-第四十六話:死黒病対策会議-
……感染後、皮膚の一部が黒ずみ、やがて壊死。進行は早く、三日もすれば死に至る──。
ザリクの言葉を繰り返すように思い出しながら、俺は静かに拳を握った。
この症状、そして鼠──
あまりにも、地球でのある疫病に似すぎている。
「……ペスト、か」
ラウウルとヘレスが俺のつぶやきに顔を上げた。俺はゆっくりと説明を始めた。
「俺の住んでいた地域で……『黒死病』って呼ばれた伝染病があった。何百年も前に流行して、多くの人が死んだ。原因は……“鼠”が持っていた“ノミ”、そしてそのノミに潜んでいた“ペスト菌”だった。」
「ノミ?ペスト菌?」とラウウルが眉を寄せる。
「そう。ノミは小さな吸血虫だ。そしてペスト菌は目に見えないほど小さな生き物で、他の鼠の体の中で増殖して悪さをする。鼠の血を吸ったノミが人間を噛むと、菌が移って発病する。」
「つまり……鼠が直接人を襲わなくても、媒介を通して病が広がるのか。」とヘレスが低くつぶやいた。
俺はうなずいた。
「そして……今ここで起きている“死黒病”にも、共通点が多い。鼠が異様な数で群れをなしていて、瘴気をまき散らしながら植物や人に影響を与える。瘴気自体が病原体って可能性もあるが、もしかすると……“何か別のもの”が媒介しているかもしれない。」
「例えば……瘴気に潜む微細な魔力寄生体?」ヘレスの声が静かに響く。
この世界では、魔力を通じて感染するものもあり得るのかもしれない。
俺は思わず息を呑んだ。
――そうだ。魔力のある世界で、病原体が“瘴気に感応する”としたら?
「ならば」と、ザリクが低く口を開いた。「感染を防ぐには……?」
「接触を避けること。そして、媒介となる存在がいるなら、それを遮断することだ。」
俺は言葉を選びながら続けた。
「まず、感染源となっている鼠そのもの、あるいはその瘴気に近づかないこと。死花平原周辺の封鎖と、鼠の流入を防ぐ遮断線の設置。そして、もし瘴気が媒介物だと仮定するなら、防瘴気用のマスクや布での防御も有効な可能性がある。」
「具体的には?」
「布を湿らせ、鼻と口を覆う。それだけでも瘴気を吸い込む量は減らせるはずだ。」
ザリクが静かにうなずいた。
「……なるほど。布マスクも配布できるはずです。問題は……鼠の動きを止められるか、ですが……。」
「まずは、鼠の発生源を突き止め、数を減らすしかないな。いずれあの“死花平原”へ踏み込む必要があるだろう。けど、今はまだ情報が足りない。鼠たちがどのルートを通って街に近づいているかを確かめたい。」
ラウウルが頷いた。「だったら……この街の外縁部に行ってみよう。鼠が現れた村を調べるんだ。」
「……危険だぞ。」ヘレスが低く警告する。「死黒病にかかれば、ただじゃ済まない……。」
「そのために来たんだ、ヘレス」俺は小さく笑った。「犠牲を出さずに、この世界を守る方法を探すために。」
ザリクは立ち上がった。そして、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。お三方が来てくれて、本当に心強い。調査には案内をつけましょう。シェル=ナウ、頼めるか?」
「もちろんです、会長。」猫人族の青年はにやりと笑った。「鼠狩りは慣れているからね。瘴気相手でも逃げ足には自信あるよ。」
俺たちは顔を見合わせ、うなずいた。死花平原の謎、鼠の正体、そして死黒病の真の原因――。すべてを明らかにするために。




