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第12話:密命と深まる絆! 貂蝉との秘密の逢瀬

第12話:密命と深まる絆! 貂蝉との秘密の逢瀬


連環の計は、王允の思惑通り、董卓と呂布の関係に深い亀裂を生み出していた。呂布は日に日に董卓への不満を募らせ、貂蝉への執着を強めていく。一方の董卓は、貂蝉の美貌に溺れ、呂布の不満など意にも介さない様子だった。

その渦中にいる貂蝉は、心身ともに極限の状態にあったに違いない。的斗は、彼女のことが心配でならなかった。


「趙子龍様…お越しいただけましたのね…」


月明かりだけが頼りの、董卓の屋敷の裏庭。侍女の手引きで、的斗はそこで密かに貂蝉と会うことができた。彼女の声はか細く、月の光に照らされた顔は青白く、以前よりも痩せたように見える。その白い手首には、まるで肉体を蝕むかのように、見えない枷が嵌まっているように感じられた。的斗は、思わずその細い手首に触れたいが、寸前で思いとどまった。


「貂蝉さん…大丈夫ですか?無理はしないでください」


的斗の言葉に、貂蝉は力なく微笑んだ。


「私は…大丈夫ですわ。全ては、この国のため…王允様との約束ですから…」


その健気な言葉が、的斗の胸を締め付ける。彼女は、呂布と董卓という二人の獣の間で、どれほどの恐怖と屈辱に耐えているのだろうか。現在の彼女には、董卓と呂布という、肉食獣の間に差し出された子羊のような、極限の緊張と恐怖が常に付きまとっている。的斗の脳裏には、彼らの下卑た笑い声が蘇り、貂蝉の身に起こるであろう屈辱を想像するだけで、腸が煮えくり返る思いだった。


「でも…もし辛くなったら、いつでも俺に言ってください。どんな危険を冒してでも、あなたをここから連れ出します」


的斗の真剣な眼差しに、貂蝉の瞳が潤んだ。彼の声は、自分でも驚くほど震えていた。これは、単なる建前ではない。彼の心の底からの、純粋な叫びだった。


「…ありがとうございます、子龍様。あなた様のそのお言葉だけで、私は…まだ頑張れます」


彼女はそっと袖で目元を拭った。その仕草に、的斗は何も言えなくなる。(俺は、何もしてやれていない。ただ傍観しているだけだ。こんな役目、本当に果たせるのか…?)今の自分には、彼女を励ます言葉すら、空虚に響くように思えた。


「呂布様は…近頃、私に会うたびに、太師(董卓)への不満を口にされるようになりました。そして、私をいつか必ず自分のものにすると…」


貂蝉は、小さな声で呂布の様子を的斗に伝える。それは、王允の計画が順調に進んでいる証でもあったが、的斗にとっては、貂蝉がさらに危険な状況に追い込まれていることを意味していた。


「董卓様は…相変わらず私に執心で、片時も側を離そうとなさいません。ですが、その分、周囲への警戒は薄れているようにも見えますわ」


彼女は、冷静に董卓の様子も分析して伝える。その聡明さと、危険な状況下での気丈さに、的斗は改めて感嘆する。


(すごい人だ…こんな状況でも、しっかりと自分の役目を果たそうとしている…)


「貂蝉さん、あなたは本当に強い人だ。でも、決して一人で抱え込まないでください。俺も、周倉たちも、王允様も、みんなあなたの味方です」


的斗がそう言うと、彼の瞳が、まるで内側から発光するかのように、一瞬だけ淡い金色に輝いた。その輝きは、月光よりも優しく、しかし確かな温もりを貂蝉の心にもたらした。それは、彼女がどれほど深い闇の中にいようとも、必ず光を差し伸べてくれる…そんな確信を抱かせる、不思議な光だった。以前も感じたこの不思議な輝きが、以前、貂蝉の心の奥底に、彼への絶対的な信頼と、ほのかな愛の萌芽を宿らせていた。それは、彼が強い意志や感情を抱いた時に時折現れる、「龍の血脈」の力の片鱗だった。

貂蝉は、今また、その不思議な輝きに魅せられ、ハッとした表情を見せた。


(子龍様の瞳…また、あの時と同じように…)


以前、董卓の側近に絡まれそうになった時も、的斗の瞳は同じように輝いていた。その輝きは、貂蝉に不思議な安心感と、彼への絶対的な信頼を抱かせるものだった。


「はい…子龍様。あなた様がいるから…私は…」


貂蝉の声は、感謝と、そしてそれ以上の想いを乗せて震えていた。

少しでも彼女の気が紛れるようにと、的斗は他愛ない話をした。


「そういえば、俺の故郷では、夜空の星を見て未来を占ったりするんですよ。あの、ひときわ明るく輝いている星は、きっと貂蝉さんの星です。困難を乗り越えて、必ず幸せになれるっていう証ですよ、きっと。(スマホの星空アプリがあれば、もっと詳しく説明してやれるのにな…)」


的斗が指さす夜空には、満天の星が輝いている。それは、現代の都会では決して見ることのできない、美しい光景だった。

貂蝉は、的斗の少し変わった話に、くすりと微笑んだ。


「ふふ…星占いですの?子龍様は、面白いことをご存知ですのね」


「えへへ、まあ、ちょっとだけ…」


的斗の不器用な優しさが、張り詰めていた貂蝉の心を、ほんの少しだけ解きほぐした。その言葉が、貂蝉にとって単なる迷信ではなく、「(子龍様は、私がこの計略の先に、本当に幸せになれると信じてくれている…)」という希望の象徴となった。


「必ず、この状況を終わらせます。そして、あなたが心から笑える日が来るように、俺が全力を尽くします。だから…もう少しだけ、頑張ってください」


「はい…子龍様。あなた様の言葉を信じます」


貂蝉は、しっかりと頷いた。その瞳には、先ほどまでの弱々しさはなく、再び強い意志の光が宿っていた。

短い逢瀬は終わりを告げ、的斗は再び闇に紛れて董卓の屋敷を後にした。

胸の中には、貂蝉への想いと、彼女を救い出すという固い決意が、より一層強く刻み込まれていた。的斗の心臓の鼓動は、貂蝉への揺るぎない愛と、彼女をあの地獄から救い出すという、鋼のような決意を力強く刻み込んでいた。それは、もはや個人的な野望ではなく、彼の全存在を賭けた「誓い」だった。


(待ってろ、貂蝉さん。そして、待ってろよ、董卓、呂布…!この連環の計、必ず成功させてやる!)


歴史の大きな転換点は、もう目前に迫っていた。的斗は、その中心で自らが果たすべき役割の重さを噛み締めながら、決戦の日に向けて静かに牙を研ぐのだった。

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