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第19話:臥龍岡の賢者? 単福先生との出会い

第19話:臥龍岡の賢者? 単福先生との出会い


単福こと徐庶が住まうという臥龍岡は、荊州の奥深く、人里離れた山間にあった。的斗たちは、廖化の案内で険しい山道を進んでいく。木々は鬱蒼と生い茂り、湿った土の匂いと、微かに薬草の香りが混じる。鳥のさえずりと風の音だけが響く、まさに隠れ里といった風情だ。


(こんな山奥に、本当に賢者がいるのか…?ゲームの諸葛亮の庵みたいに、本当に隠者っぽいのか?でも、だからこそ、俗世から離れて学問に集中できるのかもしれないな)


的斗は、期待と少しの不安を胸に、歩みを進めた。

数時間後、ようやく視界が開け、小さな盆地のような場所にたどり着いた。そこには、美しい竹林に囲まれ、質素ながらも手入れの行き届いた数軒の家屋が点在していた。そのうちの一軒、ひときわ小さな庵の前に、一人の若者が鍬を振るって畑を耕している姿が見えた。

年の頃は的斗と同じくらいか、少し上だろうか。麻の簡素な服をまとい、額には汗が滲んでいる。一見すると、どこにでもいる普通の農夫のようだ。しかし、その所作の一つ一つには無駄がなく、的斗の剣道で培った眼力は、彼がただの農夫ではないことを見抜いた。


(あの人が…単福先生…?廖化、間違いないんだろうな?これが、徐庶か…ゲームのイラストで見た顔と、雰囲気は似てるな…)


的斗は、廖化に目で問いかける。廖化は小さく頷いた。

的斗が近づいていくと、若者は鍬を置く手を止め、鋭い眼光で的斗たち一行を見据えた。その目つきは、農夫のそれではなく、何かを見透かすような、思慮深い光を宿していた。


「…何か御用かな、旅の方々」


声は若々しいが、落ち着いた響きを持っている。


「失礼いたします。こちらに、単福先生という方がお住まいと伺って参りました」


的斗が代表して答えると、若者は少し眉をひそめた。


「単福とは私のことだが…しがない書生に過ぎぬ。先生と呼ばれるほどの者ではない。して、何の用向きで?」


的斗が返答に窮していると、庵の奥から、一人の老婆が姿を現した。徐庶の母であろう。年の頃は五十を過ぎているように見えるが、その背筋はしゃんと伸び、気丈そうな顔立ちをしている。その瞳の奥には、息子への深い愛情と、世の乱れを憂う賢母の聡明さが光っていた。


元直げんちょく、お客様のようですよ。そのようなところで立ち話もなんです。中へお通しなさい」


老婆は的斗たちを一瞥すると、その鋭い目で何かを値踏みするように言った。的斗は、彼女の言葉遣いや佇まいから、ただの農婦ではない、確かな教養と気品を感じ取った。


「母上…この方々は…」


「旅の方とお見受けします。ですが、そのお連れの方々の屈強なご様子…ただの物見遊山ではありますまい。ましてや、この臥龍岡まで足を運ばれるとは。息子に何か、よからぬお誘いではございませんか?この乱世で、息子をまた危険な目に晒すようなことだけは…」


老婆の言葉は、的斗の胸に突き刺さった。彼女は、息子を乱世の騒乱に巻き込ませたくないという親心と、同時に、息子の才能がこのまま埋もれてしまうことへの危惧の間で揺れているのかもしれない。的斗は、かつて自身の親を心配させた高校生の自分を思い出し、胸が締め付けられる思いだった。

的斗は、慌てて居住まいを正した。


「滅相もございません!我々は、単福先生の学識とご高名をお聞きし、ぜひ一度お目にかかりたいと参上した次第。決して、ご迷惑をおかけするつもりは…」


「ふむ…」


それまで黙っていた徐庶が、静かに口を開いた。彼の目は、的斗の腰に差した槍と、その佇まいをじっと観察していた。的斗の全身からは、まだ制御しきれていないが、微かに強い気が漂っているのを、徐庶は感じ取っていた。


「貴殿、ただの旅人ではありますまい。その槍捌き、そしてそのお連れの方々の雰囲気…巷で噂になっておりますぞ。『常山より現れた若き龍、趙子龍と名乗り、かつて黄巾に身を投じた屈強なる者どもを心服させ、洛陽・長安にて董卓の暴政に立ち向かい、その死に深く関わった』と。さらには、趙家には古くより『龍の血脈』を引く者が現れるという言い伝えもあるとかなんとか…。その噂の御仁が、貴殿ではありますまいか?貴殿のその槍捌き…そして、その身体の奥底から発せられる、どこか常人離れした『気配』は、その噂が真実であることを裏付けている」


(見抜かれている…!しかも、噂がもうこんな所まで…長安での出来事から、まだそう時間は経ってないはずなのに…徐庶の洞察力、恐るべし!)


的斗は、徐庶の洞察力と情報収集能力に舌を巻いた。


「…いかにも。私が趙雲子龍です。単福先生…いや、徐庶先生におかれましては、そのご慧眼、恐れ入ります」


的斗は、もはや素性を隠す必要はないと判断し、正直に名乗った。

徐庶は、表情を変えずに言った。


「噂の英雄が、私のような無名の書生に何の御用ですかな?もし、武勇をお求めならば、他を当たるべきでしょう。私は剣も槍も、ほんの嗜む程度です」


「いえ、先生の武勇にも興味はありますが、それ以上に、先生の知恵をお借りしたいのです。この乱世を終わらせるために、先生の力が必要です!」


的斗がそう言うと、徐庶は少し意外そうな顔をした。


「ならば、少しばかりお相手願えますかな?言葉だけでは、互いのことは分かり合うまい。貴殿がどのような『力』をお持ちなのか、この目で見極めたい」


徐庶はそう言うと、庵の軒下に立てかけてあった二本の木剣を手に取り、一本を的斗に差し出した。


「これは…手合わせを、ということですか?」


「ええ。ほんの少し、剣を交えれば、貴殿がどのようなお方か、少しは分かるやもしれません。巷の噂の真偽、そして貴殿の器を、この目で見極めさせていただきたい。もし、貴殿が真にこの乱世を終わらせる器を持つというのなら、この剣で、それを示してくだされ」


的斗は、徐庶の真意を測りかねながらも、差し出された木剣を受け取った。(この人…ただ者じゃない。剣を交えれば、俺の隠していること…いや、俺自身のことまで見抜かれるかもしれない…)

中庭に移動し、二人は静かに木剣を構える。徐庶の構えには全く隙がなく、その瞳は先ほどまでの穏やかさとは打って変わって、鋼のような鋭い光を放っている。的斗もまた、剣道で培った集中力で、徐庶の動きを寸分違わず見据えた。

風が竹林を揺らし、葉擦れの音だけが響く。まるで、これから始まる試練を見守るかのように、時間は静かに流れた。

次の瞬間、二人の木剣が、鋭い音を立てて交わった。

それは、互いの魂を探り合うかのような、静かで、しかし激しい応酬の始まりだった。

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