第44話:陳宮の謀略、炸裂! 白龍軍、奇跡の反撃開始
第44話:陳宮の謀略、炸裂! 白龍軍、奇跡の反撃開始
放浪の智者・陳宮が白龍軍に加わったという報は、絶望の淵にあった軍全体に、瞬く間に新たな希望の光を灯した。
「あの陳宮先生が、我々の軍師に!?」
「呂布様のもとで、数々の奇策を講じたという、あのお方か!」
兵士たちは色めき立ち、落ち込んでいた士気は一気に高揚した。的斗もまた、陳宮という強力な知恵袋を得たことに、大きな手応えを感じていた。
しかし、陳宮のやり方は、温和で常に兵士たちの心を慮ってきた徐庶とは全く異なっていて。彼は厳格で、時に冷徹とも思えるほど合理的な判断を下し、軍規を乱す者には容赦なかった。その態度は、特に周倉のような直情径行なタイプの将には、「なんだってんでえ、あの新しい軍師様は!偉そうにしやがって!人情ってもんがねえ!」と、当初、少なからぬ反発を生んだ。
だが、的斗は陳宮の能力を信じ、彼に全幅の信頼を置く姿勢を明確に示した。
白龍軍に合流した陳宮は、まず現状の戦況を冷静に分析した。曹操軍は連戦連勝の勢いに乗り、白龍軍は兵力も士気も著しく低下している。まともにぶつかれば、勝ち目はない。
「趙子龍殿。今の我々に必要なのは、奇跡的な勝利です。そして、その奇跡は、計算され尽くした策によってのみもたらされます」
陳宮は、地図を広げ、一つの地点を指し示した。そこは、白龍軍の残存兵力がかろうじて保持している、川を背にした狭い谷間だった。
「ここに、全軍で布陣いたします。いわゆる『背水の陣』です」
その言葉に、軍議に参加していた将たちは息をのんだ。彼らは皆、陳宮の冷徹な判断力に畏敬の念を抱くと同時に、その大胆な策に戦慄していた。
「せ、先生!それはあまりにも危険すぎます!失敗すれば、我々は全滅ですぞ!まさに袋の鼠ではないですか!」廖化が、思わず声を上げる。
「左様。だからこそ、兵士たちは死に物狂いで戦う。そして、敵は我々を袋の鼠と侮り、油断する。その油断こそが、我々の勝機です。この策に、犠牲は伴うでしょう。しかし、それが白龍軍を救う唯一の道です」
陳宮は、冷静に続けた。
「曹操軍の中でも、現在最も突出しており、兵站線が伸びきっている部隊があります。曹操軍の将、韓浩の弟である**韓猛**が率いる一万。彼らは最近の勝利に驕り、警戒も薄い。この部隊を、我々が誘い出し、この谷間で殲滅するのです」
的斗は、陳宮の策の意図を必死に理解しようとした。それは、あまりにも大胆で、そして危険な賭けだった。しかし、今の白龍軍には、もはや正攻法で勝てる見込みはない。
「…分かりました、先生。この一戦に、白龍軍の全てを賭けます。先生の策を信じます!俺が全ての責任を負います!」その言葉には、彼の内心に「龍の威光」が静かに燃え上がっていた証拠だった。
的斗の決断に、他の将たちも覚悟を決めた。
数日後、陳宮の指示通り、白龍軍は川を背にした谷間に布陣した。そして、的斗は自ら少数精鋭の騎兵を率い、韓猛の部隊を挑発し、谷間へと誘い込む囮の役を買って出た。
「趙子龍、出てきたか!臆病風に吹かれて逃げ出したかと思ったぞ!愚かな若造め!」
韓猛は、的斗の挑発にやすやすと乗り、功を焦って全軍で追撃を開始した。彼の脳裏には、先の勝利の興奮と、敵将の首を挙げる功名心しかなかった。
的斗は、巧みに韓猛軍を引きつけながら、予定の地点まで後退する。そして、韓猛軍が完全に谷間に入り込んだ瞬間、陳宮の合図と共に、両側の山陰に潜んでいた周倉、太史慈、そして新たに加わった張郃、高覧といった猛将たちが率いる伏兵が一斉に襲いかかった!
「な、何だと!?伏兵か!罠だ!」
韓猛は驚愕するが、時すでに遅し。狭い谷間で身動きが取れなくなった曹操軍は、白龍軍の決死の猛攻の前に混乱に陥る。的斗が放つ「龍の威光」は、曹操軍の兵士たちの戦意を削ぎ、恐怖心を煽る。彼らは、的斗の姿を、まるで地獄から現れた龍のように見えた。
的斗もまた、囮の役目を終え、反転して韓猛の本隊に突撃した。彼の槍捌きは、陳宮の策への信頼と、仲間たちへの想いが乗り移ったかのように、冴え渡っていた。
「韓猛!覚悟!」
的斗の槍が、韓猛を馬上から突き落とした。その一撃は、韓猛の鎧を粉々に砕き、彼の命を奪った。大将を失った曹操軍は総崩れとなり、白龍軍は奇跡的な大勝利を収めた。
この勝利は、曹操軍に大きな衝撃を与えた。壊滅寸前と思われていた白龍軍が、これほど早く、そしてこれほど鮮やかな反撃に出てくるとは、誰も予想していなかったのだ。曹操自身も、この報を聞き、初めて陳宮という軍師の存在を本格的に警戒し始めた。彼は、的斗の「龍の力」だけでなく、陳宮の知略もまた、看過できない脅威であると認識した。
白龍軍の兵士たちは、この勝利に歓喜し、陳宮の知略に心からの敬意を抱いた。周倉も、以前の不満などどこへやら、「陳宮先生、あんたスゲえや!あんな冷徹な策、俺には思いつきもしねえ!」と素直にその手腕を称えた。
的斗は、この戦いを通じて、陳宮の知略の深さと、軍師を信頼し、その策を的確に実行することの重要性を改めて学んだ。それは、彼がリーダーとして、また一段階成長した証でもあった。
戦いの後、的斗は療養中の徐庶の元を訪れ、陳宮の加入と、この度の勝利を報告した。
徐庶は、寝台の上で身体を起こし、的斗の報告を静かに聞いていた。彼の顔色はまだ青白いが、その瞳には安堵と、かすかな笑みが浮かんでいた。
「…左様ですか。陳宮殿が…それは、誠に心強い。韓猛を討ち取るとは、見事な采配でしたな。しかし、趙子龍様。陳宮殿の知略は、時に薬にも毒にもなります。その力を正しく用い、民のために導くのは、あくまで大将である貴方様自身です。そのことを、ゆめゆめお忘れなきよう…」
「はい、先生。肝に銘じます」
的斗は、徐庶の言葉の重みを噛み締めた。徐庶と陳宮。タイプの異なる二人の優れた軍師を得たことは、白龍軍にとって計り知れない力となるだろう。しかし、その力をどう使うかは、全て自分にかかっている。
白龍軍の反撃の狼煙は上がった。的斗は、新たな決意を胸に、次なる戦いへと目を向けた。
意を胸に、次なる戦いへと目を向けた。