第31話:江東の猛虎、徐盛推参! 白龍軍、さらに強固に、水軍の萌芽と的斗の器
第31話:江東の猛虎、徐盛推参! 白龍軍、さらに強固に、水軍の萌芽と的斗の器
太史慈という希代の弓の名手を加え、白龍軍の士気はますます高まっていた。北海での勝利は、彼らの名声をさらに中原に広める結果となり、的斗こと趙雲子龍の名は、新たな時代の英雄として、人々の口に上るようになっていた。
そんなある日、白龍軍が新たに確保した拠点(陳留近郊の小さな城)に、一人の武将が少数の供回りを連れて訪ねてきた。年の頃は三十前後、日に焼けた精悍な顔つきで、飾り気のない実直そうな男だった。その鎧は質素だが、手入れが行き届いており、その姿からは堅牢な「盾」を思わせるような、揺るぎない気配が漂っていた。
「私は、揚州曲阿の徐盛、字を文嚮と申す者。近頃、貴軍に仕官された太史慈殿とは旧知の間柄。趙子龍将軍の義名と、太史慈殿がそこまで惚れ込まれたというそのお器量を、この目で確かめたく参上いたしました」
徐盛と名乗った男は、多くを語らず、ただ真っ直ぐに的斗を見据えた。その瞳には、確かな自信と、冷静な観察眼が宿っている。
的斗は最初、そのあまりにも地味な風貌と朴訥な口調に、どこか拍子抜けしたような印象を抱いた。(ゲームではもっと目立たないキャラだったよな…)しかし、隣にいた徐庶は、徐盛の纏う落ち着いた雰囲気と、その言葉の端々に滲み出る実直さから、彼がただ者ではないことを見抜いていた。
「これは徐盛殿、遠路ようこそお越しくださいました。まずは旅の疲れを癒してください。白龍軍は、貴殿のような才ある方を常に歓迎いたします」
的斗は、徐庶の目配せを受け、丁重に徐盛を迎え入れた。
数日後、的斗は徐盛に、白龍軍の陣営や訓練の様子を案内した。徐盛は、黙ってそれらを見て回っていたが、やがて、的斗が新たに築こうとしている拠点の防御施設の前で足を止めた。
「趙子龍殿、失礼ながら申し上げます。この拠点の守り、些か心許ないように見受けられまする」
徐盛は、率直にそう指摘した。彼の目は、まるで城壁のわずかな亀裂まで見通すかのように、的確に弱点を見抜いていた。
「と、申されますと?」
「はい。地形の利が十分に活かされておらず、敵の侵入経路も複数考えられます。特に、南側の丘陵地帯からの攻撃には脆弱であり、このままでは、寡兵の敵にも容易に突破されるやもしませぬ」
的斗は、徐盛の的確な指摘に内心驚いた。自分では気づかなかった弱点を、彼は一目で見抜いたのだ。
「もしお許しいただけるならば、この徐盛が、この砦の改修をお手伝いいたしましょう。三日のうちに、今よりも遥かに堅固なものにしてみせます」
的斗は、徐盛の自信に満ちた言葉に興味を抱き、彼に改修の指揮を任せてみることにした。
それからの徐盛の働きは、目覚ましいものだった。彼は自ら図面を引き、兵士たちに的確な指示を与え、地形を巧みに利用した罠や障害物を配置していく。その指揮ぶりは無駄がなく、兵士たちの役割分担も的確で,みるみるうちに砦の防御力は向上していった。彼は兵士たちと共に泥まみれになりながら、細部にまでこだわり、まるで生き物のように砦を強化していくその姿は、的斗に、この男が真の職人であると確信させた。
そして三日後、そこには以前とは比べ物にならないほど堅牢で、機能的な砦が完成していた。的斗は、そのあまりの変化に、思わず息をのんだ。
「素晴らしい…!徐盛殿、貴殿の築城術、まさに神業だ!」
的斗は、心からの称賛を徐盛に送った。太史慈もまた、「さすがは文嚮殿。その手腕、相変わらず見事なものよ。江東では、彼に並ぶ築城の名手はおらぬ」と旧友の活躍を喜んだ。
徐盛は、照れたように頭を掻いた。
「いえ…これしきのことは…」
その夜、的斗は徐盛を自室に招き、改めて礼を言うと共に、彼の見識を問うた。
「徐盛殿、貴殿は揚州のご出身とか。長江流域の地理にもお詳しいのでは?」
「はい。幼き頃より、長江の岸辺で育ちましたゆえ、水賊の動きや水運の重要性は、身をもって承知しております。特に、呉の地で水軍の訓練を積んでまいりました」
徐盛は、そこで熱っぽく語り始めた。彼の瞳には、長江への深い愛情と、水軍の重要性を説く情熱が宿っていた。
「趙子龍殿。天下を制するには、中原の陸路を抑えるだけでなく、この長江の水運を掌握することが不可欠にございます。水運は物資輸送の大動脈であり、水軍は敵の背後を突く奇襲の要。もし強力な水軍を擁することができれば、それは我らの大きな力となりましょう。逆に、これを敵に握られれば、我々は常に側面からの脅威に晒されることになります。将来、曹操や孫権といった勢力と戦う上で、水軍は避けて通れません」
徐盛の言葉には、確かなデータと長年の経験に裏打ちされた説得力があった。
的斗は、その言葉の重要性を即座に理解した。
(確かにそうだ…ゲームでも、水軍の強い勢力は厄介だった…!特に、これから曹操や孫権と渡り合うためには、強力な水軍は必須だ!現代の戦争でも、制海権や制空権の重要性は変わらないしな…!)
「徐盛殿、貴重なご意見、感謝する。その通りだ。我々も、強力な水軍を創設しなければならない!」
的斗は、決然と言った。
「つきましては、徐盛殿。貴殿に、その水軍創設の一翼を担っていただきたい。貴殿の知識と経験は、必ずや白龍軍の大きな力となるだろう。是非とも、この趙雲子龍の助けとなってくれ!」
徐庶もまた、的斗の言葉に深く頷いた。
「徐盛殿の申される通り。水軍の強化は、今後の我々の戦略において死活問題となりましょう。是非とも、お力をお貸しいただきたい。貴殿の堅実な才は、白龍軍に不可欠です」
徐盛は、的斗と徐庶の真剣な眼差しを受け、しばし黙考した後、力強く頷いた。
「…分かりました。この徐文嚮、趙子龍将軍のそのお器量と、国の未来を見据えるそのお考えに感服いたしました。そして、この徐盛の才を正しく評価してくださることに感謝いたします。微力ながら、白龍軍の水軍創設のため、この身命を賭して尽力させていただきます!」
こうして、また一人、頼もしい仲間が白龍軍に加わった。徐盛の加入は、白龍軍の守りを固めるだけでなく、将来の長江進出への大きな布石となるのだった。
太史慈の弓、徐盛の盾。そして、的斗の槍。白龍軍は、着実にその陣容を整え、中原の覇権へと歩みを進めていく。