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第41話:曹操の逆襲開始! 白龍軍、絶体絶命の危機と徐庶の負傷

第41話:曹操の逆襲開始! 白龍軍、絶体絶命の危機と徐庶の負傷


的斗が袁紹との決別を宣言し、河北の民を救うべく兵を北へ進めようとしていた、まさにその矢先だった。西の地平線から、狼煙とも見紛う土煙が立ち上り、悪夢のような報せが立て続けに舞い込んできた。

「申し上げます!曹操軍、我が領内に侵攻!黄河沿いの重要拠点、白馬はくばが急襲され、半日で陥落!守備隊は壊滅状態とのことにございます!」

「続いて、延津えんしんも敵の手に!守備隊長は玉砕!もはや、陳留は目と鼻の先!敵の進軍、あまりに速すぎます!」

伝令兵の絶叫が、軍議の間の空気を凍りつかせた。

(曹操…!まさか、このタイミングで…!?早すぎる…!早すぎるぞ!)

的斗は愕然とした。官渡で手痛い敗北を喫し、再起不能とまで噂されたはずの曹操が、これほど早く、そしてこれほど大規模な反撃に出てくるとは、全くの予想外だった。いや、心のどこかで油断があったのかもしれない。袁紹という目の前の巨悪に意識が集中し、あの不屈の奸雄の闘志と再起の速さを見誤っていたのだ。背筋を、氷のような汗が伝った。

曹操の進軍は、まさに黒き奔流だった。夏侯惇、夏侯淵といった歴戦の猛将たちが率いる精鋭部隊は、的斗軍の油断と、袁紹戦線への兵力集中という隙を完璧に突き、白龍軍の防衛線を紙を破るように次々と突破していく。陥落した白馬や延津は、白龍軍にとって重要な兵糧備蓄地であり、交通の要衝でもあった。その損失は計り知れない。

白龍軍は、突如として北の袁紹と西の曹操という、二大勢力に挟撃される形となり、建軍以来、最大の危機に陥った。

「くそっ!こうなったら、全軍で曹操を迎え撃つ!」

的斗は焦りを抑え、兵力を再編し曹操軍の迎撃に向かおうとする。しかし、河北では依然として袁紹軍の残存勢力や、袁家の内紛に与する諸将との間で泥沼の戦いが続いていた。

「趙雲様!ここは俺たちに任せて、曹操の方へ!袁紹の首は、この太史慈と張郃、高覧が必ず食い止めます!貴方様は、白龍軍の心臓!決して折れることなかれ!」

河北戦線では、太史慈や張郃、高覧といった将たちが必死に袁紹軍の抵抗を抑え込もうとしていた。特に張郃と高覧は、かつての同僚たちと刃を交えねばならないという辛い状況にありながらも、的斗への忠義を胸に奮戦していた。彼らの目には、過去のしがらみを断ち切り、新たな主君の下で未来を切り開くという、悲壮な覚悟が燃えていた。

「周倉!裴元紹!お前たちは俺と共に曹操軍の先鋒を叩く!廖化は後方支援を頼む!徐庶先生は本陣で全軍の指揮を!」

的斗は、手勢を率いて自ら曹操軍の主力へと向かった。しかし、曹操軍の勢いは凄まじく、白龍軍は各地で苦戦を強いられる。敗戦の屈辱を晴らさんとばかりに、猛然と襲いかかる曹操軍の兵士たちの鬼気迫る表情が、的斗の心を苛んだ。

激戦の中、斥候として敵陣深くに潜入していた裴元紹が、曹操軍の伏兵に囲まれ、矢を何本も受けて重傷を負ってしまう。彼の片足には敵の毒矢が深く突き刺さり、みるみるうちに脚が紫に変色していく。

「趙雲…様…敵の伏兵は…林の奥…夏侯淵の旗が…ぐっ…」

彼は必死に的斗に敵の配置を伝えるが、その声はか細く、やがて言葉にならなかった。

「裴元紹!!」

的斗の悲痛な叫びが戦場に響く。仲間が目の前で苦しみ、倒れていく光景は、的斗の心を激しく揺さぶった。彼の瞳に、怒りと焦りが混じり合った。(まただ…また俺は、大切なものを失うのか…!)

そして、最大の悲劇が的斗を襲う。

的斗が自ら先陣を切って曹操軍の本隊に迫ろうとしたその時、側方から曹操軍の精鋭騎兵部隊「虎豹騎」が、まるで黒い旋風のように襲いかかってきたのだ。指揮を執るのは、曹操の片腕ともいえる猛将・夏侯惇。彼の隻眼は、的斗を睨みつけ、獣のような殺意を放っていた。

「趙子龍!見つけたぞ!官渡の借りは、ここで返させてもらう!」

夏侯惇の気迫に押され、的斗は一瞬動きが止まる。その隙を突かれ、虎豹騎の騎兵たちが的斗を取り囲み、四方から槍衾が迫る。

(まずい…!)

絶体絶命。的斗が死を覚悟した、その瞬間。

「趙子龍様!お下がりください!」

一本の矢が、的斗を狙う騎兵の眉間を正確に射抜いた。見れば、徐庶が、文官であるはずの彼が、自ら弓を手に馬で駆けつけ、的斗の前に立ちはだかっていた。彼の顔色は、既に青ざめていた。

(先生!?なぜここに…!?)

次の瞬間、的斗を庇うように、その背中に数本の矢が深々と突き刺さった。矢の鏃は、彼の肩と脇腹を貫き、鮮血が鎧に滲み出す。ドクドクと溢れ出る血が、馬の白い毛を赤黒く染めていく。

「先生ーーーーっ!!」

的斗の絶叫が、戦場に木霊した。

徐庶は、馬上から崩れ落ちそうになるのを必死に堪え、血を吐きながらも、的斗に向かって力なく微笑んだ。彼の瞳には、的斗への絶対的な信頼と、未来への希望が揺らいでいた。

(子龍殿…貴殿は、この乱世の光…決して、ここで潰えてはなりませぬ…この元直の命など、貴殿の未来に比べれば…安いもの…)

「趙子龍様…私は…一時…退きますが…必ずや…回復し…貴方様の…元へ…戻ります…それまで…どうか…ご無事で…そして…貴方様の『義』を…決して…見失わぬよう…」

その言葉を最後に、徐庶は意識を失い、馬から崩れ落ちた。

「先生!先生!しっかりしてください!」

的斗は、徐庶の身体を抱きしめ、何度もその名を叫んだ。しかし、徐庶の目は固く閉じられたままだった。その温かかった身体が、急速に冷たくなっていくのを感じ、的斗の心は深く、暗い絶望の淵へと沈んでいった。

軍師を失い、多くの仲間を傷つけ、領土を奪われた。的斗は、生まれて初めてと言ってもいい、本格的な「敗北」の苦さを味わっていた。全身から力が抜け、握りしめた槍が、まるで鉛のように重く感じられた。

(もう…終わりだ…俺には、何もできなかった…)

一時は、あまりの絶望に、全てを投げ出してしまいたいとすら思った。

しかし、ふと顔を上げると、そこには、ボロボロになりながらも、まだ自分を信じて戦おうとしている兵士たちの姿があった。彼らの瞳には、恐怖と疲労の色は浮かんでいるが、それ以上に、まだ消えぬ希望の光が灯っていた。彼らは、的斗が自分たちを導く真の「龍」であると信じ、その背中をじっと見つめていた。

(俺が…俺がここで折れるわけにはいかない…!先生も、裴元紹も、みんな俺を信じて、命を懸けてくれたんだ…!俺が諦めてどうする!)

的斗は、涙を拭い、再び槍を握りしめた。その瞳には、絶望を乗り越えた、新たな決意の炎が燃え上がっていた。

リーダーとしての真の責任の重さ、そして敗北の痛み。彼は、今、骨身に染みてそれを感じていた。

白龍軍にとって最大の試練。しかし、それは同時に、的斗が真の英雄へと覚醒するための、避けられない道程でもあったのかもしれない。

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