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異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第三章:竜人族の秘密
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-第四十一話:黒き断罪の牙-

 それは、霧の静寂を裂く悲鳴から始まった。


 蒼とラウウルが、竜人族との不可解な対話に思考を巡らせていた夜だった。ヴァース・ノガ=カリユの空は暗く、風一つ吹かぬ静寂の中、突然轟くような咆哮が集落を包んだ。


 「――っ!? いまの、獣の声……?」


 俺が反応するよりも早く、巣殻(スクタ)の天井が赤く染まる。警戒の鐘も鳴らぬまま、集落の一角から黒煙が上がった。


 「蒼……いやな感じがする。強い殺気、“炎の龍”と同じような……本能的な、憎しみ。」


 ラウウルが俺の腕を掴む。その手のひらは汗ばみ、震えていた。


 次の瞬間、激しい地響きと共に、警備の竜人たちの悲鳴が響いた。


 「Es ist ein Eindringling! Hier kommt er!」――侵入者だッ! 奴が来た!


 俺とラウウルは咄嗟に外へと飛び出す。外気に触れると、焦げた空気と血の匂いが鼻を突いた。霧をかき分けて現れたその影――全身を黒い毛で覆い、鋼のような肉体と獣の牙を持つ狼人だった。


 だが、彼の姿はただの狼人ではない。背中に刻まれた無数の傷痕、赤黒く染まった両手、そして――その瞳は、絶望の色そのものだった。


 「Il mio gregge è stato distrutto da ...... vostri tubi di ferro. Tutti i latrati e le grida dei cuccioli sono stati ...... spenti dalle palle di ferro.」――オレの群れは……貴様らの鉄筒で、破壊された。吠える声も、子の鳴き声も、すべて……鉄の球で、消えた。


 低く唸るような声。その声音には怒りでもなく、哀しみでもなく、ただ“断罪”のみが宿っていた。


 「Io sono “Volga-Nord”. Sono il capo che un tempo guidava il clan Zanna del Nord. Ora sono solo un condannato.」――我は“ヴォルガ=ノード”。かつて北の牙群を率いた長。今はただの――断罪者だ。


 彼はゆっくりと前進し、襲われた巣殻のひとつに手をかざす。その瞬間、黒き魔気がうねり、空間を引き裂くように爆発が起こった。蒼は咄嗟に風の盾を展開したが、それでも爆風に押されて数歩下がる。


 「黒い光だ……“炎の龍”と同じ……黒い魔力!?」


 ラウウルが呻くように呟く。通常の魔力とは異なる災獣が纏っていた黒い魔力。“母なる巨木”の循環を妨げた元凶。


 竜人たちが応戦を試みるも、ヴォルガの動きは尋常ではなかった。一閃。鉤爪が風を裂き、二体の飛翔竜人が空中で血煙となって弾けた。


 「止めろ! これ以上やれば、集落が……!」


 俺は必死に叫ぶが、彼の耳に届くはずもない。


 「猿人族か?……まぁ、なんでも良い。竜人族を、根絶するまで、我は止まらぬ……」


 その刹那、蒼の眼前に迫る黒影――咄嗟に腕を交差して防御するも、鈍い衝撃が胸を打ち、吹き飛ばされる。地面に転がる中、血の味が口に広がった。


 「蒼!」


 ラウウルが駆け寄ろうとするが、それよりも早く、ヴォルガの足が彼の目の前に着地する。睨み下ろすように少年を見据える双眸。


 「小さき者よ。お前にも……竜の血は流れているのか?」


 その声に、ラウウルは強く首を横に振った。


 「違う。僕は――猿人族だ! 彼らとは違う!」


 だがヴォルガの瞳には、もはや理がなかった。すべてを呑み込む黒い業火のような意志だけが、彼を動かしていた。


 「関係ない……お前が“ここにいる”ことが、すでに罪だ。」


 その刹那、ラウウルの全身に危機の直感が走る。逃げられない――殺される!


 ――その時だった。


 「Smettila, Volga.」――やめろ、ヴォルガ。


 鋭く割って入る声。雷のように響き渡ったその一言に、黒き狼人の動きが一瞬止まる。


 霧を裂いて現れたのは、金の瞳と銀の鎧を纏った竜人。中心核(ケヌル)の内部から、雷光を纏いし者――ジル=エグニスだった。


 「この者たちは、我らとは異なる。罪を問うならば、我が身一つにせよ。」


 「貴様か……ジル=エグニス。」


 ヴォルガの声が、静かに怒気を孕む。


 「我が子を奪った雷の竜よ。今日こそ貴様を屠る。」


 ヴォルガの瞳が黒く輝く。


 「三年前。カウパ西の渓谷で、我が群れは、我が娘と我が妻は……貴様ら龍人族に殺された。貴様が命じたのだ。“魔力を持つものは全て排除せよ”とな。」


 静寂が走る。


 ジル=エグニスは言葉を失ったように沈黙した。


 「……確かに、命じた。言い逃れをするつもりはない……。それが最善だった…。」


 「貴様の“最善”で、どれほどの命が消えたか!」


 叫びと共に、ヴォルガの魔力が爆発する。黒い稲妻のような魔力が空を覆い、ヴァース・ノガ=カリユ全体が軋んだ。


 俺は、立ち上がりながら唇を噛みしめた。


 「……これは、“復讐”なんだ……だけど、それでも――このままじゃ、全部が無意味になる……!」


 黒き復讐者の牙が、雷の竜人に向かって走る。


 この夜、真に“罪”を背負うのは誰か。


 霧と炎が交差する中、俺はひとり、風を纏って立ち上がった。


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