-第六話:集落-
どれくらい歩かされたのだろう。体感では十分ほどだが、縄で縛られ緊張した状態では、時間の感覚があてにならない。やがて視界が開け、周囲の様子から察するに、どうやら彼らの集落に到着したようだった。意外にも、門や柵といった防衛設備らしきものは見当たらない。学校のグラウンドほどの広さはあろうかという開けた空間を中心に、高床式の家屋が円を描くように立ち並んでいる。
家屋はすべて木造で、恐らくこの一帯に群生している巨木から切り出された角材を用いて組まれているのだろう。柱や床板は太く、簡素ながらも頑丈そうだ。屋根には、防水性がありそうな巨大な葉が何層にも重ねられ、草葺きのように用いられている。どの家にもドアや窓といった区切りはなく、壁も腰の高さほどしかない。外と内の境界が曖昧で、風通しの良さを最優先した構造に見える。高温多湿な環境に適応した住居なのだろう。
円の中央部分は自然と広場になっており、白い肌の子供たちが裸足で走り回っている。甲高い笑い声が響き、先ほどまでの緊迫した状況が嘘のようだ。周囲には女性らしき人影も見える。彼女たちもまた、白い肌と髪、そして墨のような黒い瞳をしている。ただ、一つ奇妙な点があった。中年程度に見える者は何人もいるのに、老人らしき姿がまるで見当たらないのだ。この集落には、もしかして姨捨山のような文化でもあるのだろうか。あるいは、寿命そのものが短い種族なのか。考えれば考えるほど、不安が増していく。
集落の人々は、連行される私を遠巻きに、しかし明らかに怪訝そうな目で見つめている。好奇心と警戒、そして微かな嫌悪が入り混じった視線だ。
そのまま私は広場の中央まで引き立てられ、乱暴に地面へと跪かされた。視線を上げると、そこへ一際目立つ人物が近づいてくる。
顎髭を豊かに蓄え、恰幅の良い中年の男だ。装飾の施された首飾りを下げ、他よりも質の良さそうな布を身に纏っている。どう見ても、この集落の指導者的存在だろう。その背後には、従者と思しき若い男が三人控えている。
私を連れてきた男の一人が、一歩前に出て顎髭の男に向かって言葉を発した。
「He kanaka ʻē ʻo ia i loaʻa iaʻu ma ka muliwai ʻo Wainu. ʻIke ʻia ʻaʻole hiki iaʻu ke kamaʻilio. A uliuli nā maka o kēia kanaka.」
それを聞いた顎髭の男は、じっと私を観察するように目を細め、しばし考え込む素振りを見せた後、低い声で答えた。
「Manaʻo wau ua kipaku ʻia ʻo ia mai ka ʻohana ma muli o kona mau maka. E hāʻawi aku kākou i nā luna e hele mai i kauhale i kēia manawa aʻe. A hiki i kēlā manawa, mālama iā ia i loko o ka hale paʻahao like me ia.」
会話の内容は相変わらず理解できないが、少なくとも歓迎されていないことだけは、はっきりと伝わってきた。
その後、私は家屋の円環の外側に建てられた、高床式の蔵のような建物へと連れていかれた。住居とは違い、開口部は小さく、内部は暗そうだ。
中へ押し込まれると、外から重い音を立てて扉が閉められ、そのまま鍵代わりの木材が打ち付けられた。
「あぁ、クソ!!最悪だ…。」
吐き捨てるように呟きながら、私は苛立ちに任せて蔵の扉を拳で叩いた。鈍い音が虚しく響くだけで、外からの反応はない。
「ʻO wai ʻoe?」
その時、背後からか細い声が聞こえた。驚いて振り返ると、薄暗い蔵の隅に、一人の少年が身を縮めるように蹲っていた。
白い髪は手入れされずにボサボサに伸び、泥と汗で汚れている。着ている服もボロボロで、ところどころ破れていた。そこから覗く四肢は異様なほど痩せ細り、まるで骨に皮を被せただけのようだ。
蔵の中には、汗と糞尿が混じった強烈な臭いがこもっており、思わずむせ返りそうになる。
そして――彼が恐る恐るこちらを見上げた瞬間、私は息を呑んだ。
鈍く光る少年の紅い瞳と目が合った。




