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第42話:絶望の中の光明、放浪する智者・陳宮の噂

第42話:絶望の中の光明、放浪する智者・陳宮の噂


徐庶の負傷と、曹操軍による容赦ない追撃。白龍軍は、かつてないほどの窮地に立たされていた。領土の多くを失い、兵士たちの数も半減。そして何よりも、リーダーである的斗の心が、深く傷つき、折れかけていた。

「俺のせいだ…俺が未熟だったから、徐庶先生を危険な目に遭わせ、多くの仲間を死なせてしまった…俺に、軍を率いる資格なんてないのかもしれない…」

的斗は、薄暗い自室に閉じこもり、誰とも顔を合わせようとしなかった。食事も喉を通らず、その顔は憔悴しきっていた。彼の瞳には光がなく、ただ虚無が広がっていた。かつて抱いた天下統一の夢は、遠い幻のようだった。指先は震え、愛用の槍を握る気力すら失せていた。体内の「龍の気」は、彼の絶望に呼応するかのように沈黙し、ただの重たい血の流れとしてしか感じられなかった。

(こんな俺が、『龍の血脈』だなんて…ただのゲーマーだった俺が、この世界で何ができるっていうんだ…!力に溺れ、仲間を守ることすらできなかった…!)

そんな的斗の姿は、白龍軍全体の士気にも暗い影を落としていた。兵士たちの間には「趙雲様は、もう我々を見捨てられたのではないか…」という不安と不満の声が広がり始め、中には「もはやこれまでか」と、夜陰に紛れて脱走する者まで現れ始めていた。軍の崩壊は、もはや時間の問題かと思われた。

その危機的状況に、最初に立ち上がったのは貂蝉だった。彼女は、的斗が閉じこもる部屋の戸を強く叩き、返事を待たずに中へと入った。

「子龍様!いつまでそうして塞ぎ込んでおいでなのですか!」

貂蝉の声は、いつもの優しさとは裏腹に、厳しく、しかし深い愛情と悲しみを込めて震えていた。

「あなたのそのお姿が、どれだけ兵士たちを不安にさせているか、お分かりになりませんか!徐庶殿も、こんなあなたを見たら、きっと悲しみます!立ちなさい、趙子龍!あなたは、民の希望なのでしょう!? 私だって、かつては国のために我が身を犠牲にする覚悟を決めました。でも、あなたと出会って、自分の意志で未来を切り開く希望を知ったのです。ここで諦めてしまっては、亡くなった兵士たちにも、そして王允様にも顔向けできませんわ!あなたは、私を信じて、そして私たちを信じて、ここまで来たのでしょう!?」

涙を流しながらも、貂蝉は的斗の胸倉を掴み、力強く叱咤した。その瞳には、的斗を信じる揺るぎない光が宿っていた。彼女のその一途な思いが、的斗の心の奥底に眠っていた火種を、再び燃え上がらせようとしていた。

貂蝉の言葉は、的斗の心の奥底に突き刺さった。そして、部屋の外からも、仲間たちの声が聞こえてきた。

「趙雲様!俺たちは、あんたを見限ったりしねえ!あんたが立ち上がるまで、この周倉が、残った兵士たちをまとめ、軍を守ってみせまさあ!脱走しようとした奴らも、俺がぶん殴って言い聞かせやした!『趙雲様は、俺たちの光だ。光が消えそうなら、俺たちが風よけになりゃあいいんだ』ってな!だから、頼む!俺たちに、あんたの背中を見せてくれ!」

周倉は、持ち前の豪胆さで兵士たちを鼓舞し、軍の規律を維持しようと奔走していた。

「趙雲様、ご安心ください。曹操軍の追撃は、この太史慈と徐盛が必ず食い止めます。兵力は劣れど、我らが築いた守りは鉄壁。趙雲様の盾となることが、我らの誇りです!」

太史慈と徐盛は、的斗に代わって防衛線の指揮を執り、少数ながらも巧みな戦術で曹操軍の進撃を遅らせていた。

裴元紹も、負傷をおして松葉杖をつきながら、子供たちを集めて斥候の基礎を教え、情報網を再構築しようとしていた。彼の足からはまだ血が滲んでいたが、その目には的斗への揺るぎない忠誠が宿っていた。

仲間たちは、誰一人として的斗を見捨ててはいなかった。彼らは、的斗が再び立ち上がることを信じ、それぞれの持ち場で必死に戦っていたのだ。

(俺は…一人じゃなかったんだ…)

的斗の目から、熱いものがこぼれ落ちた。それは、絶望の涙ではなく、仲間たちへの感謝と、自らの不甲斐なさへの悔い、そして、もう一度立ち上がろうとする決意の涙だった。その涙が、彼の凍り付いていた心を溶かし、再び熱を取り戻させた。

その時、廖化が息を切らして部屋に飛び込んできた。彼の顔には、疲労の色と共に、興奮と期待の色が浮かんでいる。

「趙雲様!申し上げます!とんでもない情報を掴んでまいりました!」

廖化は、元賊の仲間や、各地の商人、旅芸人といった様々な情報源から、ある人物の噂を丹念に集めていたのだ。

「趙雲様もご存知かと思われますが、かつて呂布軍の軍師であった陳宮殿が、今はどこの勢力にも与せず、中原を放浪しておられるとのことでございます。しかも、ただ放浪しているのではなく、各地で圧政に苦しむ民を助けたり、悪徳役人を懲らしめて奪われたものを取り返したりと、まるで義賊のような活動をしておいでだとか。その知略は未だ衰えず、民からの信頼も厚いと…」

(陳宮…!あの、呂布の軍師だった男が…!?あの、呂-布の最期を静かに見届けた男が…!あの、呂布の愚かさに見切りをつけたという智者…!あの人なら…あの人の知略があれば…この絶望的な状況を、あるいは…!

そういえば以前、白龍軍がまだ荊州にいた頃、徐庶先生と夜遅くまで軍師の重要性について語り合ったことがあった。その時、先生はふと、こんなことを漏らしていたのを思い出す。『この乱世には、私のような者以外にも、埋もれた才を持つ軍師がいるはずです。例えば、かつて呂布に仕えた陳宮殿のような…彼が今どうしているかは分かりませぬが、もし彼のような者が味方になれば、まさに鬼に金棒でしょうな』と。あの時の先生の言葉は、このことを示唆していたのか…!?)

暗闇の中に、一筋の光明が差し込んだような気がした。陳宮。それは、今の白龍軍にとって、まさに最後の希望と言えるかもしれない。

「廖化、その陳宮殿は、今どこにいるか分かるか?」

的斗の声には、いつの間にか、以前のような力が戻っていた。彼の瞳には、再び光が宿り始めていた。

「はい!いくつかの情報を照らし合わせた結果、おそらく、ここから数日離れた、とある寂れた村に滞在している可能性が高いかと…」

「よし…!」

的斗は、固く拳を握りしめた。

「俺は、その陳宮殿に会いに行く。必ずや彼を説得し、我々の軍師として迎え入れる。それが、俺たち白龍軍が再起するための、唯一の道だ!」

その瞳には、もはや絶望の色はなかった。そこには、困難に立ち向かい、未来を切り開こうとする、若きリーダーの強い意志が再び燃え上がっていた。

仲間たちの変わらぬ忠誠と、貂蝉の愛、そして陳宮という新たな希望。的斗の、そして白龍軍の反撃の狼煙は、今まさに上がろうとしていた。

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