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異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第四章:世界樹「太陽の冠花」
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-第五十一話: 光冠核と帰還-

 地底の巣穴の奥深く、俺たちはついにそれを見つけた。


 「……これは…、“太陽の冠花”……?」


 ラウウルが思わず息を呑む。暗く崩れかけた洞窟の中心に、「太陽の冠花」の核らしきものが静かに横たわっていた。花の根底にあるべきそれは、今や褐色に干からび、周囲の岩壁すらも黒く煤けている。


 地上に咲き誇った冠花の、最後の名残──その中心であったもの。今はただ、瘴気に侵され抜け殻のように力を失っていた。


 「まるで、焼けた種子みたいだな……。」


 ヘレスがそっと囁くように言った。鱗の指先が慎重に触れたその瞬間、微かに魔力の残滓が脈打つように感じられたが、それもすぐに消えた。


 「完全に枯れてはいない……けど、再生は難しそうだな。」


 ラウウルに核の魔力を見てもらう。


 「かすかに光っているけど…、普通の植物の光よりだいぶ弱いよ。」


 「やっぱり、……鼠群に中枢が破壊されたせいで、循環機能も断たれているんだ……。」


 俺は視線を巡らせた。洞窟の壁に沿って、無数の小さな穴が空いている。あれが、鼠群が通った跡だろう。集団で根茎部に食らいついたのだ。


 「ここに長居するのは危険だな。瘴気が微かに残っている。」


 ヘレスが鋭く空気の流れを嗅ぎ取って言った。彼女の竜族の感覚は俺たちよりもずっと敏感だ。


 「……サンプルだけ採って、戻ろう。ここには、何か残された痕跡がある。後で改めて解析しよう。」


 俺は光冠核からかろうじて剥がれ落ちずに残っていた、変質した花弁の繊維片をいくつか採取した。もしかしたら、この変質した細胞構造の中に、再生への鍵があるかもしれない。


 「……帰ろう、カウパへ。」


 俺たちは重い空気を背に、地上への道を引き返した。


***


 カウパに戻るまでの空の旅路、俺たちはほとんど口を開かなかった。


 地上に昇る太陽は二つとも穏やかだったが、俺たちの心の中には陰った光冠核の残影が居座り続けていた。


 ──もしも、あれが再生できなかったら。


 ──この星の魔力循環は、本当に元に戻せるのだろうか。


 カウパに戻ってから、俺たちはまずシェル=ナウに現地調査の報告を伝えた。彼は深くうなずき、商会の奥に案内してくれた。


 再び向かったのはザリク商会の応接室。静かに香が焚かれた部屋で、老猫の商会長が俺たちを迎える。


 「……これが、かつての光冠核の一部だ。」


 俺は丁寧に包んでいた繊維と土壌のサンプルを机の上に広げた。ザリクは慎重にそれを観察し、しばし沈黙したあとに静かに言葉を発した。


 「……本当に、これが“太陽の花冠”の核であったものですか……。」


 「俺たちは、再生の可能性を探るつもりだ。“母なる巨木”のときのように。」


 俺の言葉に、ザリクは小さくうなずいた。


 「ならば、協力を惜しみません。……」


 彼の視線が鋭くなった。


 「……冠花の再生。それは私たち猫人族にとって、かつての祈りそのものです。」


 「“再生者”の皆さん。どうかよろしくお願いいたします。」


 カウパの民の意志が、俺たちの旅に新たな力を与える。


 「太陽の花は、再び咲かせてみせる。」


 俺はそう、静かに誓った。


 その翌日。シェル=ナウが死黒病を発症した。


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