第18話:軍師を求めて! ゲーム知識と記憶の糸
第18話:軍師を求めて! ゲーム知識と記憶の糸
荊州の農村での療養生活は、的斗にとって身体を休めるだけでなく、これからのことをじっくりと考える貴重な時間となった。高熱にうなされていた数日間、彼は悪夢のように長安での出来事を繰り返し見ていた。王允の無念の死、燃え盛る都、そして貂蝉の悲しげな瞳。彼は、あの時、自分の力が未熟だったために、王允を救えなかったという後悔と、貂蝉を危険な目に晒してしまったという自責の念に苛まれていた。
(俺は、このままじゃダメだ…この「龍の力」は時に強い力を見せるけど、まだ安定して使いこなせるわけじゃない。そして何よりも、俺は軍を率いる戦略も戦術も知らず、この時代の常識も覚束ない。呂布を倒し、王允様の遺志を継ぐには、俺一人の武勇だけでは、あまりにも足りない…)
的斗は、自分の知識や経験だけでは、この複雑怪奇な乱世を渡り歩くには限界があることを痛感していた。特に、軍を率いて戦うための戦略や戦術については、全くの素人同然だ。ゲームの知識はあっても、それはあくまで盤上の話。生身の人間を動かし、刻一刻と変化する戦況に対応するには、専門的な知識と経験を持つ者の助けが不可欠だった。
「なあ、周倉。もし俺たちが呂布と戦うことになったら、どういう作戦でいくのがいいと思う?」
ある日、的斗は村の木陰で、仲間たちに問いかけてみた。
周倉は、自信満々に自身の胸板を叩いた。
「へっ、そんなもん決まってらあ!俺と趙雲様が先陣を切って、呂布の野郎を叩きのめすだけよ!あとは、残りの野郎どもを蹴散らせば、それで終わりだ!」
裴元紹も元気よく「そうだそうだ!趙雲様の武勇と、俺たちの力があれば、力押しで十分だ!」と同意する。
的斗は苦笑した。彼らの武勇は確かに頼りになる。だが、それだけで天下が取れるほど、この乱世は甘くないことを、彼はゲームで嫌というほど学んでいた。廖化は少し考え込む素振りを見せたが、結局「趙雲様の指示通りに動くだけですぜ。あとは、俺が裏からちょこまかと動いて、情報集めでもしますわ」と言うばかりだった。
(これじゃダメだ。一騎当千の将がいても、それを動かす頭がなきゃ、大軍相手には通用しない。ゲームの攻略本じゃないが、この乱世を勝ち抜くには、戦を知り尽くした、頭の切れる軍師が絶対に必要だ…!)
そんな折、的斗は世話になっている村の長老に、この辺りに賢者がいないかと尋ねてみた。
「賢者、でございますか…」長老はしばらく考え込んだ後、言った。「荊州の劉景升(劉表)様は学問を篤く奨励され、多くの名士を保護しておられると聞きます。その劉表様も師と仰ぐという、司馬徽殿、またの名を水鏡先生と呼ばれるお方が、この近くの山中に隠棲しておられるとか。その門下には、優れた若者が大勢いると噂にございます」
(水鏡先生…!やっぱりいたのか!ゲーム通りなら、ここから諸葛亮や龐統に繋がるはず…!)
的斗の心に、一筋の光明が差した。しかし、いきなり水鏡先生のような大物を訪ねるのは気が引けるし、紹介もなしに会ってくれるとも限らない。まずは、もっと身近なところから情報を集める必要がありそうだ。
的斗は、情報収集の才覚を見せ始めていた廖化に、荊州一帯の有力者や、隠れた才能を持つ人物について調べるよう命じた。廖化は、元賊として培った裏社会のネットワークや、行商人たちとの古いつながりを駆使し、数日後、いくつかの興味深い情報を的斗にもたらした。
「趙雲様、いくつか気になる噂が…その中でも、臥龍岡に、単福と名乗る若者がいるそうで。剣術の腕も立ち、兵法にも通じているとか。ただ、その素性は謎に包まれており、あまり人と交わろうとしない偏屈な男だとも…」
(単福…それは、徐庶の仮の名じゃないか!間違いない!まさかこんなところで会えるとは…!)
的斗は、廖化の報告に興奮を隠せなかった。(曹操に仕える前…劉備に仕える前の徐庶なら、俺の未来の知識と、この『龍の力』を理解してくれるかもしれない…!)彼ならば、今の自分にとって最高の助けとなるに違いない。
「廖化、よくやった!その単福という男に、俺は会ってみたい」
的斗は早速、周倉、裴元紹、そして情報をもたらした廖化を集め、軍議を開いた(と言っても、まだ軍と呼べるほどの規模ではないが)。
「皆に話がある。俺は、これから軍を率いて呂布を討ち、天下泰平を目指す。だが、そのためには、俺たちの武勇だけでは足りない。戦を指揮し、策を巡らすことのできる、優れた軍師が必要だ」
的斗の言葉に、周倉は少し不満そうな顔をした。
「軍師なんぞ、本当に必要なんですかね?趙雲様の武勇と、俺たちの力があれば、呂布なんぞ怖くありませんぜ!」
「周倉、気持ちは分かる。だが、戦は力だけで勝てるものじゃない。知恵も必要なんだ。それに、俺はまだ軍を率いた経験が浅い。的確な助言をしてくれる者がいなければ、多くの仲間を無駄死にさせてしまうかもしれない」
的斗の真剣な言葉に、周倉も黙り込む。
廖化が口を開いた。
「趙雲様の仰る通りです。我々だけでは、いずれ大きな壁にぶつかるでしょう。優れた軍師がいれば、百人力ですな。情報戦や兵站、戦略眼…そういった面で、我々はあまりにも未熟だ」
裴元紹も、「趙雲様がそう言うなら、俺は従います!」と元気よく言った。
的斗は、仲間たちの理解を得られたことに安堵した。
「よし、決まりだ。俺は、臥龍岡にいるという単福先生を訪ね、軍師として迎えたいと思う。どんな状況であっても礼を尽くし、誠意を尽くして頼み込むつもりだ。(たとえゲームでは出会えなかった相手でも、この世界では、俺の力で仲間にしてやる!劉備が諸葛亮孔明を迎える際に三顧の礼を尽くしたように、誠意を見せれば、きっと!)」
その言葉には、新たな仲間を得ることへの強い期待と、自らがリーダーとして軍を導いていくという、確かな決意が込められていた。
荊州の地で、的斗の運命は、また一つ、新たな出会いへと動き出そうとしていた。