-第五話:緊張と連行-
弓矢を構えた10人程の集団が川の岸辺からこちらの様子を伺っている。明らかに警戒されている。どうやら知らない人間との遭遇が日常的にあるわけではないのだろう。それか、俺が全裸だから不審者だと思われているのだろうか?水浴び中ってことでなんとかならないかな?
「Mai neʻe! No wai ʻoe ka ʻohana?」
まぁ、そうだろうとは思っていたが全く何を言っているか分からない。地球でさえ多様な言語で溢れているわけだし、ましてや違う惑星で日本語や英語を話している方がよっぽど不自然で恐ろしいかもしれない。これはコミュニケーションをとるのに苦労しそうだ。取り敢えず両手を挙げておく。これで敵意がないことが伝わるかは分からないが、何もしないよりはいいだろう。
「Mai neʻe!! No wai ʻoe ka ʻohana??」
さっきよりも語気が強まった気がする。すみません、何を言っているか分からないんです。この状況で日本語や英語を話すのは恐らく愚策だろうし、ここは話せない設定で行くか。
そのまま何も言わずじっとしていると、彼らが弓を構えたまま川に入り俺を取り囲んだ。そして距離を詰められ、俺は後ろ手に縄で拘束され何処かへ連れていかれ始めた。
流石にこのまま殺されたりしないよな?俺は内心めちゃくちゃ焦っていた。道中出来るだけ無害そうな笑顔を彼らに振り撒いたが。彼らは仲間内で何か言い合ったあと一斉に笑い出した。何か馬鹿にされているように感じた。
近くで顔を見てわかったが、地球の常識に照らし合わせるなら彼らは見た目からして全員男性だ。顔は色こそ白いものの、歴史の教科書で見た縄文人のように濃い目の顔のアジア人といった感じだ。髪は長く伸ばし頭の上でお団子結びみたいにされている。ここまでは俺と彼らの見た目に大差はないだろう。だが、一つだけ決定的に違う部分がある。瞳の色だ。彼らの瞳の色はまさに日本人のような黒色であった。
この場所の夜の時間は6時間しかないし、光量も強いはずだから瞳の色が黒いことは不自然ではない。しかし、そうだとするとメラニン色素自体は生成できるはずで、尚更紫外線の影響をもろに受ける白い肌や毛の説明がつかない。
そんなことを考える俺をよそに彼らは上機嫌で民族歌謡らしき歌を歌っていた。