第21話:白龍軍、旗揚げ! 仁義の旗と打倒呂布の誓い
第21話:白龍軍、旗揚げ! 仁義の旗と打倒呂布の誓い
徐庶が軍師として仕えることを決意した夜、彼は母にその胸中を語った。月の光が差し込む庵の中で、徐庶の母は静かに息子の話に耳を傾けていた。
「母上、私はこの趙子龍という男に賭けてみたくなりました。彼の言葉には、時折、常人には理解できぬような深遠な響きがあります。まるで、歴史の先を知っているかのような…そして何より、その瞳には、真に民を憂い、この乱世を終わらせようという、私たちがかつて黄巾の旗の下に見たような、しかし歪むことのない強い意志が宿っております。それに、彼の身体の奥底から発せられる『気配』は、噂に聞いた『龍の血脈』の話と符合する。彼ならば、本当に何かを成し遂げるやもしれません。この乱世に、真の光をもたらすことができるのは、彼しかいないと、この元直は確信いたしました」
母は、息子の言葉を静かに聞き、そして優しく微笑んだ。その目は、息子が選んだ道への信頼と、一抹の心配を湛えていた。
「元直…お前がそう信じられたのならば、母は何も申しません。あの若者の瞳には、確かな憂国の情と、民を思う優しさがありました。そして、あなたと同じように、母もまた、何か常人ではない特別なものも感じました。お前が信じる道を行きなさい。母はいつまでもお前の味方です。ただ、くれぐれも身体には気をつけるのですよ」
母の温かい言葉に、徐庶は深く頭を下げた。彼の心にあった最後の迷いは、完全に消え去っていた。
翌日、的斗は徐庶と共に、今後の具体的な行動計画を練り始めた。まだ夜明け前の薄闇が残る庵で、徐庶は懐から一枚の古い地図を取り出し、広げた。
「先生、俺たちはまず、どこに拠点を築くべきでしょうか?」
徐庶は、地図上の一点を指し示した。
「趙子龍殿。荊州は比較的平和とはいえ、劉表殿の支配力も完璧ではございません。特にこの荊州南部…長沙、零陵、桂陽といったあたりは、古くは蛮族の地であり、今は中央の支配も及びにくく、治安も乱れております。しかし、見方を変えれば、そこは我々のような新しい勢力が自由に力を蓄えるには格好の場所とも言えます。そこには、戦乱を逃れてきた多くの流民や、行き場を失った元兵士たちが集まっているはず。彼らを我々の力でまとめ上げ、新たな秩序を築くのです。そして、彼らにとっての希望の地とするのです」
「無法地帯、ということですか…」的斗は少し顔をしかめた。(無法地帯…ゲームなら初期の資金稼ぎと仲間集めに最適だけど、現実じゃ危険すぎる…いや、だからこそ、誰も手を付けない場所に、俺たちの理想の国を築き始めるんだ!)
「左様。一から基盤を築く困難はありましょう。しかし、その困難を乗り越えた時、我々は真の力を得ることができます。そこを、我々の軍の最初の礎とするのです」
徐庶の言葉には、確かな自信が漲っていた。的斗は、その困難さを理解しつつも、むしろそこに挑戦する意欲を掻き立てられた。
「分かりました、先生!困難だからこそ、俺たちが変える価値がある。そこに、俺たちの最初の国を作りましょう!」
的斗と徐庶、そして周倉、廖化、裴元紹、貂蝉を加えた一行は、荊州南部の、とある寂れた県城を目指した。そこは、かつて黄巾の残党が潜んでいたこともあり、役人の目も届かず、半ば無法地帯と化していた。
到着すると、そこには徐庶の言葉通り、戦乱で全てを失い、絶望の淵にいた多くの流民たちが、ただ生きるためだけに寄り集まっていた。彼らの目は虚ろで、未来への希望などどこにも見いだせない様子だった。
的斗は、まず自らの武勇を示し、その地に巣食っていた悪党や賊徒を討伐した。その的確な槍捌きと、超人的な武勇は、見る者を圧倒し、悪党たちは一目散に逃げ去った。
そして、集まってきた流民たちに対し、的斗は高らかに宣言した。
「皆の者、よく聞け!俺は趙雲子龍!これよりこの地を、民が安心して暮らせる場所に変えてみせる!飢えている者には食料を、病の者には薬を、そして何よりも、お前たちに希望を与えることを約束する!ここには、二度と誰にも略奪や暴行はさせない!」
的斗の力強い言葉と、その瞳に宿る真摯な光に、流民たちは半信半疑ながらも、僅かな期待を抱き始めた。その言葉の端々から、彼らの心を惹きつけるような、不可思議な「気配」を感じ取った者も少なくなかった。的斗の全身から放たれる微かな「龍の威光」が、その言葉に説得力と安心感を与え、虚ろだった流民たちの瞳に、僅かながらも「光」を灯した。
的斗は徐庶の助言に従い、略奪を厳しく禁じ、公平に食料を配給し、治安の回復に努めた。的斗は現代の分配システムを参考に、帳簿をつけ、個々の家族の人数や状況に応じて、公平に食料を分け与えた。また、簡易的な巡邏隊を組織し、夜間の不審者を厳しく取り締まった。これらの施策は、この時代にはあまり見られない「公平性」と「秩序」をもたらし、流民たちの間に驚きと安堵をもたらした。彼の現代知識から来る「秩序」と「公平性」の概念は、この時代の流民たちにとって、まさに希望の光だった。
貂蝉もまた、率先して負傷者の看護にあたり、子供たちや老人たちに優しく声をかけ、彼らの心を癒していった。その姿は、まさに慈母のようだった。
徐々に、的斗たちの活動は流民たちの信頼を得ていき、「趙雲様こそ、我らの救い主だ!」という声が上がり始めた。そして、彼らの中から、的斗と共に戦いたいと志願する者たちが現れ始めた。
数週間後、その数は数百人にまで膨れ上がっていた。もはや、単なる流民の集まりではない。一つの「軍」と呼ぶにふさわしい規模となっていた。
的斗は、集まった者たちの前で、高らかに宣言した。
「今日この日より、我々は新たな軍として旗を揚げる!その名は、『白龍軍』!白は清廉にして正義の色、そして龍は天に昇り、民に恵みをもたらす吉兆の象徴なり!我ら白龍軍は、この仁義の旗の下、必ずやこの乱世を平定し、天下泰平を成し遂げることをここに誓う!」
的斗が、自ら墨痕鮮やかに「仁義」と書かれた白い旗を天に掲げると、集まった兵士たちから、地鳴りのような雄叫びが上がった。彼らの叫びは、単なる歓声ではなかった。それは、長年虐げられてきた民が、ようやく見つけた希望への、魂からの叫びだった。
「「「おおおおおーーーっ!!」」」
周倉、廖化、裴元紹も、感極まった様子で的斗の傍らに立ち、改めて忠誠を誓う。
「趙雲様!我ら、どこまでもお供いたします!」
貂蝉は、その光景を涙ながらに見守っていた。彼女の瞳には、的斗への深い信頼と、そして共に未来を築いていくという確かな希望が輝いていた。(子龍様…あなた様と共に…)
こうして、荊州南部の片隅で、若き龍・趙雲子龍率いる「白龍軍」が産声を上げた。それは、まだ小さな力ではあったが、やがて三国志の歴史を大きく揺るがすことになる、確かな胎動であった。
最初の目標は、打倒呂布。そしてその先には、天下泰平という壮大な夢が広がっている。的斗の新たな戦いが、今、始まろうとしていた。