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異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第四章:世界樹「太陽の冠花」
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-第四十八話:鼠狩りと風の策略-

 鼻をつく悪臭が漂い、地中からかすかに瘴気が漏れ出している。俺は巣の穴に近づき魔力を集めて周辺の空気に纏わせる。


 「巣の中は呼吸が浅い環境になっている。酸素が薄く、二酸化炭素が濃い。つまり、鼠たちも呼吸で活動しているってことだ。」


 「それがどうした?」とヘレス。


 「風魔法で二酸化炭素を操作し、巣の中に送り込む空気を“毒”に変える。」


 俺は深く息を吸い込み、右手を掲げる。

 

 “ラニ族相伝風魔法 改”


 「毒の風(ポイズン・ウィンド)


 風の流れに乗せて、分子レベルで変化を加える。酸素と炭素を結びつけ、二酸化炭素から一酸化炭素を作り出す。俺の魔力が風の層に染みこみ、周囲の空気が静かに変質していく。


 「一酸化炭素……それは毒なの?」ラウウルが警戒する。


 「そう。人も獣も、吸い込めば血液が酸素を運べなくなって死に至る。でも、においも色もない。気づかれずに、静かに広がる毒だ。」


 風の魔法で生成した気体を、俺は風とともに巣穴に送り込んでいく。静かで、けれど殺意に満ちた空気が地下に浸透していく。


 巣穴の奥へと毒の風を送り続けると、やがて地下から異様な鳴き声が上がり始めた。甲高く、耳障りで、獣とも虫ともつかぬ不快な音。何百、何千という鼠たちが苦悶の声を上げているのだ。


 「……効いているな。」とヘレスが短く言った。


 「でも、全部を倒すには足りない。これはあくまで、前哨戦だ。」


 「どうしたら全部倒せるかな?」ラウウルが尋ねる。


 「蟻には女王蟻がいるように、どんな動物でも群体である以上は核になる存在がいるはず。魔力を吸い、増殖を指揮する母体だ。そいつを倒さない限り、この村の瘴気も、感染も止まらない。」


 俺たちは準備を整え、巣穴に入ることを決めた。俺は送り込んだ一酸化炭素を追い出すために新鮮な空気を風魔法で巣に送り込む。シェル=ナウは短弓を手に取り、背負っていた麻袋の中から、「光種子」を取り出す。淡い光を放つその種子は、暗闇の中でも一時的に視界を確保するための道具になる。


 「できるだけ、音は出さないように。鼠は音にも反応する。」シェル=ナウはそう言いながらそれぞれに、光種子を渡した。


 薄暗い巣穴に足を踏み入れると、すぐに空気が変わった。ねっとりとした湿気、動物の体臭と腐敗の混ざった空気。そして何よりも、瘴気が立ち込めている。


 鼻腔を突く瘴気に、思わず呼吸を浅くする。だが、それでも完全には防げない。

 俺たちはそれぞれ、濡らした布で口元を覆っていたが、この瘴気がただの腐臭ではないことを、体は本能的に察していた。


 「……この匂い、やっぱり普通じゃない」


 ラウウルが眉をひそめ、足を止める。彼の紅い瞳が周囲を鋭く走査し、天井付近に蠢く影に一瞬止まった。


 「動いた……!」


 矢のように言葉が放たれ、ほぼ同時に、シェル=ナウが腕を振った。


 ヒュッ──


 音を立てずに放たれた矢が、天井の影を貫く。鈍い音とともに、鼠とは思えぬ大きさの異形が床に転がった。全身を黒い瘴気に包んだそれは、目だけが光を反射して赤黒く光っていた。


 「でか……」ラウウルが小さくうめく。「あれ、本当に鼠なのか?」


 俺は倒れた個体の体に手をかざし、残留魔力を探った。


 「……やはり、瘴気を介して魔力を蓄えているんだ。肉体が異様に膨張しているのも、それが原因かもな。」


 「魔力で強化された鼠、か。悪趣味な冗談だ。」

 ヘレスの声が低く響く。


 俺たちは慎重に進みながら、巣の奥へと向かう。光種子の淡い光が壁の苔と鼠たちの死骸を照らし出し、不快な湿り気のある音が足元から響く。


 やがて、巣穴の道は緩やかに下り坂になり、空気はさらに重く、濃密になっていく。


 「……見えてきた。」

 ヘレスが先に立ち、呟くように言った。


 視界の奥に、不自然な空間の広がりが見えた。洞窟状の空間の中心に、まるで腫瘍のように膨れ上がった黒い塊がうごめいていた。

 その中心には、明らかに他の個体とは異なる、巨大な鼠が鎮座していた。背丈は大人の人間ほどもあり、全身を覆う瘴気が渦のように周囲に広がっている。


 「……あれが、核だ。」俺は小声で言った。「“女王”かもしれない。」


 「風で攻撃するのは?」ラウウルが問う。


 この密閉空間で火や水の魔法を使うのは危険だ。風魔法で攻撃するか、ヘレスに雷魔法で攻撃してもうか、シェル=ナウの弓か…。


 そんなことを考えていると、“女王”が突如として金切り声を上げた。すると、女王の奥の複数の穴から大量の鼠が湧き出てきて、女王をと俺たちを取り囲んだ。

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