も早まる…!)
ゲーマー魂が、危険な状況にもかかわらず、攻略対象を見つけた喜びに打ち震えていた。
「おい、旅の兄ちゃん。運が悪かったな。ここは俺たちの縄張りだ」
最初に口を開いたのは、熊のような大男――周倉と思われる男だった。その声は、腹の底から響くような野太い声だ。
「身ぐるみ置いていけば、命だけは助けてやってもいいぜ?」
裴元紹風の男が、短剣を弄びながら挑発的に言う。廖化っぽい男は黙って的斗の様子を窺っている。
的斗は槍を軽く構え、三人を真っ直ぐに見据えた。その瞳には、先の黄巾賊との戦いで見せた「弱い者を守る」という「義」の光が宿っているかのようだった。
「残念だが、金目のものは持ち合わせがない。それに、この槍を置いていく気もないんでな」
その言葉に、周倉の眉がピクリと動いた。
「ほう…威勢のいいこった。その槍がどれほどのものか、試してみるか?」
「望むところだ。だが、その前に一つ聞きたい」
的斗は、あえて不敵な笑みを浮かべた。
「お前たちほどの腕がありながら、なぜこんな所で山賊紛いなことをしている? もっとでかいことができるとは思わないのか?(民が安心して暮らせる世を作るために、俺にはお前たちの力が必要なんだ!)」
的斗の言葉に、三人の顔色が変わった。特に廖化が、鋭い目で的斗を射抜く。
「…何が言いたい?」
「俺は趙雲子龍。見ての通り、まだ若輩だが、天下に名を成すつもりだ。お前たちのような腕利きの仲間を探している」
的斗は、はっきりとそう言い放った。これは賭けだった。彼らがただの強盗であれば、この言葉は無意味だろう。しかし、もし彼らの心に、今の境遇への不満や、もっと大きな何かを求める気持ちが僅かでも残っているならば…。
周倉が、大薙刀を地面に突き立て、ニヤリと笑った。
「面白いことを言うじゃねえか、趙雲子龍とやら。だがな、仲間になるかどうかは、アンタの実力を見てから決めさせてもらうぜ!」
「ああ、それで構わない」
的斗もまた、槍を握る手に力を込めた。
(よし、かかった…! まずはこいつらを力でねじ伏せる。そして、俺の器を見せてやる!)
三国志の英雄たちとの、最初の出会い。それは、互いの力を試す、避けられない戦いの始まりを告げていた。




