第13話:Xデー迫る! 暗殺計画の最終調整と、呂布の葛藤
第13話:Xデー迫る! 暗殺計画の最終調整と、呂布の葛藤
連環の計は最終段階に入っていた。董卓と呂布の間の亀裂は修復不可能なほど深まり、呂布の董卓に対する不満はいつ爆発してもおかしくない状態だった。そしてついに、王允から的斗へ、決行の日時と最終的な指示が伝えられた。
「明朝、董卓が朝議のため長安にて宮中に参内する。その時が、我らにとって唯一にして最大の好機となるであろう」
王允の表情はいつになく険しく、その声には並々ならぬ覚悟が滲んでいた。彼の握りしめた拳は、わずかに震えていた。
「趙子龍殿、貴殿には宮中の未央殿の回廊に潜み、呂布の動きを助け、万が一の事態に備えてもらいたい。この国の命運は、お主と貂蝉にかかっておる。何があっても、貂蝉を…そして、お主自身の力を信じ、必ずやこの国に光を取り戻してくれ」
王允は的斗の肩を強く掴んだ。その手は、わずかに震えていた。
「…御意。この趙子龍、必ずやご期待に応えてみせます」
的斗は、王允の目を見据え、力強く頷いた。
その頃、呂布は自らの広壮な屋敷で一人、荒れたように酒を煽っていた。大杯の酒を飲み干すたびに、彼の頬の筋肉がピクリと引き攣る。その瞳は血走り、激情に駆られているが、その奥には言いようのない苦悩が隠されているようだった。卓上には、山海の珍味が並んでいるが、ほとんど手も付けられていない。磨き上げられた床には、割れた酒甕の破片が散らばっている。
(董卓め…義父ではあるが、もはや我慢ならん…!貂蝉を…俺の貂蝉を弄びおって…!)
呂布の脳裏には、貂蝉の美しい姿と、董卓の醜悪な笑顔が交互に浮かび上がり、彼の心を掻き乱す。貂蝉からもらった(と呂布が思い込んでいる)小さな花の髪飾りを、彼はまるでそれが唯一の救いであるかのように、強く握りしめていた。
「貂蝉…待っていろ…必ずやお前を、あの豚同然の男から救い出してやる…!」
その言葉は、自分自身に言い聞かせているようでもあった。(この呂布は、父と呼んだ丁原を裏切った。董卓もまた、恩人だ。再び裏切るのか…?しかし、貂蝉のため…いや、俺の天下のためだ…!)しかし、その一方で、董卓に拾われ、ここまでの地位と栄華を与えられたことへの僅かな恩義も、呂布の心を重く締め付けていた。そして何より、董卓を殺せば、自分がこの天下に最も近い男となるという、黒々とした野望が、彼の胸中で炎のように燃え盛っている。
(俺は…どうすべきなのだ…!誰か…誰か俺に道を示してくれぬか!)
しかし、彼の傍らには、その苦悩を分かち合い、的確な助言を与えるような腹心はいなかった。かつて丁原を裏切ったように、彼は常に孤独だった。呂布の運命を左右する重大な決断は、誰にも相談されることなく、彼自身の抑えきれない激情と、果てしない野望によって下されようとしていた。
決行前夜。的斗は、周倉、廖化、裴元紹と共に、洛陽の片隅に借りた隠れ家で、静かにその時を待っていた。
洛陽の街の喧騒が、壁一枚隔てた向こう側から微かに聞こえてくる。しかし、この部屋の中は、まるで嵐の前の静けさのように、重苦しい沈黙に支配されていた。ランプの頼りない光が、四人の緊張した面持ちをぼんやりと照らし出している。
(いよいよ明日か…本当に、歴史通りに事が進むのか…?もし失敗したら…貂蝉さんは…?周倉たちは…?俺のせいで、もっと悪いことになるんじゃないか…?こんな歴史的な大事件の中心に、普通の高校生だった俺がいるなんて…誰も信じてくれないだろうな。この秘密を誰にも打ち明けられない孤独…)
的斗の胸中は、期待と不安で押し潰されそうだった。自分が歴史を動かすという、ある種の全能感にも似た高揚感と同時に、「もし自分が何かヘマをして、歴史を悪い方向に変えてしまったらどうしよう」という、転生者ならではの底知れない恐怖も感じていた。(ゲームならリセットできる。でも、これは一度きりのリアルな人生だ。俺の一つのミスで、多くの命が失われ、歴史が取り返しのつかない方向に歪むかもしれない…)
「趙雲様…顔色が悪りいぜ。少しは休んだ方がいい」
周倉が、心配そうに声をかけてきた。その無骨な優しさが、的斗の張り詰めた心を少しだけ解きほぐす。
「ああ…大丈夫だ。ただ、少し考え事をしていただけだ」
的斗は無理に笑顔を作った。(俺のこの孤独は、誰にも理解できないだろう。だからこそ、俺がしっかりしなきゃならない…)
「明日は、俺の人生で…いや、この国の歴史にとって、とんでもなく重要な一日になる。お前たちには、危険な役目を頼むことになるかもしれない。だが…俺は、お前たちを信じている。お前たちがいれば、きっと大丈夫だ」
的斗の真っ直ぐな言葉に、三人は力強く頷いた。
「趙雲様のためならば、この廖化、水火も辞しません!我らが趙雲様が、乱世の光となることを信じております!」
「へへっ、腕が鳴るぜ!どんな危険な役目だって、この裴元紹にお任せくだせえ!趙雲様の背中は、俺たちが守ります!」
そして周倉は、無言で的斗の肩をポンと叩いた。その力強い感触が、「案ずるな」と言っているようで、的斗の不安を少しだけ和らげてくれた。
(そうだ…俺は一人じゃない。この頼もしい仲間たちがいる…!俺がしっかりしなきゃ…!)
的斗は、改めて仲間たちの存在の大きさを感じた。彼らがいれば、どんな困難も乗り越えられるかもしれない。
的斗は、部屋の小さな窓から見える月を見上げた。それは、まるでこれから起こるであろう激動の未来を暗示するかのように、赤みを帯びて不気味に輝いていた。その赤は、これから流れるであろう血の色にも、的斗の胸に燃える怒りの炎の色にも見えた。
(貂蝉さん…どうか無事でいてくれ…必ず、助け出すから…)
心の中で強く願いながら、的斗は静かに目を閉じた。
長い、長い夜が明けようとしていた。歴史が大きく動くその瞬間は、刻一刻と近づいていた。




