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第10話:運命の女神、貂蝉! 一目惚れと守る誓い

第10話:運命の女神、貂蝉! 一目惚れと守る誓い


王允との会談は、的斗にとって大きな緊張と、それ以上の興奮をもたらした。歴史の重要人物と直接言葉を交わし、何らかの役割を期待されている。それは、この世界で自分が無力ではないことの証左でもあった。


(それにしても、龍の血脈、か…王允様は何か知ってるみたいだったな…家にあったあの古い竹簡と関係があるのか…? それに、あの意味ありげな視線…何か、俺に期待しているようでもあったが…)

様々な思いを巡らせながら、的斗は広大な王允の屋敷の中を、案内の者に従って歩いていた。王允との会談を終え、客間へ戻る途中、ふと厠に立ち寄った。用を足し、元の廊下へ戻ろうとしたが、複雑な屋敷の構造に戸惑い、自分がどこにいるのか分からなくなってしまった。

(やべえ、迷った…この屋敷、どんだけ広いんだよ…さっきの案内人も、いつの間にか姿が見えないし…まさか、これも王允の差し金か?考えすぎか…?)

途方に暮れかけたその時、どこからともなく、か細くも美しい琴の音色が、まるで誘うかのように的斗の耳に届いた。 心惹かれるように音のする方へと歩を進めると、月明かりに照らされた美しい中庭に出た。その中庭の東屋で、一人の女性が静かに琴を奏でている姿が目に飛び込んできた。

その瞬間、的斗は息をのんだ。

月光を浴びて輝くような白い肌、柳のようにしなやかな肢体、そして、何よりもその顔立ち。ゲームのCGやイラストで何度も見た、あの絶世の美女「貂蝉」が、まるで絵画の中から抜け出してきたかのように、そこにいた。

(うわ…マジか…本物の貂蝉…!? この琴の音…俺をここに導いたのか…?)

琴の音色は、美しくもどこか物悲しく、彼女の心の奥底にある憂いを映し出しているかのようだ。月光を浴びて輝くような白い肌は、透き通るようで、触れれば壊れてしまいそうに儚い。その白い指が琴の弦を弾くたびに、まるで彼女自身の魂が削られていくかのように、的斗には感じられた。的斗は、その姿と音色に完全に心を奪われ、しばらくの間、ただ呆然と立ち尽くしていた。

彼女の長い睫毛が伏せられ、白い指が優雅に弦を弾く。時折、その表情にかすかな苦悶の色が浮かぶのが、月明かりの下でも見て取れた。まるで、彼女の心を雁字搦めにしている鎖が見えるかのように、的斗の胸は締め付けられた。

(綺麗だ…でも、なんだか、すごく悲しそうだ…)

ゲームの中では、ただ美しいだけの悲劇のヒロイン。しかし、目の前にいるのは、紛れもなく感情を持った一人の人間だ。その事実に、的斗は改めて衝撃を受けていた。

**的斗が息をのむ気配、あるいは彼が放つ微かな「龍の気」を感じ取ったのか、**不意に、琴の音が止んだ。貂蝉が、ゆっくりと顔を上げ、大きな瞳で庭先に佇む的斗の姿を捉えた。彼女は驚いたように目を見開いたが、すぐに落ち着きを取り戻し、静かに的斗を見つめた。


「あ、あの…申し訳ありません!迷ってしまって…その、あまりに美しい音色だったので、つい聞き入ってしまいました…私は趙子龍と申します。」


的斗は慌てて頭を下げた。顔が熱くなるのを感じる。

貂蝉は、そんな的斗の不器用な様子に、ほんの少しだけ口元を緩めたように見えた。


「…お褒めに預かり光栄ですわ、趙子龍様」


その声は、鈴を転がすように可憐で、しかしどこか芯の強さを感じさせる。


「い、いえ!俺なんか、ただの田舎者で!」


しどろもどろになる的斗。貂蝉はくすりと小さく笑った。その笑顔は、先ほどまでの憂いを一瞬忘れさせるほど、可憐だった。


「ふふ…面白い方ですのね、趙子龍様は」


「えへへ、まあ、ちょっとだけ…」


的斗は頭を掻きながら、何とか会話を続けようとする。


「あの…さっきの曲、すごく綺麗でしたけど、なんだか、すごく悲しそうでした。何か、悩み事でもあるんですか?俺でよければ、お話だけでも聞きますよ。きっと、道は開けるはずです。(俺がなんとかしてやりたい…この美しい人が、こんなに悲しんでいるなんて、許せない…!)」


現代の若者のような軽さを残しつつも、より真摯な励ましの言葉をかけた的斗。貂蝉は一瞬、その言葉遣いに戸惑ったような表情を見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「…お優しいのですね、趙子龍様は。お心遣い、痛み入ります」


その言葉には、どこか諦観のような響きも含まれているように的斗には感じられた。彼女の言葉には、まるで自分の運命を全て受け入れ、諦めきっているかのような、深い悲しみが隠されているように感じられた。的斗は、言いようのない苛立ちと、どうすることもできない無力感に襲われた。


後日、的斗は再び王允に呼び出された。そこで王允は、ついに「連環の計」の全貌を的斗に明かした。董卓と呂布を仲違いさせ、呂布の手によって董卓を誅殺するという、壮大かつ危険な謀略。そして、その鍵となるのが、貂蝉の存在だった。


「…貂蝉は、この国を救うため、その身を犠牲にする覚悟を決めておる」


王允の言葉は重く、そこには国を思う苦渋の決断が滲み出ていた。

的斗は息をのんだ。あの美しい女性が、そんな過酷な運命を背負わされようとしている。


そこに、静かに貂蝉が入ってきた。彼女の表情は落ち着いていたが、その瞳の奥には、揺るぎない決意の色が宿っていた。


「この身、漢室のため、そして民のためならば、喜んで捧げましょう」


その言葉は、か細くも、凛としていた。

的斗は、王允の覚悟と、貂蝉の悲壮な決意を目の当たりにし、胸が締め付けられるような思いだった。


(こんなことが…許されていいのか…?でも、他に方法がないのか…?ゲームの知識では、この策が成功することを知っている。しかし、これはゲームじゃない。目の前にいるのは、感情を持つ一人の人間だ。彼女に、どれほどの苦痛を強いることになるのか…この歴史は、俺が変えられるかもしれない…)


「王允様、貂蝉様…俺に、何かできることはありませんか?」


的斗は、思わずそう口にしていた。彼の声は、自分でも驚くほど震えていた。これは、単なる建前ではない。彼の心の底からの、純粋な叫びだった。

王允は、的斗の言葉を待っていたかのように頷いた。


「うむ。趙子龍殿には、貂蝉の身辺を警護し、我が意を呂布や董卓に伝える役目を担ってほしい。そして何より、万が一の際には、貂蝉を必ず守り抜いてもらいたい。お主のその『龍の力』ならば、それが可能やもしれぬ」


「…分かりました。この趙子龍、命に代えても、貂蝉様をお守りいたします!」

的斗は、力強くそう誓った。その瞳には、貂蝉への強い想いと、この国の未来を憂う気持ち、そして自らの力で歴史を動かさんとする、確かな決意が燃えていた。

貂蝉は、そんな的斗の姿を、感謝と、そしてほのかな期待を込めた眼差しで見つめていた。

運命の歯車が、今、大きく動き出そうとしていた。

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