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第3話:ゲーマー魂、起動! 目指すは洛陽、そして貂蝉!

第3話:ゲーマー魂、起動! 目指すは洛陽、そして貂蝉!


ならず者を追い払い、少女を守ったことで、的斗は自分が「趙雲子龍」であり、この世界が紛れもない現実であることを、肌で、そして心で理解した。長老や村人たちからの称賛の言葉は、どこかむず痒く、そして重たいものとして的斗の胸にのしかかる。


(趙雲子龍…か。なんか、とんでもない名前を背負っちまったな…)


助けた少女に改めて礼を言われ、少し照れながらも、的斗は自分の部屋へと戻った。


部屋に戻り、一人になると、再び混乱と興奮が押し寄せてくる。ランプの灯火が揺れ、壁に映る的斗の影が大きく揺れ動く。


(本当に、俺は三国志の時代に来たんだ。しかも、あの趙雲に…)


机に突っ伏し、頭を抱える。脳裏には、先ほどまでのリアルな戦闘の感覚と、ゲームや小説で読み漁った三国志の知識が、ごちゃ混ぜになって渦巻いていた。

黄巾の乱、董卓の台頭、群雄割拠、そして三国鼎立。その中で趙雲は劉備に仕え、数々の武功を立てるが、最終的に蜀は滅びる。


(このまま歴史通りに進んだら、俺も…いや、趙雲も、結局は報われないのか? それは嫌だ!絶対に嫌だ!)


的斗はガバッと顔を上げた。その瞳には、先ほどまでの混乱とは違う、強い光が宿り始めていた。


(待てよ…俺には、未来の知識がある。それに、この趙雲の身体能力…これを組み合わせれば、歴史を変えられるんじゃないか? 劉備に仕えるだけが趙雲の道じゃない。もっと上手く立ち回って、もっと大きなことができるはずだ!)


ゲーマーとしての血が騒ぎ出す。困難な状況であればあるほど、それを攻略したいという欲求。そして、あわよくば成り上がりたいという、若者らしい野望。


「呂布を倒して、貂蝉をゲットして…ついでに曹操も蹴散らして、俺が天下統一! よっしゃー!」


思わずガッツポーズを決めた的斗だったが、すぐにその興奮は現実に引き戻された。


(いや待てよ…ゲームはゲームだ。これは現実。人を殺すって、どういうことだ?血が流れて、命が失われて…俺、本当にできるのか?人を殺したり、騙したり、そういうダーティなことも平気でやらなきゃいけないのか…?俺に、そんな覚悟があるのか…?)


剣道は武道だが、それはあくまで競技だ。人を傷つけること、ましてや命を奪うことなど、想像もしたことがなかった。先ほどのならず者との一件も、結果的に追い払えたとはいえ、一歩間違えば自分がやられていたかもしれないし、相手に大怪我をさせていたかもしれない。その恐怖と罪悪感は、まだ的斗の心に重くのしかかっていた。

しばらくの間、的斗は部屋の中をぐるぐると歩き回りながら考え込んだ。


(どうすればいいんだ…? このまま村で大人しく暮らすか? でも、すぐに黄巾の乱が起きて、この村だって無事ではないかもしれない… それに、この身体に宿る、時折感じる奇妙な力の感覚…あれは一体…? 兄の趙景が、以前、父の形見の竹簡について何か意味深なことを言っていたような気もするが…)

的斗は、ふと部屋の隅に目をやった。そこには、埃をかぶった古びた竹簡の束が置かれていた。それは、趙家の長男に代々受け継がれるという、父の形見だった。幼い頃、兄の趙景から「これは我ら趙家の歴史と、そして未来を記した大切なものだ。お前もいずれ、その意味を知る時が来るだろう」と、どこか厳粛な面持ちで教えられた記憶がある。 これまで、その難解な文字と古めかしい内容に興味を持つことはなかったが、この世界に転生し、自らの身体に尋常ならざる変化を感じている今、その竹簡が妙に気になった。

埃を払い、おそるおそる開いてみる。それは、趙氏の家系にまつわる記録や家訓のようなものらしかった。

難解な文字で書かれており、全てを理解することはできない。しかし、この「趙雲」の身体に宿る知識が助けとなるのか、以前よりもいくらか内容が頭に入ってくる。 そして、その中に、的斗の心を強く捉えるいくつかの言葉があった。

「…乱世において、民草のために槍を振るうべし…」

「…義の道を踏み外し、私欲に溺れることなかれ…」

「…常山趙家に伝わる龍の血脈を受け継ぎし者、その内なる龍の声に耳を澄ませ、天命を悟り、龍のように天に昇るべし…」

(龍の血脈…天命…か。兄さんが言っていたのは、このことだったのか…? なんだか、ゲームの隠しイベントみたいだな。まさか、俺の身体能力の異常さ、あの戦いの時の感覚…これと関係があるのか?)

的斗は、この言葉が単なる言い伝えではないような、不思議な重みを感じた。身体の奥底から、まるでその言葉に呼応するかのように、微かな熱が湧き上がるのを感じた。それは、あの槍を握った時に感じた、言い知れぬ力と酷似していた。自分がこの時代に、この趙雲という身体で現れたことにも、何か特別な意味があるのかもしれない。そう思うと、先ほどまでの個人的な野望とは別に、もっと大きな目的意識のようなものが、心の奥底から湧き上がってくるのを感じた。


「よし、決めた!」


的斗はパンと両手を打ち合わせ、立ち上がった。


「考えていても仕方ない!まずは情報を集めなきゃ始まらない。今の時代は…確か、黄巾の乱がもうすぐのはずだ。それに、洛陽に行けば、もっと色々なことが分かるかもしれない。そうだ、洛陽といえば…貂蝉!」


再びミーハーな動機が顔を出すが、今度の的斗の瞳には、先ほどまでの単なる興奮とは違う、覚悟の色が宿っていた。


(貂蝉に会ってみたい。そして、この目で、この世界がどうなっているのかを確かめるんだ。それから、俺が何をすべきか、どう生きるべきか、改めて考えよう)


旅立ちの決意を固めた的斗は、趙雲の唯一の肉親である年の離れた兄、趙景ちょうけいに、武者修行の旅に出たいと告げた。兄の趙景は、弟の顔つきが変わったことに気づいた。それは、何かを捨て、何かを決意したような、以前とは全く異なる精悍さだった。少しの寂しさ、そしてそれ以上の期待を込めて、快く送り出すことを約束してくれた。


「子龍、くれぐれも身体には気をつけるのだぞ。そして、趙家の名に恥じぬ立派な男になって帰ってこい」


「うん、趙景兄さん。必ず!(兄さん、俺はもう、ただの的斗じゃない。この名前と、この力で、必ずこの乱世を変えてみせる!)」


数日後、的斗は粗末ながらも槍と旅の支度を整え、生まれ育った常山郡真定の村を後にした。見送りに来た村人たちや、助けた少女の「お兄ちゃん、元気でね!」という声に手を振りながら、的斗は東へと向かう。その少女の笑顔が、的斗の「仁義」の道への覚悟を再確認させるかのようだった。

その胸には、まだ漠然としながらも、この乱世で何かを成し遂げたいという熱い想いと、これから始まる未知の冒険への期待、そして一抹の不安が渦巻いていた。


(待ってろよ、三国志の世界! この俺、山栗的斗が、趙雲子龍として、でっかい的を射抜いてやるぜ!)


こうして、現代日本のどこにでもいる普通の高校生だった山栗的斗は、三国志の英雄・趙雲としての、波乱に満ちた新たな人生の第一歩を踏み出したのであった。

その先に待ち受ける運命など、彼自身、まだ知る由もなかった。

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