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異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第四章:世界樹「太陽の冠花」
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-第四十四話:交易都市「カウパ」-

 ヘレスの隠れ家を後にした俺たちは再び交易都市「カウパ」を目指して北西へ空中を移動していた。ハナウアからカウパを目指したときとは、色んなことが変わっていた。

 

 まず、人数が違う。俺たちの旅の仲間にエメラルド色の鱗を持つ竜人族の飛行種の少女−ヘレスが加わった。少女と言っても500年生きる竜人族の感覚であって60年生きている。


 それに、俺たちは竜人族の秘密を知った。300年前に現れた「四つの災獣」はこの星の各地にある「四つの世界樹」を枯らし、この星の魔力循環システムを破綻させた。空気中に魔力の満ちた状態で進化したこの星の生物の多くは二つの恒星から降り注ぐ有害な光への耐性がない。大量絶滅の事態を避けるために竜人族は魔力の消費を抑えるために、多種族の「間引き」を選択した。


 彼ら竜人族の選択はこの星の生物の維持のためには必要なことではあったのだろうが、あまりに多くの犠牲を伴った。この星の真実を知った俺たちは犠牲を伴わずにこの星を救う道を選んだ。「炎の龍」を倒し「母なる巨木」を再生させたように、残り三つの災獣の討伐及び、世界樹の再生を成し遂げてみせる。それがこの世界に飛ばされた意味なのかもしれない。


 とにかく、カウパで残りの災獣か世界樹の情報を手に入れなければならない。


 カウパの輪郭が、遥か地平に霞んで見えてきた。


 猫人族が築いた交易都市──草原と河川の交差点に栄える都市国家。空から見下ろすと、放射状に広がる街路と、複数の市場を囲むように立ち並ぶ石造りと木造の建築群が見て取れた。風に乗って香辛料と干し肉の匂いが流れてくる。


 俺たちは人目を避けるため、都市の南東側にある草地へと降りた。少し離れた森の木陰に、ヘレスも優雅に滑空して降り立つ。


 「……ここが、カウパか。」


 ラウウルがわくわくとした表情でつぶやく。彼にとっては初めての大都市だ。


 「他種族との交易が盛んな街だから、俺たちみたいな旅人もそれほど珍しくは見られないだろう。ところでヘレスも入れるのか?」


 俺はヘレスに尋ねた。他種族を襲撃してきた過去をもつ竜人族が普通に受け入れてもらえるものなのだろうか。


 「種族間の争い事を持ち込まないのがこの街のルールだから、入れては貰えるはずだよ。もちろん良い顔はされないだろうけどね…。」


 ヘレスが自嘲気味に答えた。


 「そうか…。あまり長居はしない方が良さそうだな。何かあればすぐに街を出よう。」


 俺たちは「シェル=ナウ」という名の猫人族の案内人と接触する予定だった。彼は猿人族との交易路で何度も往復している草原の狩人で、信用できる人物だとミーネが言っていた。


 カウパの街門に近づくと、猫人族の衛兵たちが手際よく来訪者を誘導していた。猫人族らしい俊敏な動きと、柔らかいながらも要点を押さえた口調が印象的だった。流暢な猿人語だ。


「三名、入城だな。目的は?」


「旅の途中で立ち寄っただけだ。水と情報が必要だ。」


 俺がそう答えると、衛兵はちらりとヘレスを見やり、わずかに目を細めた。


「竜人族か……珍しい。いや、失礼。通っていい。ただし、都市内での戦闘行為は禁止されている。特に他種族との揉め事は勘弁してくれ。」


 俺たちは門をくぐり、にぎわう市場へと歩を進めた。


 街の中は喧噪と活気に満ちていた。猿人族の薬草売り、狼人族の武具職人たちが軒を連ね、猫人族の通訳たちが忙しく行き交っている。その中心にある大きな噴水の傍で、俺たちは目当ての人物を見つけた。


 「やあ、待っていたよ。君たちが“巨木の再生者”だね?」


 俊敏な動きで近づいてきた猫人族の青年が声をかけてきた。灰褐色の毛並みに、草色の瞳。腰には弓と小剣を携えている。

 

 「君が……シェル=ナウ?」


 「その通り。君たちが来るって、ハナウアの語り部から聞いていた」


 ミーネか……。俺たちの旅の行方を読んで、先回りしてくれていたらしい。


 「訳あって到着が遅くなった。申し訳ない。」


 「いや普通よりかなり早いよ。ひとまず、ザリク商会長が君たちに会いたがっている。話を聞きたいそうだ。」


「ザリク……?」


「この街の商会長さ。商会は独自の情報網を持っている。彼なら君たちが知りたい情報を持っているかもしれない。」


 俺はラウウルとヘレスに視線を送る。ふたりとも無言でうなずいた。


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