第44話:陳宮の謀略、炸裂! 白龍軍、奇跡の反撃開始
第44話:陳宮の謀略、炸裂! 白龍軍、奇跡の反撃開始
放浪の智者・陳宮が白龍軍に加わったという報は、絶望の淵にあった軍全体に、瞬く間に新たな希望の光を灯した。
しかし、白龍軍が直面している現実に変わりはなかった。河北平定後の軍の再編もままならぬうちに、西から曹操、北から袁家の残党という二正面作戦を強いられ、兵力は各地に分散。この戦域で的斗が直接率いることのできる兵は、疲弊した者たちを含めて三万余りとなっていた。
対する曹操は、官渡での敗北から驚異的な速さで立ち直り、再編した青州兵を中核とする五万以上の精鋭を率いて、的斗軍の喉元にまで迫っていた。連戦連勝で士気も高く、地の利も曹操側にある。
兵士たちの間には連敗による厭戦気分が蔓延し、軍の規律は緩み始めていた。このままでは、決戦を前に軍が内から崩壊しかねない、危険な状況だった。
白龍軍に合流した陳宮は、まずその絶望的な戦況を冷静に分析した。
「趙子龍殿。兵力、士気、地の利、いずれも我らに不利。このまま曹操の主力とぶつかれば、我々は磨り潰されるだけです」
軍議の間の空気は、鉛のように重い。誰もが反論の言葉すら見つけられなかった。
「ですが」と陳宮は続けた。「死中にこそ活路はあります。今の我々に必要なのは、勝利という結果によって、兵たちの失われた誇りと士気を取り戻させること。そのための、起死回生の一手です」
陳宮は、地図を広げ、一つの地点を指し示した。そこは、白龍軍の残存兵力がかろうじて保持している、川を背にした狭い谷間だった。
「ここに、精鋭一万を率いて布陣いたします。いわゆる『背水の陣』です」
その言葉に、軍議に参加していた将たちは息をのんだ。
「せ、先生!それはあまりにも危険すぎます!ただでさえ少ない兵を、逃げ場のない場所に集めるなど…」廖化が、思わず声を上げる。
「左様。だからこそ、兵は死に物狂いで戦う。そして、敵は我々を袋の鼠と侮り、油断する。その油断こそが、我々の勝機。狙うは、敵の主力ではありませぬ。功を焦り、突出してきた部隊を確実に叩き潰し、曹操軍全体の勢いを挫くのです」
陳宮は、冷静に続けた。
「曹操軍の中でも、現在最も突出しており、警戒が薄くなっている部隊があります。曹操軍の将、韓浩の弟である韓猛が率いる一万。彼らは最近の勝利に驕り、功を焦っている。その部隊には、前線へ物資を運ぶ輜重隊も多く含まれており、動きも鈍重なはず。 この最も脆い部分を、我々が誘い出し、この谷間で完全に叩き潰すのです」
的斗は、陳宮の策の意図を必死に理解しようとした。それは、あまりにも大胆で、そして危険な賭けだった。しかし、今の白龍軍には、もはや正攻法で勝てる見込みはない。
「…分かりました、先生。この一戦に、白龍軍の全てを賭けます。先生の策を信じます!俺が全ての責任を負います!」
的斗の決断を受け、陳宮はさらに詳細な指示を出す。
「趙子龍殿には、五千の精鋭を率いて囮となっていただきます。そして廖化殿、貴殿には一万の兵を与えます。谷間の迂回ルートを通り、韓猛軍の後方、補給路を脅かす動きを見せてください。 直接攻撃は不要。敵に『背後を断たれるやもしれぬ』という焦りを生ませ、谷間へとおびき寄せるのです。残る一万五千は、周倉殿、太史慈殿らが率い、谷間の両翼に伏兵として配置します。 全軍が連動し、一つの罠として機能させるのです」
的斗の決断に、他の将たちも覚悟を決めた。
数日後、陳宮の策が実行に移された。的斗率いる五千の騎兵が、韓猛の部隊を激しく挑発する。
「趙子龍、出てきたか!臆病風に吹かれて逃げ出したかと思ったぞ!愚かな若造め!」
韓猛は、的斗の挑発にやすやすと乗り、功を焦って全軍で追撃を開始した。
的斗は、巧みに韓猛軍を引きつけながら、予定の谷間へと後退する。背後からは廖化隊が補給路を脅かす動きを見せ、韓猛は功を焦り、退路を断たれる前に決着をつけようと、全軍で谷間へと突撃した。
そして、韓猛軍が完全に谷間に入り込んだ瞬間、陳宮の合図と共に、両側の山陰に潜んでいた周倉、太史慈、張郃、高覧らが率いる一万五千の伏兵が一斉に襲いかかった!
「な、何だと!?伏兵か!罠だ!」
韓猛は驚愕するが、時すでに遅し。狭い谷間で身動きが取れなくなった曹操軍は、白龍軍の決死の猛攻の前に混乱に陥る。
的斗もまた、囮の役目を終え、反転して韓猛の本隊に突撃した。彼の槍捌きは、陳宮の策への信頼と、仲間たちへの想いが乗り移ったかのように、冴え渡っていた。
「韓猛!覚悟!」
的斗の槍が、韓猛を馬上から突き落とした。その一撃は、韓猛の鎧を粉々に砕き、彼の命を奪った。大将を失った韓猛軍は完全に統制を失い、谷間でことごとく討ち取られるか、川に飛び込んで溺れ死んだ。白龍軍は、絶望的な状況下で奇跡的な大勝利を収めたのだ。
この報は、すぐさま曹操の本隊にもたらされた。
「韓猛が討たれただと…?あの趙子龍に、これほどの策を授ける者がいるというのか…!」
曹操は、突出した部隊が壊滅したこと、そして敵の士気が一気に高まったことを鑑み、これ以上の深追いは危険と判断。全軍に一時撤退を命じ、戦線を再構築するために軍を引いた。彼の顔には、趙子龍への憎悪と共に、その背後にいるであろう未知の軍師、陳宮への強い警戒心が刻まれていた。
一方、河北では、張郃らが袁家の残党の攻撃を巧みに防ぎ、戦線を維持していた。曹操軍の撤退により、白龍軍はようやく二正面作戦という最悪の状況から脱し、束の間の猶予を得ることができた。
白龍軍の兵士たちは、この勝利に熱狂し、陳宮の知略に心からの敬意を抱いた。周倉も、「陳宮先生、あんたスゲえや!あんな冷徹な策、俺には思いつきもしねえ!」と素直にその手腕を称えた。
的斗は、この戦いを通じて、陳宮の知略の深さと、軍師を信頼し、その策を的確に実行することの重要性を改めて学んだ。それは、彼がリーダーとして、また一段階成長した証でもあった。
戦いの後、軍議を陳宮に任せた的斗は、馬を走らせた。向かう先は、前線の喧騒から少し離れた後方拠点であり、かつての陳留の陣営。そこには、先の戦で重傷を負った徐庶が、軍医たちの懸命な看護を受けながら療養していた。
「先生、趙雲です」
的斗は、寝台の上で身体を起こしている徐庶の元に静かに歩み寄った。彼の顔色はまだ青白いが、その瞳には報告を待つ光が宿っている。
的斗は、陳宮の加入と、この度の勝利を包み隠さず報告した。
「…左様ですか。陳宮殿が…それは、誠に心強い。韓猛を討ち取るとは、見事な采配でしたな。しかし、趙子龍様。陳宮殿の知略は、時に薬にも毒にもなります。その力を正しく用い、民のために導くのは、あくまで大将である貴方様自身です。そのことを、ゆめゆめお忘れなきよう…」
「はい、先生。肝に銘じます」
的斗は、徐庶の言葉の重みを噛み締めた。徐庶と陳宮。タイプの異なる二人の優れた軍師を得たことは、白龍軍にとって計り知れない力となるだろう。しかし、その力をどう使うかは、全て自分にかかっている。
曹操軍の脅威は去ったわけではない。だが、白龍軍の反撃の狼煙は、確かに上がった。的斗は、新たな決意を胸に、次なる戦いへと目を向けた。




