-第四十二話: 落日の爆炎-
俺とジルは背中を合わせ、ヴォルガがどこから来ても良いように備えていた。空気は熱を帯び、地はすでに焼け爛れている。
「左! 蹴りが来る!」
ジルの警告に俺は反応し、すかさず空気の盾を作る。その場で踏ん張るがヴォルガの蹴りの重さに耐えきれずに吹き飛ぶ。
「やるな、だが——!」
ジルが飛翔し、そのまま俺たちに浴びせたのと同じ電撃を放つ。しかし、ヴォルガの背から伸びた赤黒い炎がまるで意志を持つかのようにそれを弾いた。
「甘いな、ジル=エグニス」
ヴォルガの声は低く、しかし地の底から響くような怒りと冷徹を孕んでいた。彼の手が宙を切ると、火焔が螺旋を描きながら放たれる。ジルはそれを身を挺して防いだ。
「くっ……!」
その隙を突いて、ヴォルガは右手から強靭な爪を生成し、ジルに向かって突き出した。
「ジル、下がれ!」
俺は叫びながら、風の盾を張るために走るが…、——間に合わなかった。
鋭爪がジルの腹部を貫いた瞬間、空間が一瞬凍りついた。
「……っ、が……」
血が散る。ジルは苦悶の表情を浮かべ、膝をつく。その身体がふらつき、崩れるように地に伏せた。
「ジル!!」
俺はすぐに駆け寄ろうとするが、ヴォルガがそれを許さない。爆発が連続して起こり、周囲を灼熱の壁が包んだ。
この狼は一体何種類の魔法が使えるんだ。しかもどれも圧倒的に殺傷能力が高い…。
俺は必死に魔法を重ねる。「酸素、窒素、冷却気流——冷却バリア!」風魔法で分子操作し防御を試みるが、炎はそれを焼き切ろうとしていた。
「分析だけでは勝てぬぞ、猿人!」
ヴォルガが迫る。圧倒的な魔法力、技術、そして戦闘経験。俺はその一挙手一投足すらも解析しようと頭を回転させるが、体はすでに限界に近かった。
「蒼!!」
そのとき、遠くでラウウルの叫びが響く。彼の手には風の矢——ラニ族の風魔法を応用した一矢が放たれる。だがヴォルガはそれを片手で弾いた。
「足掻きに過ぎん。」
ラウウルの体に、ヴォルガの視線が向けられる。炎が指先に集い始めた。
「やめろ!」
俺は必死に叫ぶ。そしてそのとき——
空が、割れた。
轟音とともに、天から蒼い雷撃が落ちる。重力が一瞬、逆転したかのような錯覚ののち、現れたのは一人の影——
「……ヘレス!」
エメラルドの翼が翻り、嵐のような風圧が戦場を吹き飛ばした。ヴォルガの火炎を消し飛ばし、彼の足元を崩す。すぐに俺とラウウルのもとに降り立ち、両腕を広げた。
「時間がない。下がれ!」
俺とラウウルはヘレスに抱えられ、空へと飛翔した。地上に残されたのは、炎と、ジルの亡骸だった。
「ジル……!」
俺は叫んだが、その声は風に呑まれた。上空から見下ろす地上は、まるで地獄のように赤く染まっていた。




