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第27話:飛将墜つ! 白龍、中原に名を轟かす

第27話:飛将墜つ! 白龍、中原に名を轟かす


吹き荒れる風が、戦場の土埃を巻き上げる。両軍の兵士たちが見守る中、趙雲子龍と呂布奉先、二人の英雄が一騎打ちの火蓋を切った。

最初に動いたのは呂布だった。赤兎馬が雷光のように駆け、方天画戟が唸りを上げて的斗に襲いかかる。突き、薙ぎ、払い、刺突――その変幻自在な攻撃は、まさに神業。風を切り裂くような音が耳元を掠め、的斗の全身は、刃の嵐の中にいるかのように翻弄された。的斗は槍を振るって必死に応戦するが、呂布の圧倒的な武力と、赤兎馬の驚異的な機動力の前に、徐々に防戦一方へと追い込まれていく。


「どうした、趙子龍!その程度か!都での威勢はどうした!」


呂布の嘲笑が、的斗の耳に突き刺さる。的斗の鎧は呂布の攻撃で裂け、頬には赤い筋が走り、肩からは血が滲み出していた。何度も死の淵を覗き込み、意識が遠のきそうになる。全身の筋肉は鉛のように重く、視界は霞んでいた。


(強い…!これが、天下無双の呂布…!だが、ここで怯むわけにはいかない…!これまでの修練を、無駄にはしない!)


的斗は、徐庶との修練で培った「龍の気」の制御を必死に試みる。呼吸を整え、丹田に意識を集中し、内なる力を槍へと注ぎ込もうとする。しかし、呂布の嵐のような猛攻は、的斗にわずかな隙すら与えない。

追い詰められ、意識が遠のきそうになったその時。的斗の脳裏に、これまでの戦いの記憶が鮮明に蘇った。王允の最期の言葉「この国の民を…頼んだぞ…」。貂蝉の優しい微笑み。周倉たちの信頼に満ちた眼差し。守るべき者たちの顔が、次々と浮かび上がる。全ての想いが、彼の魂を燃え上がらせた。


(そうだ…あの時の感覚…!感情だけに任せるのではない…張遼との戦いで徐庶先生に教わったように、もっと深く、もっと静かに、内なる『気』を研ぎ澄まし、相手の動きを、そしてその先の未来を読み取るんだ…! この呂布という壁を越えるには、それしかない!)

(俺が…負けられない…!王允様、徐庶先生、貂蝉、周倉、廖化、裴元紹…そして、俺を信じてくれる全ての民のために…!この世界の未来を…俺が守るんだ!この乱世を、完全に終わらせるんだ!)

その想いが、的斗の内なる龍を、真の意味で呼び覚ました。それは、感情の爆発による暴走ではない。極限の集中と、仲間たちへの揺るぎない信頼、そして民を救うという確固たる意志が、彼の内に眠る「龍の血脈」の力を、新たな次元へと昇華させたのだ。

カッ!

的斗の瞳が、一点の曇りもない純粋な金色に輝きを放った。的斗の瞳の奥で、まるで宇宙の星々が瞬くかのような、複雑で精緻な金色の紋様がゆっくりと回転を始めた。その瞬間、彼の五感は極限まで研ぎ澄まされ、時間の流れそのものが引き伸ばされたかのように感じられた。 呂布の全ての筋肉の動き、呼吸のわずかな乱れ、汗の一粒、そして方天画戟の次に繰り出されるであろう攻撃の軌道、さらにはその先の幾通りもの行動パターンまでもが、まるで水面に映る月のように、鮮明かつ静謐に彼の脳裏に流れ込んだ。それは、単なる眼ではなく、因果律の糸を手繰り寄せるかのような、完全なる洞察の境地だった。 彼が纏うオーラは、以前のような荒々しいものではなく、まるで磨き上げられた鏡のように澄み切り、しかしその奥には底知れない深淵を感じさせる神聖な威光を放っていた。全身に巡る「龍の気」は、もはや奔流ではなく、彼の意志通りに淀みなく流れ、身体と槍が完全に一体となったかのような、完璧な調和を生み出していた。

「なっ…!貴様のその眼…そしてその気配…以前とはまるで違う…一体何が…!?」

呂布は、的斗の尋常ならざる変化に、初めて本能的な恐怖を覚えた。彼の愛馬である赤兎馬も、その神聖さすら感じさせる覇気に完全に気圧され、その場に立ちすくむ。周囲の兵士たちも、まるで不可視の力に押さえつけられたかのように動きを止め、その場にへたり込む者も現れた。それは、まさに「龍の眼」の完全覚醒――的斗が、自らの意志で「龍の力」の一端を完全に掌握した瞬間だった。

的斗は、覚醒した「龍の眼」によって、呂布の全ての動き、そして次に繰り出すであろう攻撃の軌道、さらにはその先の行動までもが、まるでたなごころを指すように見えた。彼は冷静に、そして最小限かつ最短の動きで呂布の渾身の一撃をかわし、カウンターで槍を繰り出す。その槍は、これまでのどの攻撃よりも鋭く、そして凝縮された「龍の気」によって、岩をも砕くほどの重さと破壊力を秘めていた。

「ぐっ…!馬鹿な…この俺の…動きが…読まれているというのか!?」

呂布は信じられないという表情で、自らの額を掠める槍の穂先を見つめた。その一撃は、致命傷とはならなかったが、呂布の兜を弾き飛ばし、彼の顔に浅い傷を負わせた。そして何よりも、彼の武人としての絶対的な自信を、根底から揺るがす一撃だった。その一撃は、的斗の槍が、もはや呂布の武技を超越し、その魂の最も深い場所を打ち砕いたかのようだった。

的斗は、その隙を逃さず、間髪入れずに第二撃を放つ。それは、呂布の構えのわずかな隙間を縫って、その心臓を正確に貫く一撃だった。槍の穂先が、呂布の鎧を粉々に砕き、彼の心臓を正確に貫いた。その一撃は、まるで天罰を下すかのように、寸分の狂いもなかった。

「ぐ…ふ…こ…れが…龍の…力…か…」

呂布は、信じられないという表情で自分の胸に刺さった槍を見つめ、最後に的斗の金色の瞳を焼き付けながら、やがてその巨体をごろりと地面に崩れ落とした。

天下無双と謳われた飛将呂布の、あまりにもあっけない最期だった。

戦場には、しばしの静寂が訪れた。的斗の瞳の金色の輝きが、ゆっくりと常の色に戻っていく。そして、やがて白龍軍の将兵たちから、地鳴りのような雄叫びが上がった。

「「「趙雲様、万歳!趙雲様、万歳!!」」」

的斗は、荒い息をつきながら、槍を杖代わりにその場に立ち尽くしていた。身体には確かに深い疲労感が残っているが、董卓や張遼と戦った時のように、意識が朦朧としたり、肉体が引き裂かれるような激しい苦痛は感じなかった。それは、「龍の眼」という特定の力を極限まで研ぎ澄まし、気を効率的に運用することで、その代償を最小限に抑えることができた証だったのかもしれない。しかし、彼が「龍の咆哮」のような他の力を同様に制御できるようになったわけでは決してなかった。

(俺が…やったんだ…呂布を…そして、この力…少しだけ、制御できたのかもしれない…でも、まだだ…まだ完全に使いこなせているわけじゃない…)


的斗の心は、勝利の興奮と、長年の宿敵を打ち破った達成感、そしてこの世から一つの巨悪が消え去った安堵感で満たされていた。

呂布の死は、中原全土に瞬く間に広まり、趙雲子龍の名は、真の天下無双の英雄として、中原に轟き渡った。彼の武名は、曹操や袁紹といった諸侯の耳にも届き、彼らの警戒心を最大限に高めることになった。

白龍軍の、圧倒的な勝利だった。しかし、的斗の戦いは、まだ終わらない。彼の目には、次なる目標がすでに捉えられていた。

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