第22話:軍備拡張と猛訓練! 徐庶の軍略教室、的斗の知恵、そして龍の気の修練
第22話:軍備拡張と猛訓練! 徐庶の軍略教室、的斗の知恵、そして龍の気の修練
荊州南部の片隅で産声を上げた白龍軍。その構成員は、戦乱を逃れてきた流民や、行き場を失った元黄巾の兵士たちが中心だった。武器も防具も不足しており、訓練もバラバラ。彼らは生きるために必死で、個々の戦闘能力は低くなかったかもしれないが、組織的な軍隊としての体を成してはいなかった。彼らは単に、号令をかけてもバラバラに動くような有様だった。
この烏合の衆を、いかにして精強な軍隊へと鍛え上げるか。それが、白龍軍を率いる趙雲子龍こと的斗と、軍師・徐庶に課せられた最初の大きな課題だった。
「皆の者、よく聞け!戦とは、ただ闇雲に武器を振り回すだけでは勝てぬ!兵法を学び、陣形を理解し、仲間と連携することこそが肝要である!」
徐庶は、広場に集められた兵士たちを前に、力強く語りかけた。彼は、元々は学究の徒であったが、その内に秘めた情熱と、的確で分かりやすい言葉選びで、徐々に兵士たちの心を引き込んでいった。
最初は「兵法だあ?難しいことは分からねえ」「こんなことより、飯を食わせろ」とぼやいていた兵士たちも、徐庶は彼らの不満を正面から受け止め、彼らが最も理解できる「生きて帰るための知恵」として、兵法を説いた。彼の言葉は、机上の空論ではなく、兵士たちの命に直結する真理として響き、彼らの虚ろだった瞳に、徐々に真剣な光を灯していった。
的斗もまた、兵士たちと共に徐庶の講義に熱心に参加した。彼はただ聞くだけでなく、時折、現代の組織論や効率化の概念を、この時代の言葉に置き換えようと苦心しながら、徐庶に問いかけることがあった。
「先生、これからの軍の編成や兵站の管理についてですが、もっとこう…**物事を『計画し、実行し、その結果を評価し、そして改善を繰り返す』という一連の流れを重視するのです。**この考え方は、どのようにすればこの時代の戦に活かせるでしょうか?例えば、兵糧の消費量、兵士の練度、情報の伝達速度などを、数値や記録といった『客観的な指標』に基づいて捉え、管理していくことはできないでしょうか?」
徐庶は、的斗の言葉に目を見開いた。その発想は、これまでの兵法書や先人の教えの中にも見られない、根本的な視点の違いを示唆していたからだ。まるで、何百年も先の世の治世や軍略を見聞してきたかのような、異質で、しかし抗いがたい魅力を持つ言葉だった。 徐庶は、的斗の言葉の奥にある本質を即座に見抜いた。その言葉は、まさに千年も先の未来から紡がれたかのように斬新であり、徐庶の知的な好奇心を激しく刺激した。
「ほう…子龍殿の言う『計画、実行、評価、改善の繰り返し』。そして『客観的な指標による管理』…そのような考え方には、確かに効率と合理性の妙を感じますな。それは、我々がこれまで経験や勘に頼ってきた部分を、より明確な形にし、誰にでも共有可能な知識へと昇華させる可能性を秘めている。 これを各部隊の練度や、兵站の管理に応用できれば、より的確な指揮を執れるでしょう。まさに、貴殿は…いや、貴殿の家系に伝わるという『龍の血脈』は、天から与えられた知恵をもたらすのかもしれませぬな。」
徐庶は、的斗の言葉尻を捉えるのではなく、その思考の意図を深く探ろうとした。(この子龍殿の言葉は、時として常軌を逸しているように聞こえる。しかし、その根底には、民を思い、無駄な犠牲を避けようとする真摯な心が感じられる。この異質な知恵を、いかにこの乱世に適合させ、我々の力とするか…それを見極めるのが、軍師としての私の役目であろう) そして、その問答の中から、新たな軍事・行政の仕組みが生まれることも少なくなかった。
(このお方…時折、常人では思いもよらぬ視点から物事を捉えられる。その発想の端々には、まるで未来の戦を知っているかのような鋭さがある。やはり、ただ者ではない。彼の言う『龍の血脈』とは、単なる武勇のみならず、このような時代を超越したかのような思考そのものにも影響を与えているのだろうか。あるいは、何か別の…いや、今は詮索すべきではあるまい。 この知恵を、いかにこの乱世に活かすか…それが、私の使命だ)
徐庶は、的斗の持つ未知の可能性と、その言葉の裏に隠されたであろう秘密に思いを巡らせながらも、今は目の前の課題に集中し、ますます期待を寄せるようになっていた。
訓練に関しても、的斗は兵士たちの士気を高めるための工夫を凝らした。彼は徐庶と相談し、「(単調な訓練は、モチベーションを低下させる。ゲームだって、同じことの繰り返しじゃ飽きるだろ?)」という現代の感覚から、「部隊対抗模擬戦」の導入を提案した。兵士たちを周倉、廖化、裴元紹らが率いるいくつかの部隊に分け、定期的に模擬戦を行い、成績優秀な部隊には褒美(良い食事や酒、あるいは僅かながらの報奨金など)を与えるというものだ。
この試みは、兵士たちに大いに受けた。各部隊は勝利を目指して作戦を練り、隊長たちは兵士の得意分野を見極めて配置を工夫した。模擬戦の日は、訓練場に歓声と熱気が満ち溢れ、兵士たちの間には競争意識と共に、強い仲間意識も芽生え始めていた。互いに切磋琢磨し、弱点を補い合うことで、軍全体の練度は驚くほど向上していった。
そして、的斗自身もまた、兵士たちとは別に、徐庶の指導のもと、特別な修練に励んでいた。それは、彼自身の内に秘められた、あの尋常ならざる「龍の気」とも呼ぶべき力を制御するためのものだった。
「子龍殿、まずは心を静め、ご自身の内なる気の流れを感じ取ることから始めてくだされ。趙家に伝わるという『龍の血脈』…その力がどのようなものか、私にも全ては分かりませぬが、古の賢人たちは、強大な力を御するためには、まず己を知り、己を制することが肝要であると説いております」
徐庶は、的斗が以前、療養中に瞑想を試みていたことを聞き、それをさらに深めるための助言を与えた。それは、特定の呼吸法や、精神集中の技法といったものだった。徐庶自身、この的斗の力を解明しようと、古文書を漁り、日々思案を重ねていた。
的斗は、徐庶の言葉に従い、毎朝、日の出と共に瞑想の時間を設けた。最初は雑念に囚われ、なかなか集中できなかったが、根気強く続けるうちに、身体の奥底、丹田のあたりに、微かだが確かに存在する温かい「何か」を再び感じ取れるようになってきた。それはまるで、小さな炎の種火のようであり、あるいは、まだ目覚めていない龍が、静かに鼓動を打っているかのように感じられた。的斗の意識がそこに触れるたび、その「気」は僅かに増幅し、全身に満ち渡る。それは、董卓を討った時の暴走する力とは異なり、静かで、しかし確かな存在感を放っていた。的斗は、その「気」の源泉が、丹田の奥深くに脈打っているのを感じた。
(これだ…この感覚…!以前よりも、この気の流れを強く意識できる…!これを育てていけば、いつか…!)
さらに、徐庶は的斗に、その「気」を槍術に応用する訓練も課した。
「ただ力任せに槍を振るうのではなく、内なる気を槍の穂先に集め、一点に集約させるのです。そうすれば、より少ない力で、より大きな破壊力を生み出せるやもしれません」
的斗は、木の人形や的を相手に、何度もその修練を繰り返した。時には、気が暴走しそうになり、槍が手から滑り落ちそうになることもあったが、その度に徐庶が冷静に制止し、正しい気の導き方を教えた。徐庶は、的斗が能力を使った後の激しい消耗を間近で見ており、その力を制御することが、的斗の命を危険に晒さないために不可欠だと考えていた。
数週間後、的斗の槍筋は、以前にも増して鋭さと力強さを増していた。彼は、意識的に気を集中させることで、槍の穂先が僅かに光を帯びるのを感じた。その光は、的斗の意志に呼応するように輝き、槍の切先は、まるで岩をも貫くかのように鋭くなった。彼は、その力を使っても、以前のような激しい消耗がないことに気づき、制御への手応えを確信した。そして何よりも、彼は自分の内なる力を、ほんの少しだが、意識的にコントロールできるようになってきているという確かな手応えを感じていた。
(まだ完全じゃない…あの董卓を倒した時の圧倒的な力は、まだ自由には使えない。でも、確実に前に進んでいる…!この力を完全に使いこなせれば、呂布だって…!)
その修練の様子を、周倉や裴元紹たちは遠巻きに、畏敬の念を込めて見守っていた。
「趙雲様の槍、なんだか前よりも凄みが増したみてえだぜ…風を切る音が、まるで龍の唸り声みてえだ」
「ああ…まるで、龍が宿っているみてえだ…」
一方、貂蝉もまた、白龍軍の強化に大きく貢献していた。彼女は、的斗が戦場で負傷した兵士たちの様子を憂い、何とか救護体制を整えたいと語るのを聞き、自らその任を買って出た。
的斗は、現代で得た基本的な衛生知識――傷口を清潔に保つことの重要性、感染症の予防、布や器具を煮沸消毒して使うこと、体調の悪い者は他の者と分けて休ませることなどを、貂蝉にできる限り分かりやすく説明した。彼は、現代の保健体育の授業で学んだ知識を、この時代の言葉に翻訳するように、熱心に語った。(現代の病院のような施設があれば、もっと多くの命が救えるのに…)
貂蝉は最初、その考え方のいくつかに戸惑いを見せたものの、的斗の真剣な眼差しと、その言葉の裏にある民を思う心を感じ取り、熱心に耳を傾けた。そして、古参の兵士たちの経験や、村の薬草に詳しい老婆たちの知恵も借りながら、負傷兵を世話するための場所を整え、彼女なりのやり方で「救護所」とも呼べるシステムを作り上げていった。彼女は的斗から聞いた「清潔」という概念を徹底し、布は毎日煮沸消毒し、傷口は清水で丁寧に洗い流した。
当初は「女子供のやることだ」「戦場で怪我をするのは仕方ない」と冷ややかに見ていた一部の兵士たちも、貂蝉の献身的な看護や、彼女が取り入れた方法によって怪我の治りが驚くほど早まったり、以前は頻繁に発生していた熱病が抑えられたりするのを目の当たりにし、次第にその知恵と慈愛に満ちた行動に敬意を払うようになっていった。
「貂蝉様は、我らの女神様だ…怪我をしても、貂蝉様がいればすぐに治る!」
貂蝉の優しさや聡明さは、荒くれ者たちの心を癒し、軍全体の士気を高める上で、計り知れない力となっていた。
徐庶の戦略指導、的斗の斬新な発想と兵を思う心、そして貂蝉の献身的なサポート。それらが融合し、白龍軍は日を追うごとに、単なる寄せ集めの集団から、規律と士気を兼ね備えた精強な軍隊へと変貌を遂げていった。そして的斗自身もまた,リーダーとして、そして一人の武人として、その内なる龍の力と共に、着実に成長を遂げつつあった。
来るべき呂布との決戦に向け、白龍軍は力強く、その牙を研ぎ澄ませていくのだった。




