第28話:呂布旧領争奪戦! 曹操との最初の外交交渉、そして許都の使者
第28話:呂布旧領争奪戦! 曹操との最初の外交交渉、そして許都の使者
呂布を討ち、陳留を制圧した白龍軍は、民衆から熱狂的な歓迎を受けた。長きにわたる董卓、そして呂布の圧政に苦しめられてきた彼らにとって、的斗こと趙雲子龍は、まさに解放者であり、希望の星だった。
的斗は、まず軍律を厳しくし、兵士たちによる略奪行為や民衆への暴行を固く禁じた。そして、徐庶の助言のもと、倉を開いて食料を配給し、治安の回復に努めた。彼は現代の災害支援のノウハウを思い出し、避難所の設営、水の確保、衛生管理にまで気を配った。貂蝉もまた、救護所を設け、負傷者の看護や子供たちの世話に奔走した。自らも城内を巡察し、民の声に耳を傾け、彼らの苦しみを少しでも和らげようと努めた。
「趙雲様こそ、真の仁君だ!」
「白龍軍が来てくれて、本当に良かった!」
民衆の間からは、そんな声が自然と上がり始めていた。的斗が民衆の前に立つ時、彼から発せられる「龍の威光」は、威圧ではなく、不思議な安堵感と信頼感を人々に与え、その心を深く掴んだ。的斗は、この陳留の地を、自らの理想とする「民のための国づくり」の最初の足掛かりにしようと決意を新たにした。
しかし、そんな束の間の平穏も長くは続かなかった。
呂布の死は、中原に新たな力の空白を生み出し、それを狙う者が現れるのは必然だった。そして、その筆頭こそが、兗州を拠点とし、献帝を許都に擁して急速に勢力を拡大しつつあった曹操孟徳だった。彼は、漢室復興という大義名分を掲げ、各地の有能な人材を積極的に登用し、その勢力は日に日に強大となっていた。
陳留制圧から数日後、曹操からの使者が、白龍軍の陣営を訪れた。使者としてやってきたのは、曹操の腹心の一人であり、王佐の才と謳われる荀彧その人だった。その穏やかな物腰の中にも、鋭い知性と確固たる意志が感じられる人物だ。的斗は、荀彧の瞳の奥に、曹操の冷徹な知略と、漢室を己の掌中に収めようとする野心を感じ取った。
「趙子龍殿におかれましては、国賊・呂布を討伐され、その武名は天下に轟いております。我が主、曹操様も、将軍のその功績を高く賞賛しておられます」
荀彧は、丁寧な口上と共に、曹操からの書状を的斗に手渡した。
書状には、呂布討伐の功を称える言葉と共に、こう記されていた。
「天子の名において、趙将軍の陳留周辺の統治を一時的に認める。しかし、呂布が不当に占拠していた兗州・豫州の大部分は、速やかに朝廷にご返還いただきたい。これこそが、漢室の安寧を願う者の務めであろう」
(天子の名を盾にか…さすが曹操、抜け目がないな…)
的斗は内心舌を巻いた。(これは、俺がこの地に根を張るのを許さないという、曹操からの明確な警告だ。同時に、俺が彼に逆らえば『朝敵』という汚名を着せられることになる。巧妙な罠だ…!)これは、明らかに領土分割を迫るものであり、拒否すれば「朝敵」と見なされかねない、巧みな恫喝でもあった。
軍議の席で、徐庶は的斗に進言した。
「曹操の狙いは、我々の力を測り、可能であれば呂布の旧領を労せずして手に入れようというものでしょう。しかし、今の我々に、曹操と全面戦争をするだけの力はございません。かといって、彼の要求を全て呑めば、我々は陳留という一点に封じ込められてしまいます。我々がここで『朝敵』となれば、民心も離れるでしょう。我々が掲げる『仁義』の旗に、傷がつくことになります」
「では、どうすれば…?」的斗が尋ねる。
「ここは、天子への忠誠を示しつつも、民の安寧を最優先するという姿勢を貫き、時間を稼ぐのが上策かと。具体的な領土の線引きについては、後日改めて協議するということで、まずは相手の出方を見ましょう」
的斗は、徐庶の策に頷いた。
再び荀彧と対峙した的斗は、徐庶の助言を胸に、堂々とした態度で口を開いた。的斗は、現代社会で学んだ「交渉術」と、趙雲としての「威厳」を巧みに使い分け、荀彧の真意を探りながら、決して譲歩しすぎない姿勢を貫いた。
「荀彧殿、曹操殿のお心遣い、痛み入ります。我ら白龍軍も、天子を尊び、漢室の安寧を願う心に一片の曇りもございません。呂布討伐も、全てはその大義のため。しかし、長きにわたる戦乱で疲弊したこの地の民を、今すぐ新たな混乱に巻き込むことは本意ではございません」
「ほう…と申されますと?」荀彧が、僅かに眉を動かす。
「民が真に安堵し、この地の秩序が回復するまでは、我々が責任を持って統治させていただきたい。民意を無視した統治が、いかに脆いものであるかは、董卓や呂布の末路が示しております。領土の件については、民の生活が安定し次第、改めて朝廷と協議させていただきたく存じます」
的斗の言葉には、若者らしい理想論も含まれていたが、同時に、民を思う真摯な気持ちと、決して屈しないという強い意志が込められていた。荀彧は、目の前の若き将軍が、噂以上の器量と、そして侮れない何かを持っていることを感じ取った。
「…趙将軍のお考え、確かに承りました。この荀文若、必ずや曹操様に申し伝えます。しかし、あまり朝廷をお待たせすることのないよう、ご賢察いただきたい」
荀彧は、そう言い残し、意味ありげな一瞥を的斗に残して去っていった。その一瞥には、趙雲という若き将軍への警戒と、その底知れぬ可能性への探求心、そして「いずれ雌雄を決する時が来るだろう」という、曹操の思惑が込められているように的斗には感じられた。
交渉は、完全な決裂を避ける形で一旦収束した。的斗は、ひとまず時間稼ぎに成功し、陳留周辺の地盤を固める猶予を得た。しかし、曹操という巨大な影が、常に自分たちを見据えていることを、改めて痛感させられた。
(曹操…いずれ必ず、雌雄を決する時が来るだろう…その時までに、俺たちはもっと強くならなければ…)
荀彧が去った後、的斗は徐庶と共に、今後の戦略について深く語り合った。中原の情勢は、呂布の死によって新たな段階に入り、白龍軍の次なる一手は、天下の趨勢を左右する重要な意味を持つことになるだろう。
的斗の外交デビューは、多少ほろ苦いものではあったが、同時に、彼をリーダーとしてさらに成長させる貴重な経験となったのだった。




