第36話:官渡の戦い、勃発! 歴史の転換点、白龍軍の選択、そして天子の勅使
第36話:官渡の戦い、勃発! 歴史の転換点、白龍軍の選択、そして天子の勅使
白龍軍が甘寧を加え、水軍の強化に乗り出した頃、中原の情勢は風雲急を告げていた。
北の雄・袁紹本初は、長年の宿敵であった公孫瓚を滅ぼし、河北四州を完全に掌握。その勢いは天を衝くばかりで、ついに矛先を南に向け、許都に献帝を擁して急速に勢力を拡大する曹操孟徳との全面対決を決意したのだ。
「国賊・曹操を討ち、漢室の安寧を取り戻す!」
袁紹は、数十万とも言われる大軍を率い、黄河を渡り官渡の地に布陣した。迎え撃つ曹操軍は、兵力では袁紹軍に大きく劣るものの、精鋭揃いで士気も高く、官渡の地に堅固な防衛線を築いていた。曹操自身、兵力差を補うため、奇策を常に練り、状況に応じた柔軟な対応をするだろう。
中原の覇権を賭けた、天下分け目の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
その報は、陳留にいる的斗たちの元にもすぐに届けられた。
「ついに始まったか…官渡の戦い…!」
的斗は、広げられた戦況図を睨みながら呟いた。脳裏には、ゲームで何度もプレイした、この歴史的な戦いの様々な展開が蘇る。
(袁紹軍は、顔良、文醜といった猛将を擁し、兵力も圧倒的。軍師も田豊、沮授、許攸と粒揃いだ…だが、袁紹自身の器量と、内部の不和が問題だったはず…)
(一方の曹操軍は、夏侯惇、夏侯淵、曹仁、曹洪といった一族の将が脇を固め、荀彧、荀攸、郭嘉、程昱といった最高の頭脳が集まっている。兵力は劣るが、結束は固い…)
どちらに与するべきか、あるいは静観すべきか。白龍軍の選択は、この戦いの行方、そして自分たちの未来をも左右する、極めて重要なものとなる。
早速、軍議が開かれた。白龍軍の主要な将帥たちが顔を揃える。卓を囲む将兵たちの声が、熱気で充満した部屋に響き渡り、火花が散るかのような議論が交わされた。白龍軍の行く末、そして彼らが掲げる「仁義」の旗の重さが、議論の焦点だった。
徐庶が、冷静に口火を切った。
「袁紹は兵力において曹操を圧倒しておりますが、その内情は必ずしも一枚岩ではございません。名門の驕りもあり、優柔不断な面も見受けられます。特に、有能な軍師である許攸は袁紹に冷遇されていると聞きます。その短慮は、いずれ自滅を招くでしょう。一方、曹操は兵力こそ劣りますが、その結束は固く、奇策に長けた恐るべき相手。しかし、今、我々が袁紹に加勢し曹操を叩けば、袁紹の力を削ぎつつ、我らが中原で主導権を握る絶好の機会となり得ましょう」
徐庶の意見は、積極的な介入による勢力拡大を目指すものだった。
これに対し、反論もあった。
「徐庶殿のお考えも一理ござる。しかし、袁紹という男、名門のプライドばかり高く、人を信用することを知らぬ。仮に我らが加勢し勝利を得たとしても、その後に我々をどう扱うか…甚だ疑問です。曹操は確かに奸雄なれど、今はまだ我々と事を構えるだけの余裕はないはず。ここは両軍が疲弊し、共倒れになるのを待つのも一つの手かと存じます」
より現実的で、漁夫の利を狙う意見もあった。
太史慈や徐盛、そして甘寧といった武将たちは、早期の決戦を望む気持ちは強いものの、どちらに味方すべきか、あるいは静観すべきかで、意見がまとまらない。
的斗は、仲間たちの意見を黙って聞いていたが、やがて静かに口を開いた。彼の瞳には、深い思慮と、揺るぎない決意の光が宿っていた。その光は、王允から託された「天命」、そして貂蝉と共に誓った「平和な世」への確信から来るものだった。
「皆の意見、よく分かった。どちらも道理はある。しかし、俺が選択すべきは、白龍軍が掲げる『仁義』の道だ。そして、この乱世を一日も早く終わらせるための最善策だ」
その言葉には、揺るぎない決意が込められていた。
「俺たちが掲げる白龍の旗は、仁義の旗だ。曹操の徐州虐殺のような非道を、これ以上見過ごすわけにはいかない。そして、袁紹が民を救う大義を掲げるならば、まずは彼に手を貸すべきだ。これは、目先の勝敗だけでなく、この天下の未来を左右する選択だ。俺は、そう信じている」
的斗の言葉は、単なる感情論ではなかった。それは、リーダーとして、白龍軍の理念を守り抜き、天下泰平の道を歩むという、強い覚悟の表れだった。
その覚悟は、慎重派だった廖化や徐庶の心をも動かした。
「…趙子龍様のそのお覚悟、しかと受け止めました。貴殿のその決断こそが、真の『王の道』。ならば、我々も全力で作戦を練り、必ずや救援を成功させましょう。必ず、貴殿の『義』を天下に示してみせましょう!」
徐庶がそう言うと、他の者たちも「御意!」と力強く応えた。軍議室に、再び強い一体感が生まれた。
軍議が終わり、その夜。月明かりの下で一人、庭を眺めている的斗の元に、そっと貂蝉が寄り添ってきた。
「子龍様…お悩みのご様子…」
「ああ、貂蝉さん…少しな。どちらにつくのが、我々にとって、そして民にとって最善なのか…」
貂蝉は、的斗の大きな手に自分の手を重ねた。その指先は、的斗の不安な心をじんわりと温めた。
「戦のことは、私には分かりません。ですが、子龍様が信じる『義』の道をお進みください。そして…どうか、これ以上、民を苦しめることのない戦い方を選んでくださいませ…それが、私の心からのお願いです」
その言葉は、的斗の心に深く染み渡った。そうだ、俺が目指すのは、ただの勝利じゃない。民のための平和な世の中だ。そのためには、何が最善なのか…。貂蝉の言葉が、的斗の揺らいでいた心を再び強く固めた。
的斗の心が、徐々に一つの方向に固まりつつあった、まさにその時だった。
「申し上げます!許都より、天子様の勅使が参られました!」
伝令兵の慌ただしい声が、静寂を破った。
的斗たちの前に現れた勅使は、曹操の腹心の一人であり、その威厳ある態度で、厳かに勅書を読み上げた。
「天子、詔して曰く。国賊・袁紹本初、朝廷に弓を引き、天下を乱さんとするは明白なり。よって、白龍将軍・趙子龍に勅命を下す。速やかに兵を率い、逆賊・袁紹を討ち、漢室の安寧を回復せよ、と」
(なっ…!曹操め、天子様の名を利用してきやがったか…!これは、まさに『挟み撃ち』の罠だ…!)
的斗は、愕然とした。これは、明らかに曹操の策略だ。袁紹を討てば、曹操の思う壺。しかし、勅命に背けば、白龍軍こそが朝敵と見なされかねない。
「大義名分」と「実利」、「漢室への忠誠」と「曹操への不信」。
的斗は、かつてないほど困難なジレンマに立たされた。その決断は、白龍軍の、そして中原の未来を大きく左右することになるだろう。
冷たい汗が、的斗の背中を伝った。




