-第四十九話:雷閃の理と再構築-
鼠たちは奔流のごとく巣穴の壁から這い出し、黒い波となって押し寄せてきた。天井、壁、床、そのすべてが蠢き、数で圧倒しようと迫ってくる。
「囲まれた……!」
ラウウルが光種子を掲げるが、その光を呑み込むように瘴気が渦巻き、周囲の視界すら曖昧になる。
「このままじゃ……っ!」
シェル=ナウの矢が宙を裂き、ヘレスの雷魔法が火花を散らして鼠たちを弾き飛ばす。だが、倒しても倒しても湧いてくる。
俺は焦りを抑え、呼吸を整えた。逃げ道も、後退もできない。ここで叩かなければ、“女王”には辿り着けない。
「ヘレス!」俺は叫ぶ。「お前たちの雷魔法の発動方法を、教えてくれ!」
「……は?」
「早く!」
「魔力で空気中の“雷の粒”を一点に集めるイメージをして、活性化させて放電する……それだけだ!」
“雷の粒”。やはり、雷魔法は空気中の電子を操作してエネルギーを蓄積し、放出するもの。だが、それは一点集中の直線的な技だ。大量の敵を同時に捉えるには向いていない。
──だから、俺はそれを“再構築”する。空気は、電子の海だ。だったら……海流のように“渦”を作る。
俺は魔力を全身に巡らせ、風の魔法で空気の流れを制御しながら、電子の濃度が局所的に偏るよう渦巻き状に回転させていく。重ねて、電子の動きを制御する。
“竜人族飛翔種相伝雷魔法 + ラニ族相伝風魔法 改”
蒼白い火花が俺の手のひらに散り、髪が逆立つ。
「雷輪陣!」
俺たちの周囲に、輪のように電流が走る。電子が回転を始め、やがて輪郭を持ったエネルギーの渦となる。瞬間、重力を無視したような炸裂音とともに、円状の放電が四方に広がった。
鼠たちの身体が宙に跳ね、バチバチと爆ぜる音がこだまする。瘴気すら裂く雷光が、一瞬だけ洞窟の内部を白く照らし出す。
「うわ……!」ラウウルが目を細めた。
「これは一体……」ヘレスが言う。
「電子は流すだけじゃなく、回せる。循環させれば、複数方向への放電が可能になるはずだって、思ったんだ。」
鼠たちの群れはその衝撃で一時的に後退し、道が開かれた。
「いまだ、行くぞ!」
俺たちはその隙を縫って、“女王”のもとへと突進する。黒い腫瘍のような塊の中に、脈動する核が見える。全身を瘴気の膜に覆われた女王鼠が、獣とは思えぬ知性の光をその瞳に灯していた。




