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第47話:天下二分の計! 陳宮の壮大なる戦略と、益州攻略の決断

第47話:天下二分の計! 陳宮の壮大なる戦略と、益州攻略の決断

河北平定の祝宴も落ち着き、白龍軍が次なる一手について検討を始めた頃、軍師・陳宮が、的斗の前に一枚の広大な地図を広げた。そこには、中華全土の地形と、各勢力の現在の版図が詳細に記されている。


「趙子龍殿。我らは河北を制し、中原の北半分をほぼ手中に収めました。しかし、これで天下泰平への道が安泰となったわけではございません」


陳宮の声は、いつになく真剣だった。

「西には、依然として五万以上の兵力を維持する曹操が、汝南じょなんえんといった中原南部の要衝に陣を敷き、我らの陳留や、目と鼻の先にある許都を常に脅かしております。先の戦いで先鋒は退けましたが、彼の主力は未だ健在。我らが河北平定に手間取っている間に、着々と戦力を回復させていることでしょう。あの男と中原で睨み合いを続けるのは、国力を消耗させるだけの不毛な戦いです。東の江東には、孫権が強力な水軍を擁し、長江の天険に拠って一大勢力を築いております。そして北には、烏桓や公孫康といった、我らの背後を脅かす存在もおります。現状の我々は、四方を敵に囲まれていると言っても過言ではございません」


陳宮の分析は的確で、的斗もその戦略的脆弱性を認識せざるを得なかった。


「では、我々はどうすべきだとお考えですか、先生?」的斗が問う。


陳宮は地図上で、河北、中原、そして益州を大きく囲んでみせた。

「…益州を平定すれば、我らは中華の西と北の大部分を掌握することになります。そうなれば、この中華は事実上、我ら『西』の勢力と、長江流域に拠る孫権、そして彼と連携せざるを得なくなった曹操の残党といった『東南』の勢力とに、大きく二分されることになりましょう。これこそが『天下二分の計』の第一段階です」


彼の声に、熱がこもる。

「この『二分』の形を作り上げた上で、我らは益州と河北という二大穀倉地帯を背景に国力を充実させ、敵を圧倒する。そして最終的に東南を平定し、完全なる統一を成し遂げるのです。中原だけで曹操・孫権と同時に渡り合うのは、消耗戦に陥るだけ。しかし、この計ならば、確実に天下を掴むことができます」


それは、長期的な視野に立ち、中華全土の統一を見据えた、まさに壮大な戦略だった。


しかし、この陳宮の提案に対し、軍議では慎重論も多く出された。

「陳宮先生のお考えは理解できますが、益州は道が険しく、攻略には多大な時間と兵力、そして莫大な兵站が必要となります。その間に、曹操が再起し、我々の本拠地である鄴や陳留を攻められる危険性も無視できません」

徐盛が、現実的な懸念を口にする。太史慈もまた、「北方の烏桓や公孫康への備えも疎かにはできません。益州に大軍を向ければ、北辺の守りが手薄になりますぞ」と続いた。


それに対し、陳宮は冷静に反論した。

「確かに、益州攻略は困難な道です。しかし、その困難を乗り越えて益州を得ることの戦略的価値は、計り知れません。曹操の再起は時間の問題であり、中原だけで彼と渡り合い続けるのは、いずれ国力を消耗させるだけの不毛な戦いとなりましょう。益州という安定した生産基盤と、天然の要害があってこそ、我々は最終的な勝利を手にすることができるのです。北方の脅威に対しては、一部の精鋭部隊を割いて国境防衛線を築きつつ、外交によって時間を稼ぐことも可能かと存じます」


両者の意見を聞き、的斗は深く思いを巡らせた。どちらの意見にも一理ある。しかし、陳宮の語る「天下二分の計」には、それを実現した際の「天下泰平」への確実な道筋と、何よりも心を揺さぶる壮大なロマンがあった。


(確かに危険な賭けだ…でも、成功すれば、多くの民を一日も早く戦乱から救うことができるかもしれない…)

的斗の脳裏に、貂蝉の言葉が蘇った。「どうか、これ以上民を苦しめることのない戦い方を…」。


「先生方、皆の意見、よく分かった」

的斗は、静かに口を開いた。その瞳には、リーダーとしての覚悟と決意が宿っている。

「俺は、陳宮先生の『天下二分の計』に賭けたいと思う。確かに困難な道だろう。だが、この策が成功すれば、我々は真の天下泰平をこの手で掴むことができるはずだ。もし失敗すれば…その責任は、全てこの俺が負う」


その言葉には、有無を言わせぬ迫力があった。反対していた徐盛や太史慈も、的斗のその覚悟を前に、もはや何も言うことはできなかった。


その夜、的斗は貂蝉に、益州攻略の決意を語った。

「俺は、ただ領土を広げたいんじゃないんだ。一日も早くこの戦乱を終わらせて、君や、この国の全ての民が、心から安心して暮らせる、本当に平和な国を作りたい。子供たちが笑顔で学び、人々が互いに助け合って生きていけるような、そんな国を…」

貂蝉は、的斗の大きな手にそっと自分の手を重ねた。

「あなた様なら、きっとできますわ。私は、いつまでもあなた様の傍らで、その夢のお手伝いをさせてください」

貂蝉の温かい言葉と、揺るぎない信頼が、的斗の心を力強く支えていた。


益州攻略――それは、白龍軍にとって、そして的斗にとって、天下統一への大きな分水嶺となる、新たな挑戦の始まりだった。

若き龍は、その視線を西の険しい山々へと向け、静かに闘志を燃やすのだった。

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