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第4話:乱世の洗礼! 黄巾賊の脅威と民の嘆き

第4話:乱世の洗礼! 黄巾賊の脅威と民の嘆き


常山真定の村を後にして数日。的斗の旅は、想像以上に過酷なものだった。

舗装などされていない道は歩きにくく、夜は粗末な小屋か野宿だ。足の裏は豆だらけになり、夜は虫の音と獣の鳴き声に怯えながら眠りについた。水も食料も底を突きそうになり、飢えと喉の渇きで何度も意識が朦朧とした。食事も干し肉と水筒の水が頼りで、温かいものなど望むべくもない。現代日本の便利な生活に慣れきっていた的斗にとって、それはまさに苦行と言えた。


(これが…三国志の時代のリアルか…ゲームじゃワープとかできたけど、現実はひたすら歩くしかないんだな…)


それでも、的斗の足取りは意外と軽かった。趙雲としての身体は、現代のひ弱な高校生のそれとは比べ物にならないほど強靭で、長距離の移動にもへこたれない。そして何より、彼の胸には洛陽への期待と、この世界で何かを成し遂げたいという、まだ漠然としながらも熱い想いが宿っていた。

最初に立ち寄ったのは、冀州の片隅にある寂れた宿場町だった。活気はなく、道行く人々の表情も暗い。市場を覗けば、穀物の値段は高騰し、鉄製品などはほとんど見当たらない。痩せこけた子供たちが物乞いをしており、その目には生気がなかった。戦乱の気配が、じわじわと人々の生活を蝕んでいるのが分かった。的斗は宿を見つけ、なけなしの銅銭で一晩の宿と食事を確保した。

宿の主人や他の旅人たちの会話に耳を澄ませると、不穏な噂ばかりが聞こえてくる。


「近頃、黄巾の賊がまた勢いを増しているらしいぞ」

「鉅鹿の張角とかいう奴が大賢良師と名乗って、妖術で人を惑わせているとか…」

「太平道…か。今の世に不満を持つ連中が、わらにもすがる思いで集まっているんだろうな」


黄巾の乱。三国志の物語の始まりを告げる、あの大規模な農民反乱だ。ゲームでは序盤のイベントとして、あるいは討伐対象として登場するが、それが今まさに現実で起ころうとしている。


(いよいよか…この乱が、漢王朝を終わらせるきっかけになるんだよな…)


的斗はゴクリと唾を飲んだ。歴史の大きなうねりが、すぐそこまで迫っているのを感じる。

宿場町でわずかな食料と情報を仕入れ、再び洛陽を目指して歩き始めた的斗。街道を少し外れた場所で、信じられない光景を目の当たりにした。

十数人の、頭に黄色い布を巻いた者たちが、数台の荷馬車を囲み、商人らしき数人の男女を脅している。明らかに黄巾の残党による略奪行為だった。


「おら、金目のものを全部出しやがれ!」

「女はこっちへ来い!ひひひ…抵抗する男を容赦なく棍棒で打ち据え、血を流している!」


下卑た笑い声と、商人たちの悲鳴。的斗の足が、思わずその場に縫い付けられた。


(黄巾賊…!マジかよ…どうする、俺…)


助けたい気持ちはある。しかし、相手は多勢。しかも、彼らは人を殺すことも厭わないであろう無法者たちだ。自分はまだ、この身体の力を完全に使いこなせていない。下手に手を出せば、返り討ちに遭うかもしれない。足が鉛のように重く、逃げ出したい衝動に駆られた。

恐怖が的斗の心を支配しようとした、その時。

村で助けた、あの小さな女の子の泣き顔が脳裏をよぎった。あの無垢な少女の笑顔が、目の前の惨劇と重なった時、彼の心に宿った義侠心は、恐怖を打ち破るほどの熱量を帯びた。そして、趙氏の家訓にあった「民草のために槍を振るうべし」という言葉が、心の奥底から響いてくる。


(逃げるのか…? 見て見ぬふりをするのか…? それで、趙雲子龍を名乗れるのか…!?)


的斗の中で、何かが弾けた。


「ちくしょう…やるしかねえだろ!」


手に持っていた槍を握り直し、的斗は茂みから飛び出した。


「そこまでだ、悪党ども!その人たちを解放しろ!」


突然現れた若武者に、黄巾賊たちは一瞬面食らったが、すぐに嘲笑を浮かべた。


「なんだあ? この若造は?英雄気取りか?」「一人で何ができるってんだ、ひょろっこいのが!」


賊の一人が、錆びた剣を抜き放ち、的斗に襲いかかってくる。

的斗は深呼吸し、剣道の試合に臨む時のように精神を集中させた。趙雲としての身体が、戦うことを渇望しているかのように、熱を帯びていくのを感じる。


(いける…!今の俺なら…!)


的斗は槍を構え、鋭い踏み込みと共に賊の剣を弾き飛ばした。続けざまに槍の石突きで鳩尾を強打し、賊を地面に転がす。その動きは、数日前とは比べ物にならないほど洗練され、力強い。


「な、なんだと!?」


仲間が一人やられたのを見て、他の賊たちが色めき立つ。しかし、的斗は怯まない。次々と襲いかかってくる賊たちを、槍一つで捌いていく。時には剣道の体捌きで攻撃をかわし、時には趙雲の身体に染みついた槍術の型が無意識に繰り出される。


だが、ここでも多勢に無勢。次第に押されて、的斗の呼吸が上がってきた。そして、賊の一人の攻撃を避けきれず、とうとう浅くではあるが腕を斬られてしまった。


「ぐっ…!」


痛みに顔を歪める的斗。そして、その隙を逃さず、別の賊が背後から襲いかかろうとする。


(やばい…!)


その時、村のならず者の時と同様、不思議な力が湧いてきた。そして、的斗の瞳の奥から、言い知れぬ金色の光が淡く輝き始め、その光が全身を包み込んだ。それは一瞬のことだったが、的斗自身は、周囲の動きがまるでスローモーションのように感じられた。周囲の賊たちはその不可思議な現象に怯み、動きを止める。的斗は、反射的に身体を捻り、背後の賊の攻撃を槍で受け止め、突き飛ばした。


「何て速さだ!」「殺されるぞ!」


この動きを見た賊たちは敵わぬとみて、逃げていった。


戦闘が終わり、辺りに静けさが戻る。的斗はぜえぜえと息を切らし、自分の手を見つめた。木の枝は折れかかっている。


(また俺が…やったのか…?)


どうしても人を傷つけたことへの嫌悪感はあるが、か弱い商人たちを守れたという確かな達成感を的斗の胸は満たしていた。再び前回と同様に激しい疲労感が全身を襲い、さらに軽い目眩と吐き気、身体の不調を覚えた。身体の奥から、骨が軋むような痛みが走り、熱に浮かされたように視界が歪んだ。まるで全身の血を絞り取られたかのような倦怠感に襲われた。この力は、やはり自分自身の身体に大きな負荷をかける様だった。


助けられた商人たちが駆け寄り、深々と頭を下げた。


「貴殿のおかげで命拾いいたしました!誠に感謝いたします!」


的斗は、辛い身体を隠しつつも、彼らに笑いかけた。


「無事で良かった。もう大丈夫ですよ」


的斗の心に、また一つ新しい自信が生まれたのである。

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